著者
佐藤 裕二 北川 昇 七田 俊晴 畑中 幸子 内田 淑喜
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.230-232, 2020-12-31 (Released:2021-01-28)
参考文献数
4

目的:2020年6月に,2019年6月(医療保険導入後1年2カ月)の社会医療診療行為別統計が公表されたので,これを前報の2018年6月の実施状況と比較することで,最新の口腔機能低下症の検査・管理の実態を明らかにすることを目的とした。 対象と方法:2019年6月および2020年6月に発表された社会医療診療行為別統計により,2018年6月(医療保険導入後2カ月)および2019年6月(医療保険導入後1年2カ月)の口腔機能低下症の検査・管理の実施状況を調査した。 結果:医療保険導入1年2カ月後には,咀嚼能力検査は前年の統計に比較して約5倍,舌圧検査は約2倍,口腔機能管理加算は約4倍となったが,咬合圧検査はほとんど変化がなかった。 考察:普及したとはいえ,初診患者の1%以下の検査実施率であり,これは,まだまだ普及の途上であるといえる。 結論:検査・管理は普及してきているものの,さらに普及させる必要性が示唆された。
著者
枝広 あや子 渡邊 裕 平野 浩彦 古屋 純一 中島 純子 田村 文誉 北川 昇 堀 一浩 原 哲也 吉川 峰加 西 恭宏 永尾 寛 服部 佳功 市川 哲雄 櫻井 薫
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-11, 2015-07-10 (Released:2016-12-02)
参考文献数
33

本文は,増加する認知症患者の背景と現状を鑑み,認知症患者に対する歯科口腔保健・歯科医療のあり方に関して整理を行い,現時点での日本老年歯科医学会の立場を表すものである。 日本老年歯科医学会は,高齢化が進むわが国で,高齢者歯科医療のあり方について積極的に取り組んできた。しかし,認知症患者に対する歯科口腔保健・歯科医療に対する取り組みは十分とはいえない。 近年,地域包括ケアがわが国の施策の中で重要なミッションの一つになっており,その中で“QOLの維持・向上”に対して歯科が大きな役割を果たす必要がある。そのためには,原因疾患や神経心理学的症状を理解し,病態の進行を的確に予測した継続的な支援計画と歯科治療計画を検討し,柔軟な対応を行うことが必要である。 本文で指摘した認知症発症と口腔との関係,認知症初期段階での早期発見への関わりの整備,歯科医療の意思決定プロセスの整備,歯科治療・口腔機能の管理などの指針の作成を科学的根拠のもとに進め,他の医療,介護・福祉関係者だけでなく,国民に十分な理解を得て,認知症患者の歯科的対応と歯科治療を充実させ,認知症患者のQOLの維持と尊厳保持を進めていくことが日本老年歯科医学会の使命と考える。そのために,日本老年歯科医学会は,日本老年学会,歯科関連学会と協働し,学際的および多職種と連携して認知症の諸問題の解決に取り組み,正しく必要な情報を社会に発信していく決意をここに示す。
著者
桑澤 実希 北川 昇 佐藤 裕二 赤坂 恭一朗 金原 大輔 瀬沼 壽尉 吉岡 達哉 石橋 弘子 今井 智子 新井 元 杉山 雅哉 吉江 正隆
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.387-390, 2004-12-31
参考文献数
6
被引用文献数
3

超高齢社会を迎えるなかで, 高齢者のQOLを支えるためには口腔の管理と口腔ケアが不可欠と考えられる.ここに大田区の特別養護老人ホームにおける昭和大学歯科病院の訪問歯科診療の実態と2003年度の訪問歯科診療の概要について報告する.我々は1998年より同施設の依頼により訪問歯科診療を開始した.現在は毎週木曜日の15 : 30~17 : 30まで, 歯科医師4名と歯科衛生士1名で往診を行っている.2003年度の歯科診療は同施設と歯科病院外来の合計で200件, 口腔衛生指導は226件で, 全ての合計は426件であった.2003年度の歯科診療は義歯に関するものが105件と半数近くを占めた.次いで, 歯科医師によるスケーリングなどの歯周治療が61件, 残存歯の削合や充墳処置など保存関連の治療が14件であった.他には, 抜歯・摂食相談・粘膜疾患など多岐にわたった.これより, 訪問歯科診療には各専門科の連携が必要であることが示唆された.歯科病院外来での治療は通院が必要かつ可能な場合においてのみ行われた.通院件数は43件あり, 内容は義歯の製作と充填処置・抜歯処置であった.しかし, 歯科病院への通院は入居者・施設職員ともに大変な負担を強いることとなるので, 今後は施設内でより高度な歯科治療を提供できるように診療器材を充実させる必要があると考えられた.
著者
飯島 裕之 山縣 健佑 北川 昇 張 仁彦
出版者
社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.61-70, 1997-02-01
参考文献数
23
被引用文献数
8

