著者
古関 喜之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.1-21, 2016-01-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
23

本稿では,台湾産マンゴーの日本への輸出を取り上げ,ポジティブリスト制度導入後の日本市場向けマンゴーの生産・輸出システムと,安全性や品質管理を重視した日本市場への対応が生産地域や台湾農業に与えた影響について検討した.日本でのポジティブリスト制度導入後,台湾では政府主導によって,日本向けマンゴー輸出業者と日本市場向けマンゴー園の登録制度,および輸出前の生産者単位による残留農薬と糖度の検査体制が構築された.安全性を重視した対日輸出への取組みは,農家に農薬費の負担を増大させたが,収益増加にも結びついている.また,生産者の安全管理に対する意識を高め,台湾国内では日本の安全基準に基づく輸出システムで生産されたマンゴーが流通し,差別化商品として扱われている.台湾農業にとって,安全性重視の対日輸出への取組みは,輸出や国内販売において,台湾産マンゴーの市場を多様化させる一因となっている.
著者
古関 喜之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.6, pp.449-469, 2008-07-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

2002年にWTOに加盟した台湾は, 国際競争力を持っ輸出型産業としての農業の体質強化を図っている. 本稿では, 日本への輸出拡大を図っているマンゴーの重要な生産地域である台南県玉井郷を対象として, 経済のグローバル化に伴って, 台湾のマンゴー栽培がどのような条件のもとで行われているのかを明らかにし, マンゴー輸出の発展の可能性とその課題にっいて検討した. 生産面では, 生産者の高齢化, 後継者不足, 臨時雇用への依存, 市場価格の低迷などの問題を抱えている. また, 流通面では, 価格や労働の面で生産者の利益を守ることができる農会による共同販売が十分な役割を果たしていないことが明らかになった. 農家がマンゴー栽培を継続するためには, 安定した収入が確保できる販路を確立することが必要である. しかし, 現在台湾が最も重視する日本市場との関係をみると, 生産と輸送のコストが高いため, 市場での厳しい価格競争にさらされている. 台湾が日本市場ヘマンゴーの輸出を続け, 発展させていくためには, 日本の輸入業者から求められているトレーサビリティーへの対応と, 安定供給のための保証価格や栽培契約を導入するなどの取組みが必要である. 他国との厳しい競合の中で, 安全性や品質による差別化が不可欠である.
著者
古関 喜之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.261-279, 2017 (Released:2017-12-16)
参考文献数
20

バナナの生産・流通・消費においてグローバル化が進んでおり,多国籍アグリビジネスは重要な役割を演じている.しかし,日本と台湾との間には,植民地時代を背景として,独特な生産と流通の仕組みが維持され,日本市場は台湾バナナにとって依然として重要な存在である.日本市場がグローバル化の影響を受けて多様化する中で,台湾はバナナの生産と輸出において大きな変化を迫られている.本稿では,輸出自由化後の日本向けバナナ産業の特徴について検討した.輸出自由化後,台湾では,国内価格の影響を受けて輸出価格が決定されるようになった.日本では,台湾バナナの品質が向上し,流通過程の統合の動きがみられた.しかし,依然,伝統的な流通が残っており,川下主導で価格決定される日本側との差異が浮き彫りになった.製糖会社の土地による輸出用バナナ栽培では,借地面積に上限があり,生産者を保護しながら輸出強化を図るという新たな局面を迎えている.
著者
新井 祥穂 大呂 興平 古関 喜之 永田 淳嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.16-32, 2011 (Released:2011-12-17)
参考文献数
20

農産物の貿易自由化の流れとともに農業経営の現場ではさまざまな可能性が追求されている.本研究では,台湾産の苗を用いたコチョウランの国際リレー栽培を取り上げ,台湾のコチョウラン生産者群の適応的技術変化と,その成果と深く関わる経営選択の分析を通じて,その動態の理解を試みた.分析の結果,各生産者は,市場や政策環境変化に誘発されつつも,適応的技術変化の到達点を見極めつつ,生育段階や,出荷先・輸出先の選択を柔軟に行っていることが明らかになった.特に苗の輸出先は,日本,アメリカ,ヨーロッパ等と多元化し,日本の地位は相対的に低下していた.2000年代半ば以降,日本では,台湾との国際リレー栽培への関心が一段と強まっているが,台湾の生産者からみると,品質の限定性の高い日本ばかりを相手にすることに合理性があるわけではなく,そのずれは,両国間の国際リレー栽培の安定的な存立に対する潜在的な不安要因になっている.