著者
新井 祥穂 大呂 興平 古関 喜之 永田 淳嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.16-32, 2011 (Released:2011-12-17)
参考文献数
20

農産物の貿易自由化の流れとともに農業経営の現場ではさまざまな可能性が追求されている.本研究では,台湾産の苗を用いたコチョウランの国際リレー栽培を取り上げ,台湾のコチョウラン生産者群の適応的技術変化と,その成果と深く関わる経営選択の分析を通じて,その動態の理解を試みた.分析の結果,各生産者は,市場や政策環境変化に誘発されつつも,適応的技術変化の到達点を見極めつつ,生育段階や,出荷先・輸出先の選択を柔軟に行っていることが明らかになった.特に苗の輸出先は,日本,アメリカ,ヨーロッパ等と多元化し,日本の地位は相対的に低下していた.2000年代半ば以降,日本では,台湾との国際リレー栽培への関心が一段と強まっているが,台湾の生産者からみると,品質の限定性の高い日本ばかりを相手にすることに合理性があるわけではなく,そのずれは,両国間の国際リレー栽培の安定的な存立に対する潜在的な不安要因になっている.
著者
新井 祥穂
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.35-52, 2001-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19

本稿は広域行政組織の分析を通じて,小規模町村が事務実施でどのような困難に直面しているかという点の理解を目指す.具体的には長野県日義村および四賀村を澤び,それらが加盟する広域行政組織の活動や運営を調査した.小規模町村は,課せられる事務が増大・複雑化する中,役場組織の規模の小ささと短期間での人事異動とにより,役場内では,事務実施の遂行に必要な職員の専門知識を育成することが難しくなっている.そこで事務実施のプラン設計など,より多くの専門知識が要請される過程は広域行政組織に外部化され,隣接市町村の担当職員や県地方事務所職員とともに担われている.とりわけ,技術職採用職員(県地方事務所)のイニシアティブは,広域行政組織における小規模町村の専門知識の取得に重要な役割を果たしている.以上よりこれまであまり指摘されてこなかった小規模町村の課題として,事務実施のための専門知識の取得が挙げられよう.
著者
新井 祥穂 永田 淳嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.192-208, 2017 (Released:2017-12-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

2000年代以降,国産紅茶の生産が拡大している.本稿は紅茶の栽培好適地とされる沖縄を例に,その生産者群の経営的・技術的性格を明らかにした.生産者群は,緑茶生産本位の生産者と「プレミアム紅茶」を追求する生産者に大別された.前者の生産と販売が,緑茶生産におけるそれらの延長上にあったのに対し,後者は,紅茶に即した生産・販売体制を構築する.すなわち,生産においては労働手段を高度化せずに,生産者が技能性を発揮してこれを補う.販売では,商品のもつスタイルを明確化できる販路を新たに構築する.これらのため,前者には生産組織化の可能性があるが,後者はその契機に乏しい.国産紅茶の廉価品市場が成立していない日本においては,前者と後者の間は段階的関係としてとらえられるであろう.
著者
新井 祥穂 永田 淳嗣
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.129-153, 2006-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1

1972年の復帰後の沖縄では農業への政策介入が強化され,農業基盤整備事業はサトウキビの価格支持と並び政策の大きな柱とされた.しかし,県内でいち早く大規模な灌漑整備を伴う土地改良事業が行われた石垣島では,1980年代末以降農家の反対が顕在化し事業が停滞している.本稿では,農家が事業との関わりを通じて得た経験や学習や評価に注目しつつ,事業が石垣島の農業経営に対して持つ意味を分析し,停滞の理由付けを試みた.その結果,面整備は確かに労働節約効果を有するものの,灌概整備がサトウキビの増収に直結しないことや,面整備が果樹生産にはマイナス効果を持つことなどを学んだ農家は,土地改良事業の効果が限定的であることを理解し,それが事業に対する消極的・否定的な態度につながっていることが明らかになった.土地改良事業の大前提ともいえる短期の生産性向上効果が限定的である点は,沖縄の土地改良事業が抱える本質的な問題であるといえる.