Oral movement trajectories in a denture wearer were studied to evaluate masticatory capability by monitoring orofacial movements during mastication of a color-developing chewing gum. The subject was an edentulous patient who had 4 dental implants of the mandible to anchor a mandibular overdenture.<BR>To monitor the orofacial movements, a cordless light-emitting target that was recorded as a shining point with a clear outline when illuminated by a cold spot light was developed. An image processor enabled the recording and autotracking of multiple reference points.<BR>The subject chewed a new color-developing chewing gum that, on mastication, indicates the patient's masticatory capability using the intensity of red.<BR>During 250 strokes of chewing, the subject's face markers were recorded on a video tape by two high-speed TV camaras from two different perspectives, i. e., frontal and lateral. At the end of every 50 strokes, the color of the chewing gum was assessed by a Chroma Meter (CR-300, Minolta Co.), with respect to the degree of redness or a* value. Thus, the same chewing gum was continuously chewed for a total of 250 strokes, with the a* value measured at the end of every 50 strokes in 5 stages.<BR>Then, the video tape recordings of the start of the first stage (1F) and the end of each stage (1L-5L) were reproduced on a high-speed video and fed into an image processor (Image Data, ID-8000). The movements of each marker were automatically tracked by the Image Data, after which the resulting data of the 3-dimensional coordinates were fed into a computer.<BR>The trajectory of each monitored point during the 4 sec of each stage was computed by a 3-D analyzer (Movias 3D) with reference to the following parameters: the total length from start to finish of the trajectory (TL); the distance between the start and finish of the trajectory (SL); the ratio of the TL to the SL (T/S); the volume of the rectangular solid encompassing the entire trajectory (the cubical range); and the mean of the 3-dimensional angles that were created by differences in the direction of the preceding and following trajectories at each measured time (TH).<BR>Our results revealed that the time needed for one chewing cycle reduced gradually from 1F to 5L. Similarly, the TL of the incisal point (IP) and the THs of both the IP and the modiolus (Mo) also gradually reduced. These findings indicated that as mastication proceeds, the range of mouth movement becomes narrower and all the trajectories become smoother.
著者
佐藤 裕二 角田 拓哉 北川 昇
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.448-454, 2019-03-31 (Released:2019-04-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1

口腔機能低下症の評価方法の一つとしてオーラルディアドコキネシス(ODK)が挙げられる。ODKは1秒間に/pa/ /ta/ /ka/をそれぞれ何回発音できるかをカウントする。しかし,高齢者自身が簡便に測定することは困難である。そこで,本研究ではODKの簡便な自己評価方法を考案し,従来法と比較した。 「ぱたか」と10個書かれた用紙を順に指さしながら発音し,自分で秒針のついた時計で時間を測定した(pataka 10回法)。また,同時に測定者がストップウォッチで時間の測定を行った。ODKの測定には口腔機能測定機器を用いた。結果を1秒ごとの発音数に換算した。被験者は高齢者27名で,測定はそれぞれ2回行い,その平均をデータとした。 pataka 10回法はODKの/pa/と/ta/と/ka/に有意な正の相関を示し,pataka 10回法で被験者と測定者の測定結果は有意な正の相関を示した。ODKでいずれかが4回/s未満を舌口唇運動機能障害の閾値とし,pataka 10回法で被験者測定が6秒以上,測定者で5.5秒以上を閾値としたときの感度はともに1.0,特異度はそれぞれ0.90,0.95であった。 新たに考案した方法は,閾値についてはさらなる検討が必要であるものの,患者による自己評価方法として有用である可能性が示唆された。
著者
杉木 進 山縣 健佑 樋口 貴大 杉山 一朗 北川 昇
出版者
社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.257-270, 2001-04-10
参考文献数
21
被引用文献数
6 1

