著者
大呂 興平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.547-566, 2007-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
40
被引用文献数
2 6 2

北海道では1950年代後半以降, 肉用牛繁殖部門が急成長してきた. この成長は, 異なるタイプの経営が複雑に展開することにより実現されたものである. そこで本研究では, 北海道の代表的な子牛産地である大樹町を事例に, 肉用牛繁殖部門の成長過程を, 経営群の進化という概念により考察した. 経営群の進化とは, 地域の経営群において特定のタイプの経営が増減し, 経営群の構成が変化する過程をいう. 本研究ではこの過程を, 個々の農家が経営タイプを変化させる際の, 資本装備の導入, 適応的な技術習得過程, 維持という三つの局面に注目して説明を試みた. 大樹町の肉用牛繁殖経営群では, 時間の経過とともに小規模経営, 中規模経営, 大規模経営という異なる技術的特徴を持つ経営が現れ, それらが地域の基幹農業部門の動向や補助事業の実施などと関連して複雑な展開を示した. 小規模経営は, 農家の副収入源として, 他部門の動向に規定されながら広範に展開した. 中規模経営は, 他部門に対して所得が劣るため, 主に畑作の冷害や子牛価格の高騰時に一時的に成立した. 大規模経営は, 酪農や畑作に生計を依存できない少数の農家が, 大型補助事業を利用することで成立し, 技術力の違いによる収益格差を伴いながら展開した.
著者
大呂 興平
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.337-349, 2012 (Released:2018-01-24)
参考文献数
44
被引用文献数
3

Japanese premium beef called wagyu has a global market potential with its eating quality. However, it is not Japan but Australia that has significantly expanded its export. Australia is now the largest wagyu supplier in the global market, which notably includes Hong Kong, Korea, Singapore, and Dubai. As so-called “wagyu” in Australia is cross-bred, it is not always identical to the authentic Japanese wagyu in terms of genetics or quality. Nevertheless, Australian wagyu beef has been highly valued in top restaurants and hotels outside Japan. This paper illustrates the development of the wagyu industry in Australia by focusing on the dynamics of the beef supply chain, and examines the future of the industry.Wagyu was first introduced to Australia via the U. S. A. in the early 1990s. Before the 2000s, Australian wagyu used to be grain-fed by Japanese feedlots only for the Japanese market, but the market shrunk dramatically after the outbreak of BSE followed by the stricter labeling regulations in Japan. For making up the missed market, Australian wagyu was promoted domestically and to other Asian countries by Australian feedlots.The wagyu beef supply chain in Australia is as follows: Stud breeders supply wagyu bulls for commercial breeders, and the commercial breeders cross-breed the bulls with their female cattle. Those cross-bred steers are supplied to feedlots, where wagyu cattle are grain-fed for 300-500 days. The feedlots promote their wagyu brand for the international markets, and the markets are expanding spurred on by economic growth and the boom in Japanese cuisine. There are reportedly around 10,000 full-blood wagyu cattle and 130,000 cross-bred wagyu cattle in Australia in 2012.Although wagyu became popular globally in the late 2000s, the wagyu supply chain in Australia is facing a greater risk caused by the overlong feeding-period with the high grain prices and inconsistent beef quality. Smaller producers in the chain are withdrawing, and several companies are integrating the chain vertically instead. Those integrated companies will be the pivotal player in the wagyu industry in Australia, and they may further improve the quality of Australian wagyu. It should also be noted that the genetic resources of wagyu such as semen and embryos are being exported further abroad, and that will potentially lead to increasing wagyu production in other countries in Asia, Europe, and South America.
著者
大呂 興平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.567-586, 2012-11-01 (Released:2017-11-16)
参考文献数
35
被引用文献数
2 1

日本の牛肉輸入自由化から20年が経過した.この間,豪州からの牛肉輸入量は急増したが,開発輸入を目的に豪州生産拠点を築いた日本企業はほとんどが撤退し,豪州産牛肉の大半は豪州企業との相対取引により調達されるに至った.本研究では,この取引形態の変動を説明すべく,開発輸入の前提となった生産条件,市場条件,および企業間の能力差の変化を,変化の動因たる主体の行動に注目して分析した.日本企業進出の根拠は,日豪間に大きな内外価格差があったにもかかわらず,豪州企業には日本市場が固有に必要とする品質を実現する能力がなかった点にあった.しかし,時間とともに,日本固有の中長期肥育牛肉の需要は急減し,日本の外食消費や豪州・東アジアにおける短期肥育牛肉の需要が増大した.日本では生産者による低コスト化・高品質化が進んだ一方,豪州では多国籍巨大パッカー傘下の企業が短期肥育牛肉の世界販売を本格化させた.これらの変化が積み重なり,日本企業は自社生産の合理性を失った.
著者
新井 祥穂 大呂 興平 古関 喜之 永田 淳嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.16-32, 2011 (Released:2011-12-17)
参考文献数
20

農産物の貿易自由化の流れとともに農業経営の現場ではさまざまな可能性が追求されている.本研究では,台湾産の苗を用いたコチョウランの国際リレー栽培を取り上げ,台湾のコチョウラン生産者群の適応的技術変化と,その成果と深く関わる経営選択の分析を通じて,その動態の理解を試みた.分析の結果,各生産者は,市場や政策環境変化に誘発されつつも,適応的技術変化の到達点を見極めつつ,生育段階や,出荷先・輸出先の選択を柔軟に行っていることが明らかになった.特に苗の輸出先は,日本,アメリカ,ヨーロッパ等と多元化し,日本の地位は相対的に低下していた.2000年代半ば以降,日本では,台湾との国際リレー栽培への関心が一段と強まっているが,台湾の生産者からみると,品質の限定性の高い日本ばかりを相手にすることに合理性があるわけではなく,そのずれは,両国間の国際リレー栽培の安定的な存立に対する潜在的な不安要因になっている.
著者
山下 裕作 八木 洋憲 大呂 興平 植山 秀紀
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.893-898,a1, 2003-10-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9

農村集落には「村がら」というべき個性が存在する。特に住民組織の個性としての「村がら」は地域振興に先立つ合意形成や, 住民組織化の面で地域に適合する方向性を規定している。この「村がら」は農村の伝承文化の一つであり, これまでの地域振興に関する諸研究では考察の対象となっていなかった。本報では, 民俗学の成果を基礎におき, 農村の質的個性である「村がら」が, 合意形成や地域振興の方向性に強い影響を与えていることを実証し, 地域住民による「村がら」の自己認知を進めることを手だてとする地域振興手法の可能性について検討する。
著者
大呂 興平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.211-233, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
4

沖縄離島部の数少ない有望な農業部門として期待される肉用牛繁殖部門は,2000年代後半以降,停滞している.本稿では,多良間島における各農家の追跡調査を通じて,2000年以降の農家経営と肉用牛繁殖経営の技術的特徴の変化を分析することで,肉用牛繁殖経営群の動態を明らかにした.多良間島では農家の世代交代とともに,サトウキビと肉用牛の小規模経営を組み合わせた労働多投的な精農層が大量引退し,また,経験的技術に支えられた放牧主体の大規模経営も消滅した.これらに代わり,子牛価格の上昇を背景に,粗飼料生産を委託した労働節約的な小規模経営,近代的な施設を装備した中規模経営,採草主体の大規模経営が成立している.特に中規模経営は一般の農家にも単独で生計を立てることを可能にし,継続的な技術蓄積や再投資を誘発している.肉用牛繁殖経営は多良間島の壮年層の幅広い受け皿となっており,今後は産業の規模を維持ないし成長させる可能性が高い.