著者
河上 淳一 烏山 昌起 宮崎 優 青木 美保 進 訓央 松浦 恒明 原口 和史 藤戸 郁久 森口 晃一 宮崎 かなえ 日野 敏明 曽川 紗帆 中村 雅隆 宮薗 彩香 工藤 僚太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cd0841, 2012

【はじめに、目的】 腱板断裂術後は再断裂が問題である。近年の再断裂率を下げる要因の報告では、リハビリテーション開始の遅延や装具装着期間延長が推進されている。当院での腱板断裂術後は、装具装着は昼夜問わず3~8週装着、退院は3~4週としており、リハビリテーション開始・装具装着期間延長を検討している。装具装着延長になると、安全性確保の半面で退院後の自宅生活に制限をきたす。特に入浴は、更衣・移動・洗体・洗髪の動作を通常装具なしで行う必要がある。入院時の入浴は、三角巾・ペットボトルなどを利用した簡易装具にて対応をしていた。しかし、自宅での介助なし入浴には、三角巾で被覆される面積が大きいために洗体が困難、三角巾の衛生面が問題になると看護師により指摘を受けた。さらに、症例からも簡単かつ安全に入浴できるようにしたいとの要望があった。入浴用装具購入も検討したが、一般に販売されているものは散見されなかった。そのため、I安全性の向上、II衛生面の向上、III安価の3項目を充たすことで、自宅でも安全に入浴可能な入浴用装具開発を目的にて本検討を実施した。【方法】 試作品(以下:1号)を作成し、使用方法を看護師に説明し腱板断裂術後症例の入浴時に使用させた。その中で、看護師・症例よりあがった問題点を随時改良していった。1号は、EVA樹脂素材のスイムヘルパー(以下:スイムヘルパー)とポリ塩化ビニル(以下:塩ビ)のパイプと紐2mを使用した。スイムヘルパーは、直径15cm・高さ10cmの円柱を3個、塩ビパイプは直線タイプの長さ40cm・直径17mm、紐2mを使用した。スイムヘルパー3個の中央に塩ビパイプを通し、塩ビパイプの中に紐を通すことで、通常装具のように肩から吊るすようにした。部品代は約1800円だった。【説明と同意】 本装具作成にあたって、ヘルシンキ宣言に基づき同意を得た。【結果】 結果として、1号から改良を加えて6号の装具までを作成した。作成の中でI安全性の問題となった点は、A前腕の下方制動性がないB手指・手関節周囲の支えがないC着脱に患肢を動かす必要がある D塩ビパイプが抜け落ちる点だった。II衛生面の問題となった点は、E塩ビの中を通した紐が乾かない点だった。III安価の問題点は、特になかった。【考察】 結果から得られたA~Eの問題点は、6号作成の過程で解決させた。Aは、腱板断裂術後の症例では一般に内転・内旋方向で腱板縫合部の伸張が加わり、下方・内転方向を自身で制御すると腱板に収縮が起こり、再断裂の可能性を高め問題となる。そこで、スイムヘルパーを通す直線の塩ビパイプを前・中・後の3本に分けた。中と後の塩ビパイプ間には、塩ビの三又継手を取り付けし、その継手外側には10cmのパイプを取り付けた。この工程で前腕を支持する部分を作成した。さらに、塩ビパイプに直接前腕を乗せると、圧を一点で受けるので、発泡ポリエチレン性カバーを装着した。Bは、A同様の問題に加えて、通常装具のように手関節を安定させる部品が付いていなかったので、不安感を感じる症例が多かった。そこで、直線の塩ビパイプ先端には、塩ビの直角ジョイント4個と10cmの塩ビパイプ3本で手指・手関節を支える部分を作った。これらの部品は、ジョイント部が可動することで体格に合わせた位置で手関節部を固定できるようにもなった。Cは、紐をかぶるように着脱するので、患肢を動かす必要があった。そこで、直線パイプ前方後方にドリルにて穴を開け、リング状の部品をつけた。紐は両先端にカラビナをつけた。これで、患肢を台に固定した状態でも紐が簡単にまわせるようになった。D塩ビパイプが抜け落ちるのは、Bで可動できる部品を使用した為に、パイプが抜け落ちる可能性が出現し問題点となった。そこで、塩ビパイプの中に結束バンドを通しパイプが抜け落ちないように工夫した。Eは、塩ビパイプの中に通した紐が乾きにくいことが問題となった。この点は、Cの問題点改善で同時に解決した。以上のA~Eの5点を中心に改善することで、I・IIの目的を達成できた。また、IIIに関しては、当初より問題となっていなかったが、部品を見直すことで1400円程度になった。この入浴用装具を利用することで、早期退院かつ装具延長になっても自宅で安全で安心して入浴できるようになると考えている。しかし、現在の入浴用装具は、解剖学・運動学的観点と看護師・症例・理学療法士の主観的意見で作成した。そこで、今後は入浴用装具の違いがどのように腱板に負荷となるかを確かめ、更に改良していきたい。【理学療法学研究としての意義】 本作成過程の意義は、理学療法士が他職種との関わりの中で、新たな職域を拡大するための一助となると考える。
著者
島添 裕史 綾部 仁士 森口 晃一 香月 一朗 原口 和史 田山 尚久 里村 匡敏
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.423-428, 2005-12-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
