著者
新山王 政和
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.1-12, 2004 (Released:2017-08-08)
参考文献数
22

筆者はこれまでタッピングやマーチングステップを対象にした先行研究を通じて, 音と身体動作の関係を拍点と動作ポイントの二つの要素に分離して分析してきた。本研究では小・中学校の教師に必要性とされる基礎的な指揮法を対象にして, 指揮者が示した打点 (beat-point) を動作ポイントとし, これと拍点との間に生じたずれをどのように処理するのかを手掛かりにして指揮熟達者と指揮初心者の違いを分析した。具体的にはメトロノーム音で代替した拍点に指揮者がどのような反応を見せるのか, 打点タイミングの捉え方の違いを整理して主に次の2点を確認した。1. 熟達者の指揮動作タイミングは拍点よりも指揮の打点が先行する/初心者の指揮動作タイミングは拍点と指揮の打点がほぼ一致する。2. 熟達者の指揮動作加速度は上げ動作の方が大きい/初心者の指揮動作加速度は下げ動作の方が大きい。しかしこの初心者の特徴とは, 拍点に指揮の打点を一致させるというこれまで一般的に言われてきた基礎指揮法の基本原則に近い。この結果に基づき新たな研究課題を次の2点に整理した。1. 拍点を動作の確認点や終止点とする考え方を改め, 拍点を指揮動作の開始点と意識する。2. 拍点めざして指揮棒を振り下ろすのではなく, 拍点で指揮動作が始まるようにする。
著者
村尾 忠廣 新美 成二 新山王 政和 南 曜子
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、裏声を視点としてジェンダーの問題を学際的に問い直そうとしたものである。以下、今回の研究で明らかになったことについて述べる。1)男性の歌声が80年代後半から急激に高くなってきていることを、日本の歌謡曲の音域のデータを解析して明らかにしたこと。2)男性の高音化と女性化、ユニセックス化がリンクしていたこと。3)男性の高音化には、裏声の活用が関わっていること。4)裏声と頭声、ファルセットなどの用語を歴史的、音声生理学的に整理、解明をはかったこと。5)カウンターテナー、カストラートなど西洋音楽における男性ファルセットを歴史的、社会的にとらえなおしたこと。6)フォーマルとインフォーマルな場では、日本の女性が今なお声のピッチを区別し、公の場所でキーを上げて女らしさを見せようとする傾向にあること。7)学校の音楽教育においては、声による芸術が混声合唱中心となっており、そのため男性が裏声を使うことができない状態にあること。8)平成13年に、国際シンポジウム「International Symposium on Falsetto and Gender」を開催したこと。9)国際シンポジウムの開催によって、日本で現在おこっている声とジェンダー意識の変化が世界的に共通していること、また、その中で何が日本で特に顕著な傾向であるかを明らかにしたこと。以上のように今回の研究は、多分野にわたり、数多くの副次的テーマが広がっている。そのため、鳥瞰図的な研究成果になった嫌いはあるものの、裏声とジェンダーの関係を包括的に扱った最初の研究と言えるだろう。
著者
新山王 政和
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-9, 2008 (Released:2017-08-08)
参考文献数
14

これまで音高に問題のある歌唱を扱った研究では, 100セント以上ピッチが外れた事例を取り上げる場合が多かった。これとは異なり筆者の一連の研究では50セント程度以内の微小なピッチ差で低く歌い続けてしまう現象 (以下, フラットシンギングと記述) に着目し, 他の先行研究でも報告されている「提示に用いる音 (以下, 提示音と記述) の種類によって声の再生ピッチが異なる現象」に関して, ピッチ知覚の面から洗い直すことを試みた。その結果, 声による提示とピアノによる提示では, 指導現場における現実的対応にも直結する次の4つの傾向が潜んでいる可能性を確認した。1. ピッチを知覚する段階 (ピッチ知覚レベル) と発声で再現する段階 (ピッチ再生レベル) では, 提示音に対して異なる反応が顕れる。2. ピッチを知覚する段階では, 提示音に対する慣れや聴き取り方の習熟度が影響する。3. ピッチを知覚する段階では, ボーカル音よりもピアノ音の方がピッチを判別し易い傾向がある。4. ピッチを知覚する段階では, 高い方向へのピッチ差は判別し易く, 低い方向へのピッチ差は判別しにくい傾向がある。これがフラットシンギングの発生する一因である可能性も考えられる。
著者
新山王 政和 小瀬木 崇
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教職キャリアセンター紀要 The journal of the Teaching Career Center (ISSN:24238929)
巻号頁・発行日
no.4, pp.113-121, 2019-03-31

