著者
吉川 哲史
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
神経感染症 (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.39, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
13

【要旨】水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus、以下 VZV)は初感染で水痘を起こし、その後脊髄後根神経節に潜伏感染し宿主の加齢、免疫抑制、ストレス等に伴い再活性化し帯状疱疹を起こす。水痘予防のためワクチンが定期接種化され水痘患者数は減少しているが(pros)、一方で患者数減少に伴うナチュラルブースター効果の減衰に伴い、既感染者の水痘特異的細胞性免疫能の減衰スピードが速くなり、帯状疱疹患者の増加、若年化が懸念されている(cons)。帯状疱疹患者の増加は、疱疹後神経痛だけでなくウイルス再活性化に伴うさまざまな神経合併症の増加にもつながる。よって、今後帯状疱疹ワクチンによる帯状疱疹予防の重要性が増すと考えられる。
著者
吉川 哲史
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
NEUROINFECTION (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
13

【要旨】9 種類のヒトヘルペスウイルスのなかで、αヘルペスウイルス亜科に属する herpes simplex virus (HSV)と varicella-zoster virus(VZV)は神経親和性が強く、いずれも初感染後に知覚神経節に潜伏感染した後再活性化し皮膚粘膜病変をきたす。一方、私たちが長年主要な研究テーマとして取り組んでいる human herpesvirus 6B(HHV-6B)は cytomegalovirus と同じβヘルぺスウイルス亜科に属し、グリア細胞をはじめとしてさまざまな細胞に感染し得るが、おもにリンパ球系の細胞に強い親和性がある。初感染で突発疹を起こし、その際の合併症としては熱性けいれん、脳症などの中枢神経合併症が頻度も高く臨床的に重要な課題である。熱性けいれんに関して複雑型熱性けいれんを合併する割合が高く、さらに本症に伴う熱性けいれん重積とその後の海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんとの関連性も示唆されている。また、HHV-6B 脳症に関しては、初感染時だけでなく成人の造血幹細胞移植患者を中心にウイルス再活性化による急性辺縁系脳炎の原因となることも知られている。本稿では、第 25 回日本神経感染症学会のテーマである「pathogen と host の解析から見えてくるもの」の観点から、われわれがおもに取り組んできた HHV-6B の中枢神経病原性に関する研究を振り返ってみたい。
著者
菅原 民枝 大日 康史 多屋 馨子 及川 馨 羽根田 紀幸 菊池 清 加藤 文英 山口 清次 吉川 哲史 中野 貴司 庵原 俊昭 堤 裕幸 浅野 喜造 神谷 齊 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.555-561, 2007-09-20 (Released:2011-05-20)
参考文献数
19
被引用文献数
6 8

目的: 現在ムンプスワクチンの予防接種は任意接種であるが, 定期接種化された場合の費用対効果分析を行った.方法: 本研究は, 外来診療における医療費と家族の看護負担に関する調査を行い, 入院や後遺症死亡例の重症化例の情報を加味した.外来診療の医療費と家族看護に関する調査は, 平成16年6月15日から平成18年1月15日までの19カ月間, 人口10万人都市で, 小児科を標榜する9診療所と県立病院大学付属病院の11医療機関で実施した.入院例調査は, 平成16年1月から平成17年12月までの2年間, ムンプス及びムンプスワクチン関連により24時間以上入院あるいは死亡した例について実施した.結果: 外来診療に関する回収は189枚家族票112枚であった. 外来診療の疾病負担は, 家族看護費用も含めて平均値471億円 (最大値2, 331億円, 最小値6億円) であった.ムンプスの入院患者数は全国で4596例と推測した. 入院は, 家族看護も含めて平均値13.5億円であった. 後遺症, 死亡例を加え総疾病負担は, 平均値525億円 (最大値2434億円, 最小値109億円) であった.費用対効果分析では, 予防接種費用を6000円とすると, 増分便益費用比は, 5.2であり, 95%信頼区間下限においても1を上回っていた.考察: 増分便益費用比は1を上回っており, 定期接種化によってもたされる追加的な便益が, 追加的な費用を上回っていた. したがって, ムンプスワクチンの定期接種化に向けて政策的根拠が確認された.