目的: 本研究の目的は, 被験音 [サ], [シ] を義歯装着時と無歯顎時にそれぞれ発音させ, 静的パラトグラフィーを利用して, 舌と口蓋ならびに歯槽部, あるいは舌と上顎義歯との接触パターンを比較することである.<BR>方法: 被験者は, 無歯顎者10名 (男性3名, 女性7名). 口蓋ならびに上顎歯槽部を覆う黒色ビニール製の人工口蓋板に白色アルジネートの粉末を散布し, 被験者の口腔内に装着した. 被験音の発音後に, 人工口蓋板の舌接触部位は湿って白色から黒色へと変化して判別できた. 新たに開発した画像解析システムを使用して, 各被験者の同一被験音5回のパラトグラムを平均化した. 各被験者のパラトグラムを平均化したパターンを標準歯列模式図上に変換した. 同一音を累積したパラトグラムについて接触面積と左右の接触部位間の最短距離を比較した.<BR>結果: 無歯顎時 (E) と義歯装着時 (D) のパターンを比較すると, [サ], [シ] 発音ともに接触面積は, EのほうがDより広く, また, 左右の接触部位間の最短距離も, EのほうがDより有意 (Student t-test, p<0.05) に短かった.<BR>結論: パラトグラムのパターンは, Dに比較してEでは口蓋前方部への舌接触範囲が広く, 口蓋ヒダ部での呼気流路を示す "せばめ" が狭まる傾向がみられた.
著者
河野 真紀子 佐藤 裕二 北川 昇 椎名 美和子 原 聰
出版者
社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会雑誌 (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.260-269, 2007-04-10 (Released:2010-08-10)
参考文献数
26
被引用文献数
4 7

目的: 超高齢社会を迎えた今, 患者のQOL向上のためには, 効率的で質の高い義歯治療が重要である, そこで, 義歯治療のテクノロジーアセスメントの手法を用いて, そのアウトカムを調査し, 新義歯治療における患者の義歯に対する評価の経時変化と, その原因を明らかにすることを目的とした.方法: 上下総義歯を新製した患者35名のアウトカムを検討した. 本研究では, 咀嚼機能・満足度・顎堤の状態をテクノロジーアセスメントとし, そのスコアを算出して用いた. 診査時期を,(1) 新義歯完成前の旧義歯使用時 (2) 新義歯装着後初回調整時 (3) 装着後約1ヶ月の3回とし, その評価の変動を検討した. また, 咀嚼機能評価および満足度評価の評価構成因子を分析・検討した.結果: 咀嚼機能評価では, 旧義歯の評価が高いほど新義歯の評価が低下する傾向が示された.満足度評価は, 経時的にスコアが上昇し, 「上顎義歯の適合性」と「下顎義歯の違和感」が満足度評価を左右する因子であることが示された. さらに, 咀嚼機能評価と満足度評価の変動には, 正の相関が示された.結論: 新義歯装着前後の患者の義歯に対する評価の経時変化と, その原因が明らかになり, 患者の満足度を高めるためには, 咀嚼機能および上顎義歯の適合性下顎義歯の違和感に重点をおいた治療をすべきであるという臨床的な示唆が得られた.
著者
山垣 和子 北川 昇 佐藤 裕二 岡根 百江 真下 純一
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.402-411, 2012

口腔乾燥症状を訴える義歯装着患者の問題点は,義歯の維持力が低下することである。そこで,口腔乾燥症の対症療法に用いられる口腔保湿剤の種類や物性の違いが,義歯の維持力に与える影響を明らかにすることを目的とした。被験試料は口腔保湿剤 21 種類(スプレー,リキッド,ジェルタイプ)と,対照として人工唾液 1 種類,唾液類似液 3 種類,義歯安定剤 2 種類(クリームタイプ)を用いた。曳糸性:NEVA METER<SUP> &reg;</SUP>を用いて各試料の曳糸性を求めた。粘度:ブルックフィールド型回転粘度計を用いて各試料の粘度測定を行った。維持力:上顎模型と実験用床との間に試料を介在させて義歯の中央に付与したリングを 0.5 N/sec でばねばかりで牽引し測定した。粘度はジェル(1.5×10<SUP>5 </SUP>mPa・s)が他の試料に比べ,有意に大きな(p<0.05)値となった。維持力は,リキッド(14.4 N)はスプレー(3.6 N)よりやや大きく(p<0.05)なり,ジェル(30.1 N)ではさらに大きく(p<0.05),義歯安定剤(36.0 N)と同等であった。維持力と粘度(対数)は有意に正の相関を示した(r=0.98,p<0.01)。今回の結果より,維持力は粘度に関係があり,粘度の大きい口腔保湿剤は義歯安定剤と同等の維持力を発揮することが明らかになった。
著者
古川 周 山縣 健佑 金 修澤 北川 昇
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.147-163, 1992
被引用文献数
13

