著者
孫 大輔 南学 正臣
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.929-933, 2008 (Released:2012-08-02)
参考文献数
8
被引用文献数
1

BUN(血中尿素窒素)やクレアチニンは腎機能を推定するのに便利な指標であるが正確なものではない.特にBUNは脱水や心不全など腎血流が低下した状態では尿細管内での再吸収が亢進するため高値となる.一方,血清クレアチニンは,筋肉量にほぼ比例するため大きく変動することはなく,腎機能の指標として適している.しかし高齢女性,四肢切断者,筋萎縮者で低値となるので注意が必要である.
著者
坂下 碧 南学 正臣
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.263-274, 2022-07-25 (Released:2022-09-07)
参考文献数
82

腎性貧血は慢性腎臓病に高頻度で合併し,貧血を適切に治療することは,CKD患者の余命延長や身体機能の改善につながる.現状のヒトエリスロポエチン(EPO)製剤による治療では,血栓塞栓症などの副作用やESA抵抗性の問題,高額な治療費・注射の必要性など,社会的な負担が大きい.腎性貧血の新規治療薬であるHIF-PH阻害薬は低酸素誘導因子を安定化させることにより内在性のエリスロポエチンの産生を高め,鉄利用を効率化する.これにより,従来のEPOを使用した治療と比較して,腎性貧血に対してより生理的なメカニズムでの治療が見込め,経口薬であることから非侵襲的であり通院間隔をのばすことも可能となるなどの利点がある.一方でHIFの多面的な作用により,留意すべき副作用も存在する.現在5種類のHIF-PH阻害薬が使用可能となっており,これらの薬剤の臨床研究で明らかとなっている知見なども含めて概説する.
著者
南学 正臣
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.938-943, 2021 (Released:2021-09-08)
参考文献数
31

低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor, HIF)は低酸素状態に対する適応応答を司り,様々な低酸素に対する適応応答を誘導する。HIFの主要なターゲット分子としてエリスロポエチンがあり,赤血球を増やすことで臓器への酸素供給を促す。HIFの分解はHIF-PHが司っており,HIFを活性化するHIF-PH阻害薬は腎性貧血の新しい治療薬として期待されている。また,慢性腎臓病の進展のfinal common pathwayとして腎臓の慢性低酸素が重要であり,心血管系合併症においても臓器の低酸素が重要である。HIF-PH阻害薬にはVEGF産生の刺激などによる理論的注意点もあるが,低酸素に対する臓器保護も期待される。2019年にはHIF/HIF-PHによる低酸素応答機構を解明した三人の研究者がノーベル医学・生理学賞を受賞しており,関連する酸素生物学は世界的にも注目されている分野である。
著者
南学 正臣
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.136-141, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

慢性腎臓病(CKD)患者では,eGFRが60ml/minをきるとエリスロポエチン産生不足による腎性貧血が起こりうる.腎性貧血は組織での低酸素状態の原因となり,Cardio-renal anemia syndromeを引き起こし,血管病変を中心とした全身の臓器障害を進行させ,またそれがCKDの進展を加速することから,その治療の重要性が注目されている.造血刺激薬erythropoiesis stimulating agents(ESA)による治療は多面的な臓器保護効果も期待できるが,様々な臨床研究の結果,現時点では透析前のCKD患者と腹膜透析患者ではHb 11~13g/dL,血液透析患者ではHb 10~12g/dLを目標にESAで治療することがよいとされている.注意すべきはESA治療抵抗性患者の存在で,そのような患者は根底に慢性炎症や酸化ストレスがある可能性があり,いたずらにESAを増量するのではなく,ESA治療抵抗性の原因を検索しそれに対処することが重要である.
著者
南学 正臣
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.132-136, 2012-11-30 (Released:2012-12-22)
参考文献数
20

腎臓は酸素消費が多く,更に動静脈シャントのため酸素の取り込み効率が悪いため,低酸素状態になりやすい臓器であり,様々の要因によって引き起こされる尿細管間質の慢性低酸素が腎臓病のfinal common pathwayとして注目されている。これまで,様々な方法により腎臓病の実験動物モデルで,腎臓の低酸素が証明されてきた。更に,最近ではBOLD-MRIにより,ヒトの腎臓病において腎臓の低酸素が証明されている。生体は低酸素に対する防御機構として,転写調節因子hypoxia inducible factor(HIF)を備えている。現在我々が日常臨床で行っている腎臓病治療法の多くは,腎臓の低酸素改善効果を持っているが,HIF活性化薬の臨床応用が期待されている。低酸素はヒストン修飾を調節して,長期的な遺伝子発現の変化を引き起こす可能性があり,低酸素によるエピジェネティックな変化は重要な検討課題となっている。