著者
中野 貴司
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.277-283, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
13

おたふくかぜはムンプスウイルスによる全身感染症であり,無菌性髄膜炎や難聴をはじめとして合併症の多い疾患である。したがって予防することが望ましく,おたふくかぜワクチンは広く接種を促進してゆくことが大切と考えられる。かつてのMMRワクチンによる教訓も踏まえて,定期接種化に向けては弱毒生ワクチンの副反応リスクの評価が必要であり,現在も議論が継続されている。これまでに得られたエビデンスや審議の経緯,呈示された論点を考慮すると,以下の3点が重要と考えられる。①早期からの予防と高い接種率につながり,かつ副反応のリスクが低いと考えられる1歳での初回接種を推奨する。②無菌性髄膜炎の発症頻度に影響をおよぼす因子についての検討は継続する。③重篤な副反応の監視とリスクコミュニケーションに力を注ぐ。
著者
中野 貴司
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.289-296, 2019

<p>主に海外渡航者を対象として接種されるワクチンは,トラベラーズワクチンとも呼ばれる.渡航時の感染症予防は,接種者の健康を守ると同時に,病原体を遠隔地へ伝播しないという観点からも大切である.渡航の形態や渡航者の背景が多様化した昨今は,渡航先でのライフスタイルや宿主要件を考慮し,ワクチンの接種計画を検討することが必要である.本稿では,各種トラベラーズワクチンについて解説すると共に,解決すべき課題を考察した.基本的な考え方として,「海外渡航をするからワクチン接種が必要」というよりは,日頃から感染症予防を心掛けることを重視したい.麻疹・風疹や破傷風をはじめ,成人世代に接種が必要なワクチンについて具体的な推奨が明示されていないこと,海外標準製剤であっても,国内未承認のワクチンが多いこと等については,早急な解決が望まれる.</p>
著者
菅原 民枝 大日 康史 多屋 馨子 及川 馨 羽根田 紀幸 菊池 清 加藤 文英 山口 清次 吉川 哲史 中野 貴司 庵原 俊昭 堤 裕幸 浅野 喜造 神谷 齊 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.555-561, 2007-09-20 (Released:2011-05-20)
参考文献数
19
被引用文献数
6 8

目的: 現在ムンプスワクチンの予防接種は任意接種であるが, 定期接種化された場合の費用対効果分析を行った.方法: 本研究は, 外来診療における医療費と家族の看護負担に関する調査を行い, 入院や後遺症死亡例の重症化例の情報を加味した.外来診療の医療費と家族看護に関する調査は, 平成16年6月15日から平成18年1月15日までの19カ月間, 人口10万人都市で, 小児科を標榜する9診療所と県立病院大学付属病院の11医療機関で実施した.入院例調査は, 平成16年1月から平成17年12月までの2年間, ムンプス及びムンプスワクチン関連により24時間以上入院あるいは死亡した例について実施した.結果: 外来診療に関する回収は189枚家族票112枚であった. 外来診療の疾病負担は, 家族看護費用も含めて平均値471億円 (最大値2, 331億円, 最小値6億円) であった.ムンプスの入院患者数は全国で4596例と推測した. 入院は, 家族看護も含めて平均値13.5億円であった. 後遺症, 死亡例を加え総疾病負担は, 平均値525億円 (最大値2434億円, 最小値109億円) であった.費用対効果分析では, 予防接種費用を6000円とすると, 増分便益費用比は, 5.2であり, 95%信頼区間下限においても1を上回っていた.考察: 増分便益費用比は1を上回っており, 定期接種化によってもたされる追加的な便益が, 追加的な費用を上回っていた. したがって, ムンプスワクチンの定期接種化に向けて政策的根拠が確認された.
著者
中野 貴司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.3, pp.171-179, 2017

<p> ワクチンで付与される免疫は, 病原体特異的な能動免疫であり, 感染症の予防に極めて有用である. ワクチンは, その製造方法により「生ワクチン」と「不活化ワクチン」に大きく分類される. 生ワクチンは弱毒化された病原体が主成分であり, 不活化ワクチンは感染力をなくした病原体やその成分で製造される. 予防接種法で規定されたワクチンは,「定期接種」として公費で接種される. それ以外のワクチンは「任意接種」であるが, 疾患を予防するという重要性において何ら差異はない. 1948年に制定された予防接種法は, 時代の推移とともに何度か改定された. 2013年の改定は, 海外と比較して公的に接種されるワクチンが少ないわが国の「ワクチン・ギャップ」を解消することがひとつの目的であった. Hib, 肺炎球菌, HPV, 水痘, B 型肝炎など数多くのワクチンが定期接種に加わった. わが国においても, これらワクチンの普及により目ざましい効果が確認され, Hib 髄膜炎や水痘の患者は大幅に減少した. 一方, ワクチンは病原微生物を弱毒化や不活化して製造されるため, 副反応が起こる可能性をゼロにすることはできない. ただし, 接種後に, たまたま別の原因により身体に不都合な症状が出現したとしても, 副反応との鑑別が困難な場合はしばしばある. 実際の接種に際しては,「接種不適当者」や「接種要注意者」の定義と対処法, 接種間隔や使用薬剤に関する注意点などについて十分理解し, 適切な予診を行った上で接種する. 天然痘という人類の脅威であった疾患は, ワクチンの普及により地球上から根絶され, 高い費用対効果も確認された. 感染症対策の重宝な手段であるワクチンを上手く活用し, さらなる健康増進に努めたいと考える.</p>
著者
大竹 剛 中野 貴司
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1275, pp.106-117, 2005-01-17

昨年12月26日、インド洋スマトラ島沖でマグニチュード(M)9.0の地震が発生し、津波が約15万人もの命を奪った。その2カ月前の10月23日には新潟県中越地震が起きた。相次ぐ巨大地震は、10年前の阪神・淡路大震災の記憶を呼び覚ます。 1995年1月17日。阪神地区を襲った震度7の巨大地震は約6400人の命を奪い、約10兆円の経済損失をもたらした。