- 著者
-
吉岡 敏和
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2018年大会
- 巻号頁・発行日
- 2018-03-14
おおいた豊後大野ジオパークでは,2016年4月の熊本地震の後,2017年には豊後大野市朝地町綿田地区における地すべりや,9月の台風18号による水害など,多くの自然災害に見舞われた.本ジオパーク内のサイトについても,熊本地震に伴って轟橋基部の柱状節理が崩落したほか,台風18号の際に白山渓谷の轟木橋が損壊するなど,いくつかの直接的被害があった.このような自然災害は,サイトの保全という観点からは損害をもたらすものでしかない.しかしながら,そもそも自然災害は地質現象そのものであり,本ジオパークのメインテーマである阿蘇火砕流にしても,もしそこに人類が生活していれば,壊滅的な被害をもたらした巨大災害になっていたことは間違いない.また,火砕流堆積物を谷が浸食し,滝や断崖絶壁といった景勝地が形成されたのも,度重なる洪水や斜面崩落などの積み重ねでしかない.さらに,深い谷と激流を克服しようとして造られたアーチ式石橋や,断崖を利用して彫られた磨崖仏なども,このような地質学的,地形学的現象の産物と言うことができよう.これまでの防災教育は,どちらかと言えば危険の周知や避難・備蓄の推奨などが中心で,災害発生メカニズムやその背景となる地質・地形環境についての啓発活動は,十分になされてきたとは言い難い.そのような中で,ジオパーク活動を進めることによって,住民一人一人が自分達の住む地域がどのように形成されたかに関心を持ち,住民自らによる災害の予測や災害時の的確な行動につながることが期待できる.おおいた豊後大野ジオパークでは,今後もシンポジウムや講演会などを通じて,地域の地質・地形をより深く理解するための活動を推進していきたいと考えている.