著者
村田 昌俊 及川 雄一郎 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.79-90, 1994-03-10

従来,わが国の心身障害児の療育は主に彼らの発達をいかに促進し,社会的適応能力を高めるかということに視点がおかれ,健常者にとって好ましい価値感によって彼らを囲いこんでしまう傾向が強かった。しかし,医療・教育・福祉のそれぞれの分野ではその視点を転換し,彼らのライフステージを見すえ,たんに社会適応をめざすのではなく,彼らの生活の質の向上や家族支援に視点をおいた総合リハビリテションシステムを進展させつつある。障害児に対する地域福祉が究極的にめざすものはクオリティ・オブ・ライフであり,「誰もが豊かな生活を追求することができるような社会」を市民レベルで地域の中に作り出して行く営みが重要である。筆者らは障害のあるなしにかかわらず,子供たちの生活が潤いと豊かさを持って活動できるような場面を作りたいと思っている。今回は,その一つの段階として,もっとも遊び環境が疎外されやすい障害児とその家族についての遊び・遊び場についての実態調査を行なった。今回の調査では(1)「子供の日常生活や生活環境」,(2)「子供の遊びや余暇活動」,(3)「遊び環境」,(4)「親の余暇活動」,(5)「将来の生活に目をむけた遊び・遊び環境」という5つの観点から調査を行った。その結果を参考にし,今後の具体的な基盤整備に向けた実践的な課題を見つけて行きたいと思う。
著者
古川 宇一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.34-46, 1978-03-15 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

中部太平洋岸の小漁村における成人知的遅滞者の生活状況の特徴とその社会的背景について検討した。資料は知的遅滞者の家族・職場関係者、村人との面接資料、および関係事務所の文献資料である。世帯数371、カツオ・マグロ遠洋漁業を主産業とするこの村では、男子知的遅滞者は1人前に働きうる存在であり、就業し家庭を持っているものが多い。女子の場合、結婚するか、さもなくば次世代の家族に扶養されている。村人の態度は受容的であり、知的遅滞が問題になることは比較的少い。このような知的遅滞者の生活状況を支える社会的背景として、地域社会の主産業である漁業の技術的単純性、職場適応への良い教育環境、職場・地域社会における強い血縁的紐帯、漁業利益配分における古い平等原則の残存、世帯間の生活様式の類似性、家計収入面での利害の共有性、古くからのつきあいの緊密性、しつかりした家制度の残存などの要因が考えられた。
著者
篠崎 麻利子 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.27-34, 1993-03-17
被引用文献数
1

発達に障害をもつ子供たちの中には,思春期になると問題行動が重篤化する者がいるという。親は思春期に非常に大きな不安を持っている。だが,実態はよく掴まえられていない。本研究は,思春期の問題行動の実態,具体的な対応の仕方や親の悩み,要望などを明らかにすることを目的に,親への質問紙法による調査を行った。その結果,(1)問題行動別に年代による推移をみると,多動,偏食,奇声は年代とともに減少傾向が大きいこと。他傷行為,睡眠障害,パニックにも減少傾向が見られること。(2)逆に,過食,異食,チック,自慰等性的問題行動は思春期以降に増加傾向を示すこと。(3)自傷行為,強迫的こだわりは,年齢に関わらず,どの年代にも一定数見られること。(4)問題行動が減少していく事例をみると,幼児期に障害児と特別扱いしないで叱る時は厳しく叱る躾方をし,いろいろな趣味を持ち日々を楽しく過ごしている様子が伺えること。また,思春期以降重篤化する事例は中卒者38名中4名にすぎないことなどがあげられた。
著者
畑中 雅昭 中保 仁 岡 信恵 亀淵 興紀 笠井 保志 白川 理恵 富田 晃子 長 和彦 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.79-90, 1998-02-10

本報告では,旭川市内にある小学校特殊学級の自閉的傾向と診断された男児へのIEP(個別教育計画),TEACCHプログラムの考え方を取り入れた関わりについて述べたものである。朝起きてから家を出るまでの特に歯みがきと洗顔を中心とした行動の習慣化をめざし家庭での指導とその支援を工夫した。少しずつだが自発的に行動がみられるようになってきた。個別学習ではコミュニケーション能力の向上をめざして課題や指導の工夫を続けた。課題が終わると,「まるをつけてください」と言葉で要求したり,動作を表す言葉を理解したりすることができるようになってきている。
著者
長谷川 康弘 桝澤 美紀 桝澤 良和 小野寺 由香 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.183-194, 1999-02-10
被引用文献数
2

