著者
枝広 あや子 渡邊 裕 平野 浩彦 古屋 純一 中島 純子 田村 文誉 北川 昇 堀 一浩 原 哲也 吉川 峰加 西 恭宏 永尾 寛 服部 佳功 市川 哲雄 櫻井 薫
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-11, 2015-07-10 (Released:2016-12-02)
参考文献数
33

本文は,増加する認知症患者の背景と現状を鑑み,認知症患者に対する歯科口腔保健・歯科医療のあり方に関して整理を行い,現時点での日本老年歯科医学会の立場を表すものである。 日本老年歯科医学会は,高齢化が進むわが国で,高齢者歯科医療のあり方について積極的に取り組んできた。しかし,認知症患者に対する歯科口腔保健・歯科医療に対する取り組みは十分とはいえない。 近年,地域包括ケアがわが国の施策の中で重要なミッションの一つになっており,その中で“QOLの維持・向上”に対して歯科が大きな役割を果たす必要がある。そのためには,原因疾患や神経心理学的症状を理解し,病態の進行を的確に予測した継続的な支援計画と歯科治療計画を検討し,柔軟な対応を行うことが必要である。 本文で指摘した認知症発症と口腔との関係,認知症初期段階での早期発見への関わりの整備,歯科医療の意思決定プロセスの整備,歯科治療・口腔機能の管理などの指針の作成を科学的根拠のもとに進め,他の医療,介護・福祉関係者だけでなく,国民に十分な理解を得て,認知症患者の歯科的対応と歯科治療を充実させ,認知症患者のQOLの維持と尊厳保持を進めていくことが日本老年歯科医学会の使命と考える。そのために,日本老年歯科医学会は,日本老年学会,歯科関連学会と協働し,学際的および多職種と連携して認知症の諸問題の解決に取り組み,正しく必要な情報を社会に発信していく決意をここに示す。
著者
山脇 加奈子 吉川 峰加 津賀 一弘 久保 隆靖 田地 豪 赤川 安正
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.179-184, 2015 (Released:2015-04-18)
参考文献数
19

症例の概要:患者は73歳男性で脳血管性認知症を有しており,認知症病棟に入院中である.唾液や食物を飲み込みにくいという主訴の下,摂食観察を行ったところ多量の口腔内食物残留および喫食率の低下を認めた.また,嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing: VF)では,舌搾送運動の不良,嚥下反射の惹起遅延,ならびに口蓋から咽頭部にかけての食物残留を認めた.そこで,従来からの口腔機能リハビリテーションに加え,飴を舐める機能を応用したリハビリテーションを6カ月間行い,訓練介入前後および介入期間中の嚥下機能,口腔機能,口腔内環境,体重および摂食状況を観察したところ,舌搾送運動の改善,最大舌圧値,体重,喫食率の増加,口腔内の食物残留量や細菌数の減少を認めた.考察:中等度認知症患者に対し,従来のリハビリテーションに加えて,複雑な指示理解を必要としない飴を舐めるリハビリテーションを継続することにより,口腔内および口腔周囲筋の廃用防止と口腔内環境の改善につながったものと考えられた. 結論:6カ月間の本口腔機能リハビリテーションにより,口腔の機能と環境に改善を認めたことより,中等度認知症患者において,飴を用いたリハビリテーションが有効である可能性が示唆された.
著者
吉川 峰加 栢下 淳 津賀 一弘 木村 浩彰 吉田 光由
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

背景:本研究では,全身の機能と口腔機能との関連を横断調査で確認し,希望した者に栄養指導または口腔リハビリテーションを8週間実施することで,半年毎に平成31年秋まで全身・口腔機能に変化があるか否かを確認することを目的とした.方法:対象者は自分の歯または義歯等で咬合の安定している41名(男性17名,女性24名,68-90歳)とした.全身疾患,服薬状況,日常生活に関する質問票,MMSE,EAT-10,MNA-SF,口腔機能評価としてディアドコキネシス,最長発声持続時間,3オンステスト,口腔湿潤度,咬合力検査,舌圧検査,咀嚼能率検査を実施した.また握力,歩行速度,膝伸展力を計測し,栄養調査とINBODYによる体組成調査を行った.結果:協力者は皆高血圧等の全身疾患を有するものの自立して日常生活を送っていた.前向き調査へ参加できている者は,対照群18名(男性9名,女性9名),栄養指導群13名(男性6名,女性7名),口腔リハ群8名(男性3名,女性5名)であった.第一回目の調査結果より,MNA-SFで低栄養の疑いのあった者は8名(男性2名,女性6名),サルコペニアの者は7名(男性3名,女性4名)であった.これら低栄養やサルコペニアを呈する者は舌圧やEAT-10との相関が認められなかった.また舌圧が20kPa未満の者において,EAT-10 の錠剤服用困難感の項目で関連を認めた.加えて,女性において舌圧と膝伸展力に有意な相関を認めた.まとめ:本研究協力者は日常生活を自立して送る,健康に自信のある者が大多数であったものの,サルコペニアやオーラルフレイルを有する者が存在した.また栄養調査より,高齢者の栄養や運動に関する知識に偏りを認め,今後我が国の健康寿命延伸の上で,大きな課題が浮き彫りとなった.
著者
津賀 一弘 赤川 安正 吉川 峰加 日浅 恭
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

認知症高齢者においても検査可能な簡便な口腔機能検査法の開発を目的として、棒付きの飴を舐める機能の定量評価法を開発し、既存の口腔機能検査との関連を検討した。その結果、飴を舐める機能はオーラルディアドコキネシス(/pa/、/ta/、/ka/の連続発音速度)、舌圧、頬圧および唾液分泌量とは強い相関を認めなかった。また、認知機能が低下した多くの高齢者においても検査可能であり、提供されている食事形態との関連を認めた。本研究により、飴を舐める機能検査は認知症高齢者の口腔機能評価に有効な方法であることが示唆された。
著者
吉川 峰加
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

舌尖アンカー機能や舌搾送運動の低下あり,口腔・咽頭通過時間(OTT,PTT)の延長や口腔や咽頭への食物残留(ORES, PRES)や,を認めていた者が口腔容積の変化をもたらす舌接触補助装置(PAP)付義歯の装着1カ月後には,OTT,PTTの短縮,残留量の減少,口腔-咽頭嚥下効率の改善などを示し,PAPが頭頚部ガン患者ならびに外傷者のみならず慢性期の高齢脳神経疾患患者へも有用であることが明らかとなった.