- 著者
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今井 一郎
原 久美子
赤岡 麻里
八森 敦史
石川 秀太
右田 正澄
宮島 奈々
菅谷 睦
田中 博
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.EbPI2406-EbPI2406, 2011
【目的】臨床現場において,脳卒中患者から標準型2輪自転車(以下自転車)に乗りたいという希望をよく聞く.第43回学術大会では症例数3名で自転車動作を検討した.今回は症例を増やし,脳卒中患者の自転車動作の観察とStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)を実施し,自転車動作に必要な身体機能を検討した.<BR>【方法】対象は,脳卒中の既往があり,発症前に自転車に乗ることができ,移乗動作自立の患者AからHの8名(男女4名ずつ,平均67.75歳,発症病月平均45.5ヶ月)と,週1回以上自転車に乗っている50歳以上の健常者9名(男性4名女性5名,平均65.56歳)とした. 方法は,脳卒中患者のSIASと自転車動作の観察を行なった.自転車前提動作(以下前提動作)は,1)スタンドをしてペダルを回す.2)ペダルに足を載せた状態から片足での床面支持,3)外乱に対してブレーキ維持とした.1)から3)すべて可能であれば,走る(10m自由な速度で走行し,タイム計測と,40cm以上のふらつきを観察)・止まる(10m走行後,目標物手前で停止の可否,笛の合図からの停止距離)・曲がる(外側に膨らまないように走行.1カーブ5箇所の床に40cm幅に貼ってある印で軌跡を確認.印を内側から1点2点とし,カーブ5箇所の合計点を算出)の自転車動作を行なった.健常者は自転車動作のみ実施した.<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿い,対象者には事前に書面で研究内容を説明し同意を得た.<BR>【結果】脳卒中患者のSIASは,上肢の項目では,患者Aは22点(運動9点,筋緊張5点,感覚5点,非麻痺側握力3点),以下同様に,B22(10,4,6,2),C19(8,4,5,2),D19(8,3,6,2),E23(10,5,6,2),F21(10,4,4,3),G17(6,4,5,2),H14(3,2,6,3)となった.下肢は,患者Aは26点(運動15点,筋緊張5点,感覚6点),同様に,B25(15,4,6),C26(15,6,5),D26(15,5,6),E22(12,4,6),F23(15,4,4),G17(8,4,5),H15(7,3,5)となった.前提動作は,ABCDは1)から3)すべて可能,EFGは1)3)は可能,2)は不可,Hは1)から3)すべて不可となった.自転車動作は健常者と前提動作すべて可能であったABCDで実施した.走るのタイム計測では,健常者平均5.75±0.96秒,脳卒中患者平均8.37±1.54秒で有意差(P<0.01)がみられ,ふらつきは健常者1名以外は40cm以上のふらつきがみられた.目標物手前で止まるでは,A以外は停止可能であった.笛の合図で止まるでは,停止距離が健常者平均143.78±34.83cm,脳卒中患者平均124.0±70.03cmで有意差はなかった.曲がるでは健常者平均25.56±3.28点,脳卒中患者平均35.25±5.25点で有意差(P<0.01)がみられた.<BR>【考察】前提動作では,2)が可能の患者は不可能の患者と比べて,SIAS下肢の得点が高い傾向にあった.また,SIAS上下肢とも最も得点の低いHは前提動作すべて不可能であった.僅かでも運動機能障害,感覚障害,筋緊張異常があると,前提動作の2)が困難となり安全な自転車動作ができなくなると考えられる.自転車動作では,走行時のふらつきにおいて40cm幅でも健常者のほとんどが不可能であった為,脳卒中患者も評価できなかった.目標物手前で止まるでは,Aはできる限り目標物の近くで止まるように意識したため接触した.自転車は速度が速いほど停止距離は長くなる.走るのタイム計測では健常者が脳卒中患者と比較しタイムが速かった.また笛の合図からの停止距離は差がなかった.これは,脳卒中患者の前提動作では問題がなかった僅かな上下肢の機能障害と,発症後自転車に乗車していない為,自転車乗車の感覚が健常者と比較して十分ではなかったことが,走行スピード低下やブレーキの遅れに繋がったと考えられる.それにより,脳卒中患者のスピード低下の為の停止距離の短縮と,ブレーキの遅れによる停止距離の延長が,健常者の停止距離と同等になったと考えられる.自転車は曲がるとき遠心力と重力を均衡させる為,曲がる方向に車体を傾ける必要がある.脳卒中患者は下肢の機能障害やスピード低下の為,車体を傾けることができずカーブで外側に膨らむと考えられる.以上により脳卒中患者の自転車動作には,非常に高い分離運動機能や協調機能,巧緻運動機能が重要である.また自転車乗車の感覚については,練習の有無による自転車動作の検討が今後必要と考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】この研究は,自転車動作での基礎的運動機能と応用動作における差異や連携を明らかにし,理学療法学としての運動機能面の評価が深まると考える.