本報告は,旭川市にある障害者地域共同作業所において,通所者の作業の一環として取り入れている乗馬活動を通して障害者は何を得たかを述べたものである。障害者の乗馬は,馬,障害を持つ乗り手,そして両者を理解する介助者の三者が揃って活動されるものである。特に障害児者を乗せる馬からは生きものと運動していることを馬の表情や動きから感じ取ることができ,馬にまたがる障害児者からは表情が生き生きとした笑顔に変わったり鼻歌が出たりといった心理的な変化を観察できた。また動物が苦手な障害児者が馬には触れることができたり,馬がきっかけで他の動物に興味を持ったりしている。そして馬の存在が障害のあるなしにかかわらずあらゆる人の交流のきっかけも作っている。
著者
湯藤 端代 瀬川 真砂子 中保 仁 山本 雅恵 古川 宇一
出版者
北海道教育大学教育学部旭川校特殊教育特別専攻科障害児教育研究室
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
no.20, pp.209-216, 2001

本論は子どもと積極的にかかわりたいと願いながらも,ためらい迷っていたかかわり手が,子どもの感じ方に気づいていくために「遊び」を大切に考える意識を持つことにより,「迫いかけっこ」遊びで子どもとの関係を深めることができたという報告である。またその「追いかけっこ」遊びになるまでのプロセスを追っていくことで,「遊びの技術」について検討した。
著者
矢口 少子 中保 仁 亀淵 興紀 岡 信恵 谷川 忍 粥川 一成 長 和彦 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.90-100, 1999-02-10

旭川市内にある小学校特殊学級1年生で「精神発達遅滞と注意欠陥症候群」と診断されているHちゃんの,家庭における「食器ならべ」学校における「一人でべんきょう」の実践を通して,特に「注意欠陥症候群」の状態像を明らかにし,そのかかわりを述べたものである。かかわり合いの中でHの多動の意味するものは,1つは「混乱している困っている自分を受け止めてほしい」ということ,そして「どうしたらよいのか教えてほしい」というアピールであり,もう1つは「学びたいの,学ぶことをさがしているの」という動きであり,「本当はほめてもらいたいと思っているのだ」という訴えではないかということを感じることができた。肯定的な受け入れと,好きなことや興味関心に沿った内容の提示と,つまづいたときは手を添える援助と,できたらおおいにほめるということで行動に落ち着きやまとまりをもたせることができるのではないか,その1事例としてとらえることができた。また一方でHを支える家庭への支援連携の在り方について大きな示唆を得た。
著者
飯岡 智子 瀬川 真砂子 古川 宇一〔他〕
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.51-56, 1996-03-15

旭川市愛育センターみどり学園では,TEACCHプログラムを導入して4年目となった。飯岡は自閉症児T君とコミュニケーションを深めることを試みた。学園での関わりの初期は,T君に嫌な存在・邪魔な人という印象を与えないよう,まるで腫れ物に触るかの様な関わり方しかできなかった。関わりの回数を重ね,さらに大学のプレイルームという構造化された環境での抽出指導を通して,手をつなぐこと,愛着行動がみられ,学園でも歯を磨かせるなどの関係の深まりが見られた。自由遊び場面(ラポートを形成する段階)と,プレイルームでの個別学習への取り組み場面の記録から,その変容を,飯岡自身をも対象化しながら報告する。
著者
若生 麻弥 郡司 竜平 岩出 幸夫 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.163-170, 2003-02-05

特殊学級に通う小学2年生のA君(自閉症)との、見通しを持ち、A君が安心・納得して行動の切り替え がスムーズにできることを目指した取り組みについて述べたものである。構造化のアイディアを用いて、朝準備ボード、アナログ時計の勉強と合わせたA君個人の時間割ボード、一貫した接し方などの取り組みを行った。この間A君は、朝準備ボードやA君個人の時間割ボードを自分なりの使い方で用い、見通しを持つことができるようになり、行動の切りかえがスムーズにできるようになってきた。ごほうびとして用いた「やったね!」(=クルクルをしてもらえる)は行動の動機付けとなっただけでなく、若生と喜びを共感しあう関係を築いたと思われた。
著者
木村 隆 木村 尚美 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.25-29, 2003-02-05

昨年は、自閉症の息子に対して、家庭内での物理的構造化の取り組みについて発表した。本年度はスケジュールの構造化について取り組みたいと目標を決め、試行錯誤しながら種々の検討を行った。当初のスケジュール表の失敗の原因が、息子が認知しづらいアイテムであり、かつ多ステップであったためと考え、写真カードを用いたシンプルなものを用い、1ステップ提示を行った。当初、日常生活はかなりカード提示で自分から行うことが可能だったが、次第に、従わなくなった。比較的文字が好きだったこともあり、思い切って文字カード提示をしたところ、現在に至るまで極めて良好に反応している。現在、多ステップ提示も可能となっており、システマチックなスケジュール表への移行も視野に入れることが出来つつある。子どもに対する認知へのアクセスは、その子どもの特性に応じて検討すべきと考えられた。
著者
木村 隆 木村 尚美 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.30-34, 2003-02-05