18
被引用文献数
5

本調査の目的は,人工股関節全置換術後早期の股関節外転筋筋力の推移を明らかにすることである。対象は,当院整形外科で人工股関節全置換術を行った女性14例とし,術側・非術側外転筋筋力,疼痛,および術側股関節屈曲・外転可動域を術前,術後2日,5日,10日,14日,28日の計6回調査した。術側外転筋筋力の推移は術前が1.71 ± 0.49N/kg,術後2日で1.13 ± 0.45N/kg,5日で1.64 ± 0.60N/kg,10日で1.85 ± 0.55N/kgと術前を上まわることが分かった。14例中9例(64%)は術後5〜10日で術前筋力値まで回復した。以上のことから,THA後の外転筋筋力トレーニングを行う際は,10日以内は術前筋力に達していない点に考慮しなければならない。
著者
原口 和史 加茂 健太 谷口 秀将
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.71-75, 2017-03-25 (Released:2017-05-01)
参考文献数
12

近年,強直性脊椎炎(AS)に対して抗TNF-α製剤が使用され,臨床症状の著しい改善が期待できるようになった.しかし,抗TNF-α製剤は骨新生を抑制できず,臨床症状の改善とXP所見の進行には乖離があるとされている.今回,抗TNF-α製剤を投与し長期期間経過を見たASの2例を報告する.症例1(58歳男性,投与期間82カ月)29歳時ASの診断を受ける.50歳で両股関節痛のため初診.脊椎全体が強直,両仙腸関節は癒合,両股関節は高度に変形しており,MTX投与開始.両THA施行後,Infliximab 3mg/kg/8W開始,その後5mg強/kg/8Wまで増量する.症例2(42歳男性,投与期間60カ月)32歳頃より上顎洞炎,腰背部痛などあり,SAPHO症候群診断で治療を受ける.38歳時初診,MTX,Infliximab 5mg/kg/8W開始.効果減弱傾向あり,32か月後Adalimumab 10mg/2Wに変更.両例とも抗TNF-α製剤投与後,臨床症状は著しく改善したが,症例2では腰椎XP病変の進行を認めた.
著者
中西 純菜 木藤 伸宏 仲保 徹 松岡 さおり 冨永 渚 日野 敏明 原口 和史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0147, 2012

【はじめに、目的】 特徴的な不良姿勢と呼吸運動の異常は結びつくことが多い。理学療法の臨床において,呼吸困難を有する患者に対し,姿勢を改善することで呼吸困難が緩和することは報告されている。しかし,実際に不良姿勢が胸郭運動にどのような影響を与えているかは明らかにされてない。そこで本研究では座位姿勢に着目し,骨盤傾斜角度を変化させた時の胸郭運動に及ぼす影響について検討したので報告する。【方法】 被験者は,健常男性7名(平均年齢22.6±4歳)とし,取り込み基準は,脊柱や肋骨に外傷の既往のない者,著明な呼吸器疾患を有さない者,非喫煙者とした。座位条件は,足底非接地状態で骨盤を中間位にした座位,人為的に骨盤を後傾位にした座位の2条件とした。骨盤後傾は傾斜角度計にて同側のASISとPSISの角度を計測し,明らかに中間位と異なることを確認した。計測の各条件組み合わせを,(1)骨盤中間位での座位-骨盤後傾位での座位と,(2)骨盤後傾位での座位-骨盤中間位での座位の2つとし,ランダムに実施した。計測課題は,まず任意座位での最大吸気と最大呼気を計測した後、各条件で通常呼吸と深呼吸を,それぞれ吸気から5回行った。呼吸速度は任意の速度とした。計測はカメラ8台よりなる三次元動作解析システム(Vicon Motion Systems社,Oxford)を用いて,体表に26個のマーカーを貼付して行った。マーカーの位置から全胸郭容積と,さらに胸郭を左右上部胸郭、左右下部胸郭の4つに区分した。各々の6面体の容積は,Fortranで作成した容積計算プログラムにより求めた。算出した胸郭容積から,吸気時の最大容積を最大値,呼気時の最小容積を最小値,その差を変化量とし,各々の条件から求めた。各々の条件での胸郭容積の最大値,最小値,変化量は,最大吸気と最大呼気の各値で正規化した。統計学的解析には対応のあるt-検定を用い,深呼吸,通常呼吸時の容積の最大値,最小値,変化量を骨盤中間位と後傾位で比較した。優位水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき計画し、広島国際大学の倫理委員会にて承認を得た。さらに,本研究はすべての被験者に研究の目的と内容を説明し,文章による研究参加への同意を得た後に実施した。【結果】 骨盤後傾座位時の骨盤後傾角度は,31.09±6.22°であり,骨盤中間位座位時の骨盤後傾角度15.59±5.90°より有意に後傾していた。深呼吸時において,骨盤後傾座位時の全胸郭容積の最大値(94.01±1.51%)と下部胸郭容積の最大値(91.75±4.03%)は,骨盤中間座位時の全胸郭容積の最大値(96.90±2.49%)と下部胸郭容積の最大値(96.77±3.81%)よりも有意に小さかった(p<0.05)。