一連の研究では、偶然性に依拠したり機器に頼って音符並べをしたりする「音楽づくり(創作)」ではなく、まず自らが表したいイメージを定め、そのイメージに向かってICレコーダーと鍵盤ハーモニカを用いながら音楽づくりを創意工夫する活動を模索している。そのうち南山大学附属小学校で試行した河田愛子教諭による研究授業は、愛知教育大学研究報告第68輯に於いて報告する。(1)そして本報告では春日井市立勝川小学校で試行した小瀬木崇教諭による研究授業について報告するが、注目したい点は「旋律をつくる→"合いの手"に合うように旋律を手直しする」という二段階で試行錯誤を深めさせたことである。研究授業の計画に先立ち、実践協力者には次の5つの条件を提示し、これを考慮してもらった。①音楽づくり(創作)の活動は、音楽の諸要素と曲想との関係を感じ取る鑑賞と組み合わせて行う。②ICレコーダーを用いて振り返ることで、思考を伴った試行錯誤を積み重ねながら音楽づくりを深める。③2人組のペア学習、さらにペア2組で聴き直しながら対話的な活動や学び合いを深めていく。④ICレコーダーの有用性と効果的な活用方法、教師による声掛けやアドバイスの効果を検証する。⑤児童自らが音を出す楽器を使用し、並べた音符をPCやタブレットに演奏させる方法は用いない。試行実践の結果、音楽づくりの活動に於いても、音楽の"よさ"に気付き自分なりの"解"を追究するためにICレコーダーが有効なツールになり得ることがわかった。しかしその効果は教師による働きかけを伴うことで発揮され、子供に持たせるだけでは十分な効果を得られないことも確認した。
著者
新山王 政和 寺島 真澄
出版者
愛知教育大学実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.13, pp.195-202, 2010-02

筆者が理想として思い描く音楽科授業の姿とは,表面的でその場限りの楽しさを負いかける「一過性の単なる遊びの場」から脱却し,ストレス・フリーに音楽の知識や知覚力を身に付け,それを使いこなして『共働・共創・共感・共有』を楽しむ場が実現されたものである。また現在筆者が最も懸念していることは,クラス担任による音楽科授業の多くでは,子ども達に「思いや意図」を持たせても,それを音や音楽によって伝える演奏表現の技術(伝える技や方法)の指導が充分に行われていないことである。 集会活動の一つとして「全校音楽集会」を定期的に開いている小学校は少なくない。しかし中には単に学芸会の予備的な位置づけで行っているものや,鑑賞教室の一つとして開催される「劇場型」のもの,単なる発表の場などに止まっているものも少なくない。そのような中,愛知県岡崎市立矢作南小学校では全校音楽集会へ音楽専門の教師(研究会や研修等で音楽部会に所属する教師)が積極的かつ戦略的に関与することで,単なる一行事から「クラスの音楽科授業では体験しにくいレベルの高い音楽活動に触れられる場」へ発展させるとともに,「音楽専門の教師による指導を見聞きしたクラス担任教師がそのノウハウをクラスへ持ち帰られるスキルアップの場」へ脱却させていた。このように全校音楽集会を学校内教育活動のコアと位置づけたことにより,音楽専門の教師による音楽レベルの質的保証と技能向上が図られただけでなく,教師のスキルアップや授業改善の場としても活用され,その効果は教師と児童の垣根を越え,さらに授業の枠も越えて広く学校内音楽活動全体へと波及していた。本報告では,この「子ども⇔子ども,子ども⇔教師,教師⇔教師」で取り組んだ「共働,共創,共感,共有」をめざした活動へ特に着目し,その概要をリポートする。
著者
新山王 政和 今泉 美貴子 磯部 妙子
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.8, pp.253-260, 2005-02

今日のユビキタス化された社会では,様々なことを気軽にバーチャル体験できる反面,自分自身の力で考え結果をイメージングしようとする機会が失われてしまっている。生きる力の問題としても,脳科学や発達教育科学の分野からこれに対して警鐘が鳴らされている。よって小・中学校音楽科の授業という視点から,次の2点を視野に入れてこのユビキタス社会における音楽の基礎・基本の力について改めて考察してみたい。1.過度に視聴覚機器に頼ることをやめ,イメージングを通じて活きた活動体験を模索する 2.活動の主体を子どもヘシフトし,教師が言語・非言語指示を駆使して一方的にリードした為に子どもが思考停止の状態や指示待ちの状態のようになってしまうことを,イメージングを活用した活動体験によって防ぐ 今回の一巡の授業研究では,この二つのポイントを視野に入れながら,実体験と体感を伴った子ども自身によるイメージングの活動を基盤に据えた授業のあり方について模索してみたい。そして本論文においては,次の二つの授業実践を取り上げて分析を行った。1.小学校4年生を対象にした授業:楽曲の構造からショートストーリーをイメージングし,それを伝える為の演奏表現とリコーダー演奏技法を工夫する 2.中学校3年生を対象にした授業:歌詞のイメージングに基づいて,自分達が歌いたいと感じる表現を考え,それを演奏表現できるような歌い方を工夫する