近年、障害児・者に対するノーマライゼーションという考えが、注目を浴びている。ノーマライゼーションは障害に対する支援により、社会に参加できることを目的としていると解釈している。しかしながら、障害を持つ子どもがいかなる支援をもってしても競争社会に参加できる自信を得ることは困難である。私たちは、自分の子どものパーシャルインクルージョンを目指して、たとえ同情的なまなざしがあったとしても、子どもが社会に参加することが許されるような環境を作りたいと希望して、同級生に対して自閉症の理解を促す目的で自閉症の絵本の読みきかせを行った。働きかけに対する解析は不十分であったが、息子の親学級の子どもたちが、自閉症という病気が存在すること、息子の特性についての理解が図られたことは意義のあることだった。
著者
粥川 一成 中保 仁 岡 信恵 亀淵 興紀 谷川 忍 矢口 少子 長 和彦 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.113-120, 1999-02-10

6年生の自閉的傾向を持ったA君は思春期を迎え,これまでに見られなかったような様々な行動が目につくようになった。A君とかかわりをもった粥川は,まず彼にふさわしい指示理解の方法を探った。その結果,絵または文字によるカード等を用いて視覚的に見通しを持たせる支援をすると,指示理解ができやすくなり,意欲的に行動できることがわかった。また,青年前期に求められるものとして「家事の分担」があげられるが,この取り組みとして家庭での「おつかい」ができることををめざした。この場合にも,視覚的に見通しの持てる絵または文字カードを提示するなど,一定の条件があれば取り組めると実感した。その実践を報告する。
著者
古川 宇一 長 和彦 寺尾 孝士 木村 健一郎 大場 公孝
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、自閉症児・知的障害児の生涯ケア体制の整った地域社会の創出をめざして、北海道にTEACCHプログラムを導入する10ヶ年計画の第2次3ヵ年計画のまとめをなすもので、函館・旭川両地区をモデル地区として、幼児期から成人期にいたる各ライフステージにおいてTEACCHプログラムのアイデアの有効性を検証し、関係者・機関への展開を図った。画期的であったことは、函館地区おしまコロニーが独自に、2001年4月、全国に先駆けて自閉症センター「あおいそら」を立ち上げ、活発な相談指導、コーディネート活動を展開し、地域センターとしての活動を展開した。幼児施設、養護学校、特殊学級、施設においてTEACCHプログラムのアイデアを導入するところが増え、幼児期から成人期にいたるTEACCHプログラムを基本においた一貫性のある療育システムが構築されつつあり、全道のセンター的役割を果たそうとしている。旭川地区では、幼児施設でTEACCHのアイデアを引き継ぎ、小学校特殊学級で導入する教室が増え、1成人施設が導入4年目で成果を上げている。両地域とも研究活動は親を含み継続している。本年度の研究16論文は、情緒障害教育研究紀要第21号に、1年次13論文は19号に、2年次12論文は20号に掲載されている。札幌・道央地区、帯広・道東地区では、おのおの1療育施設でTEACCHの手法を用いており、福祉施設においても積極的に導入し研修がすすめられている。札幌、旭川では、家庭教育にTEACCHのアイデアを用いた積極的な取り組みがなされている。おしまの自閉症センターと連携しながら、全道的な展開への準備が整いつつあり、次の第3次3ヵ年計画において道内4圏域でのTEACCHセンター機能の展開が課題である。
著者
熊谷 由美子 紙谷 恒 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.127-132, 1999-02-10

本報告は,旭川市内の小学校特殊学級に在席する,自閉症児Aちゃんとの個別指導の取り組みについて述べたものである。これまで行ってきたひらがなの一文字一文字の読み指導と併行し,単語は文字の集合体として成り立ち,意味を持っていることを知らせるための取り組みを行った。文字カードを読んで絵カードを選ぶ課題では,単語を構成している一文字一文字のそれぞれに対応する絵カードを選んでしまっていたが,横書きから縦書きの形に変えることでそれが「気付き」となり,すぐに改善できた。また,絵本の書き写しや歌詞カード作りなど,Aちゃんの好きなことを取り入れた活動を行う中で,歌詞を指差しながら確認するなどの成果が見られるようになった。