著者
篠崎 広一郎 北村 伸哉 平野 剛 吉田 明子 平澤 博之
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.10, pp.573-580, 2005-10-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
15

われわれは縊頸症例の臨床経過を検討し,これらの転帰を左右する因子を見極めることを目的に,実験的に解明している病態生理を考察した。【対象と方法】1998. 4~2003. 8に経験した自殺企図411例のうち,縊頸44例を対象として検討した。完遂率に関しては他の自殺企図手段と比較した。救急隊現場到着時(以下,現着時)cardiopulmonary arrest (CPA)の群とnon-CPA群に分け,転帰及び臨床経過を検討した。後者を来院時の意識障害の程度で2群に分け,年齢,男女比,縊頸形態,死亡率,社会復帰率,遅発性無酸素症後脳症の発症率に関して検討した。また,全縊頸症例において転帰を左右する因子として年齢,男女比,縊頸形態,現着時CPAの有無を取り上げその関与につき検討した。【結果】縊頸は検討期間の自殺企図手段の10.7%を占めるが,完遂率は75%と他の手段に比して最も高かった。現着時CPAの縊頸は33例あり,このうち7例に自己心拍の再開を認め,そのうち1例のみ社会復帰したが6例は死亡した。一方,現着時non-CPAは11例あり,死亡は1例,残り10例は社会復帰した。この11例には意識障害の程度で分類した2群間で背景因子や臨床経過・転帰に有意な差を認めなかった。また,全44例の転帰を左右する因子では,現着時CPAの有無にのみ有意差を認めた。【考察】縊頸で脳血流が途絶し,気道が閉塞すると,中枢神経系の不可逆的障害に次いで,心臓を含めた各臓器の固有機能が停止する。従って,現着時CPA症例の予後は不良であるとともに,CPAの有無が目撃者に乏しい縊頸の転帰を左右する唯一の因子となることが判明した。一方,自律神経反射にて短い経過時間でCPAに陥った症例では,早期に縊頸を解除し適切な処置を施行することで,速やかな心拍再開が見込まれ救命可能である。【結語】今回の検討結果を踏まえ,現着時CPAであった縊頸症例の治療に関しては,慎重に考慮する必要があると思われた。
著者
吉田 明子 加藤 正人 谷内 一彦
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.387-396, 2004-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
41

痛みの受容には多くの分子が影響を与えるが, ヒスタミンもその一つである. その作用点は, 一次性求心性神経線維と中枢ヒスタミン神経であるが, H1受容体はおもに一次性求心性神経線維上にあり, 末梢からの情報を脊髄や上位中枢へ効率よく伝達する役目を担っている. また脊髄や上位中枢にはH1受容体やH2受容体が存在して興奮性の作用を共同して担っている. とくに中枢ではH1, H2受容体ともに大脳皮質の機能賦活作用として覚醒や認知機能亢進に関与している. 最近, ヒスタミン関連遺伝子のノックアウトマウスが開発され小動物における生理学的・病態生理学的研究の新たな展開が進んでいる. 本総説では, 抗ヒスタミン薬を用いた薬物研究, 近年開発されたヒスタミン関連遺伝子ノックアウトマウス (H1, H2受容体ノックアウトマウス, ヒスタミン合成酵素ノックアウトマウス) を用いた研究, モルヒネなどのオピオイドと併用した疼痛研究の結果をもとに, 痛みの受容とヒスタミンの関与について概説する.
著者
長屋 慶 伊藤 洋介 吉田 明子
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.37-44, 2018-08-01 (Released:2018-10-10)
参考文献数
15

心臓は戻ってくる以上の血液を拍出することはできない。従って静脈還流の機序を理解することは重要である。 静脈のコンプライアンスは動脈の約30倍と非常に高い。総血液量のうち約70%が静脈系に局在し,血液のリザーバーとして機能している。なかでも内臓の静脈のコンプライアンスは高く,また総血液量の20%と容量も多い。さらに密にアドレナリンα受容体が分布し血液量の変化に対して静脈還流を調節する重要な役割を果たしている。 本稿ではreturn functionともいうべき静脈系の生理と静脈還流調節の機序について概説する。