その他のパラメータは,骨盤後傾座位時と骨盤中間座位時において有意差は認められなかった。通常呼吸時において,全てのパラメータは,骨盤後傾座位時と骨盤中間座位時において有意差は認められなかった。【考察】 本研究結果より,通常呼吸では,骨盤後傾位と骨盤中間位での胸郭容積の最大値と最小値全てにおいて有意差は認められなかった。通常呼吸において,吸気は横隔膜が下降することによって行われているため,大きなエネルギーを必要としない。つまり,通常呼吸時の骨盤中間位と骨盤後傾位では,有意差を生じるほどの胸郭運動の変化を引き起こすまでには至らなかったものと推測される。さらに,本研究結果より非足底接地状態での座位姿勢において,骨盤後傾位での深呼吸では骨盤中間位と比較して,吸気時に下部胸郭の運動が拡張せず,呼気時により縮小することを示した。これは通常呼吸とは異なり,骨盤後傾位に伴う胸椎後彎の増加した姿勢では,横隔膜が弛緩し,下降している状態であり,吸気時に横隔膜が機能せず十分な吸気を行うことができない。そのため,腹部を膨張させることにより腹腔を陰圧化して横隔膜の下降を補助していると考えられ,この作用により吸気量を確保していることが推測できる。本研究結果から観察された骨盤後傾位での深呼吸時の胸郭運動様式は,横隔膜の機能低下を招き,呼吸機能障害に寄与する要因の一つとなりえることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より,骨盤後傾座位の結果、脊柱後彎により呼吸様式が非効率的なものになり,呼吸機能に悪影響を与えていることが示唆された。骨盤後傾座位は呼吸に対して胸郭運動の機能低下を引き起こし,機械性受容器への関与や横隔膜の機能低下,mechanical linkageの破綻といった,筋骨格系や神経生理学系へも影響を与えていると推測される。よって,骨盤後傾座位の改善を図ることで,呼吸しやすい環境を作り,より効率的なアプローチが可能になるものと考える。
著者
森口 晃一 鈴木 裕也 原口 和史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0300, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】 膝前十字靭帯(ACL)損傷の受傷機転は、非接触型損傷(非接触)が多く、受傷機転はジャンプ着地、ストップ動作、方向転換などが代表的である。非接触では詳細な受傷機転を把握することで、ACL損傷後の理学療法やACL損傷の予防において競技特性を踏まえたプログラム立案につながると思われる。そこで今回、当院でACL再建術を受けた患者の受傷機転を調査し、競技別の受傷機転の特徴について若干の知見を得たので報告する。【対象・方法】 平成16年4月から平成17年10月までに当院でACL再建術を受けた26例を対象とした。カルテと問診より受傷形態を非接触と接触型損傷(接触)に分け、非接触において競技、受傷機転、受傷側を調査した。【結果】 非接触20例、接触6例であった。非接触の競技別数は、バスケットボール(バスケ)8例、バレーボール(バレー)4例、バドミントン(バド)4例、サッカー2例、野球1例、陸上が1例であった。また非接触における受傷側数は左15例(バスケ7例、バレー4例、バド4例)、右5例(バスケ1例、サッカー2例、野球1例、陸上1例)であった。競技別で受傷数の多かったバスケ、バド、バレーの受傷機転は以下の通りであった。バスケは、走行速度を減速した際1例、右へ方向転換した際3例(フェイントで左に踏み込み即座に右に方向転換した際1例、急停止し右に方向転換した際1例、ドリブルの進路を右方向へ変えた際1例)、フェイントされて右へステップした際2例、右から左へジャンプし左下肢で着地した際1例、(以上受傷側左)、フェイントされて左へステップした際1例(以上受傷側右)。バドは、左後方のシャトルを打った際4例で受傷側は全て左。バレーは、スパイク着地時4例で受傷側は全て左。このうち1例は左に流れたトスを打った後の着地で、1例は通常よりもスパイク位置(上肢位置)が後方であった。【考察】 バスケ、バド、バレーでは左膝の損傷が多い傾向にあった。これは右利きが多く左下肢が軸足となることが多いためだと思われる。競技別の受傷機転の特徴は、バスケは特に右への方向転換やステップ時の左膝の損傷が多い傾向にあった。ACL損傷後の理学療法やACL損傷予防のポイントの1つとして、右方向への速い動きでの左下肢機能が重要であると考えられる。バドの受傷機転や受傷側の結果から、左後方への動きの際の左下肢機能がポイントと思われる。さらに左後方に飛んできたシャトルを打ち返すときに体幹を左方向へ傾斜させながら打ちにいったという患者のコメントもあり、体幹の制御能力も重要になると思われる。バレーについては、受傷機転としてスパイク着地時の損傷が多いことから、従来から言われている着地時にACL損傷危険肢位を避けることが大切であるが、空中での体幹制御能力が着地に影響を与えることも考えられるため、体幹機能も重要な要因となると思われる。今後症例数を増やし検討を深めたい。