調音動作のスムースさを判定するためには, 音発生中のみならず, それ以前の口腔の動態を観察することが重要である.そこで, 正常者10名について [sa, ma] の発音前後を含めて, (1) 切歯点, (2) オトガイ点, (3) オトガイ中間点, (4) 下口唇, (5) 上口唇の運動経路を解析した.MKGによる切歯点または顔面側貌上の標点とリアルタイム音声周波数分析表示装置 (SSD) による声紋の両画面をハイスピード・ビデオ装置によって同一テープに記録する.テープを低速再生し, モニター上で声紋像を参照して子音発音時点を求め, 調音運動開始から子音発音終了後までを4時限に区分して標点の座標を入力する.運動経路の複雑さを表現するため, 直線距離 (SL), 移動距離累計 (TL), 迂回度 (T/S), 移動範囲面積 (AR), 方向変更角度 (TH), 速度 (V) を演算処理するソフトを開発し, 比較したところ以下の結果を得た.1.調音運動開始時から子音発音開始時までは複雑な動きをするが, 特に子音発音開始時点の400msec前から200msec前までの間は移動が少ない.2.上口唇以外では, 子音発音開始前より子音産生中の方が直線距離と移動範囲面積, 速度は大きく, 迂回度と変更角度の値が小さく, 子音発音中には直線的に早い速度で移動している.3. [sa] では, 切歯点では音産生前にいったん開口し, 子音開始位で再び咬頭嵌合位に接近する.子音発音開始位では, ほとんど静止状態になるが, 子音発音中央位では開口し, 速度も大きい.したがって, 子音発音開始位で [s] 音の固有の構えになる.4. [ma] では, 下口唇とオトガイ点が子音開始位で [m] 音特有の構えになる.切歯点は子音発音開始時点の200msec前から子音発音開始位までの動きが小さく, むしろ子音産生に先だって一定の構えになる.5.このように単音節の発音時には, 発音中央位よりも子音開始位あるいはその直前の位置が重要と思われる.
著者
竹内 沙和子 佐藤 裕二 北川 昇 下平 修 原 聰 磯部 明夫
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.70-77, 2010-04-10 (Released:2010-07-08)
参考文献数
27
被引用文献数
2 5

目的:有床義歯補綴治療のための適切な診断を行う上で,義歯支持粘膜のバイオメカニクス特性の評価は重要である.当教室では粘膜の硬さと厚さの両者の関連を明らかにするため超音波による粘膜厚さの計測と,周波数の減衰を応用し弾性率の計測を行った.しかし,厚さと弾性を別々に測定することは操作が煩雑で臨床応用が難しく,義歯支持粘膜の粘弾性的性質を総合的に評価できない.そこで,義歯支持粘膜の粘弾性的特性を客観的に評価するために,荷重量と厚さを同時計測する新システムを開発した.本報では,荷重と粘膜厚さの変化量の同時測定手法の確立を目的とする.方法:超音波厚さ計の90°の探触子と45°角度付探触子の柄にひずみゲージを貼付し,厚さと荷重量の同時計測を行った.測定条件は最大荷重量3.0 N,測定時間15秒とした.測定対象は,擬似粘膜として想定した厚さ3.0 mmの軟性裏装材と有歯顎者の口蓋粘膜にて弾性率の計測を行った.結果:擬似粘膜において弾性率を比較したところ,45°角度付探触子に水準器を付与することで,90°の探触子とほぼ同等の計測値が得られた.したがって,口腔粘膜においては臨床応用範囲の広い45°角度付探触子の使用が可能であることが示された.結論:45° 角度付探触子を用いた新システムにおいて荷重量と厚さの同時計測を行うことで,口腔粘膜の粘弾性について評価できる可能性が示唆された.