著者
大石 理江子 井石 雄三 今泉 剛 細野 敦之 大橋 智 箱崎 貴大 小原 伸樹 五十洲 剛 村川 雅洋
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.89-92, 2019-08-01 (Released:2019-09-19)
参考文献数
3

東日本大震災の発生時,当院では胸腹部大動脈瘤に対して腹部大動脈分枝再建術が施行されていた。腹部分枝をバイパスしている途中であり手術中止の判断が難しい症例であったが,中止して閉腹し,覚醒させて帰室させた。 災害時は病院の立地,建物の被災状況,手術の状況等が手術を続行するか否かの判断に影響する。本症例のような経験の共有が,次の災害発生時の対応を改善すると考える。
著者
相馬 雄輔 藤田 淳 遠山 周吾 金澤 英明 福田 恵一
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-7, 2020-08-01 (Released:2020-09-10)
参考文献数
12

我々はiPS細胞を用いてヒト再生心室筋細胞を作出することに成功した。また,細胞のエネルギー代謝の差を利用して未分化幹細胞と非心筋細胞を除去し,心筋細胞の純度を99%以上に精製する代謝的純化法を開発した。さらに,再生心筋細胞から微小心筋組織(心筋球)を作製し,特殊な心筋球移植デバイスを開発することで心筋球移植法を確立した。免疫不全動物を用いた心筋細胞移植の造腫瘍性試験ではiPS細胞由来心筋細胞による腫瘍形成は観察されなかった。これらの基礎研究の結果から臨床応用へと進む準備が整ってきたと考え,今後ヒトを対象とした臨床研究を予定している。本稿にて再生医療の現状と将来展望を解説する。
著者
長屋 慶 伊藤 洋介 吉田 明子
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.37-44, 2018-08-01 (Released:2018-10-10)
参考文献数
15

心臓は戻ってくる以上の血液を拍出することはできない。従って静脈還流の機序を理解することは重要である。 静脈のコンプライアンスは動脈の約30倍と非常に高い。総血液量のうち約70%が静脈系に局在し,血液のリザーバーとして機能している。なかでも内臓の静脈のコンプライアンスは高く,また総血液量の20%と容量も多い。さらに密にアドレナリンα受容体が分布し血液量の変化に対して静脈還流を調節する重要な役割を果たしている。 本稿ではreturn functionともいうべき静脈系の生理と静脈還流調節の機序について概説する。
著者
安部 和夫 佐藤 尚司 里井 明子 近藤 晴彦
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.87-91, 2016 (Released:2016-09-03)
参考文献数
9

エホバの証人は輸血拒否の姿勢が特徴的であるが特に心臓血管手術では大きな問題である。今回我々は2001年から2015年までの間に人工心肺下に46例のエホバの証人の心臓血管手術を経験したので報告する。手術の内訳は冠動脈バイパス術3例,弁疾患手術22例,大血管手術19例,心室中隔穿孔手術2例であった。予定手術31例,緊急手術15例であった。手術中の最低ヘモグロビン値は6.1±2.0 g/dL,術後の最低ヘモグロビン値は6.7±2.0 g/dLであった。術後24時間以内の死亡例は2例であった。我々は全症例において赤血球濃厚液,凍結血漿,血小板のいずれも輸血しなかった。
著者
中野 雄介 脇本 将寛 小林 隆史 鈴木 健二
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.111-117, 2020-08-01 (Released:2020-09-10)
参考文献数
11

症例は63歳の男性,身長165 cm,体重55 kg。大動脈弁閉鎖不全症・僧帽弁閉鎖不全症の再燃に対し手術が予定された。麻酔導入後,完全房室ブロックと血圧低下を来たし,一時胸骨圧迫を要した。気道内圧の上昇と全身性の紅斑を認め,アナフィラキシーショックと診断した。経食道心エコーで全周性の壁運動低下,肺動脈圧の上昇を認めたため,冠攣縮を疑い硝酸薬を投与した。その後速やかに肺動脈圧の低下と心収縮能の改善が得られ,血行動態は安定した。アナフィラキシーまたは急性冠症候群の徴候を認めた際には常にKounis症候群の可能性の考慮と,状況に応じた速やかな治療が求められる。
著者
石井 久成
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.17-19, 2016 (Released:2016-09-03)
参考文献数
13

第20回学術大会における「プロ・コン―レミフェンタニルを心臓麻酔に使うか?―」の発表・討論をもとに,心臓麻酔におけるレミフェンタニルの特徴を,循環動態への影響,心筋保護効果,術後経過への影響,医療経済への影響に焦点を当てて概説した。
著者
中村 一文 赤木 達 岩野 貴之 江尻 健太郎 杜 徳尚 伊藤 浩 清水 一好 岩崎 達雄
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.7-12, 2021-08-01 (Released:2021-10-15)
参考文献数
26

肺動脈性肺高血圧症は血管収縮,血管リモデリングなどにより肺動脈内腔の狭窄・閉塞を来たし,肺動脈圧の上昇と右心不全を引き起こす疾患である。本稿では肺循環の生理と肺動脈性肺高血圧症の病態生理をふまえて治療法を述べてみたい。まず肺循環の生理には三つの特徴がある。1) 体循環系に比べて低圧系・低抵抗系かつコンプライアンスが大きい。2) 低酸素性肺血管攣縮がある。3) 三つの生理活性物質(プロスタサイクリン・一酸化窒素・エンドセリン)により調節されていることである。これらは早期発見・治療の重要性,酸素投与,三系統の特異的肺血管拡張薬についての理解にそれぞれ結びつく。次に肺動脈性肺高血圧症の病態生理として肺血管の収縮とリモデリングがある。これらは三系統の薬剤の初期からの多剤併用療法の必要性につながる。
著者
瀬尾 勝弘
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.13-18, 2018-08-01 (Released:2018-10-10)
参考文献数
22

心疾患合併患者の非心臓手術の周術期管理のうち,米国,ヨーロッパ,本邦のガイドラインなどを参照して,冠動脈疾患と大動脈弁狭窄症(AS)を中心に紹介する。 冠動脈疾患については,新しい世代の薬剤溶出性ステント(DES)では留置後6か月あるいは3か月以上であれば非心臓手術を行うことが許容されてきている。 ASについては,周術期管理の進歩に伴い,重症でも無症状であれば中等度リスクまでの予定非心臓手術は行ってよいとされている。一方,バルーン大動脈弁形成術(BAV),経カテーテル大動脈弁置換(留置)術(TAVR, TAVI)が普及して,非心臓手術を受ける重症AS患者に対する周術期管理の選択肢が広がっている。
著者
宜野座 到 渡邉 洋平 和泉 俊輔 野口 信弘 照屋 孝二 垣花 学
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.79-83, 2020

<p> 38歳の女性,冠動脈3枝病変の不安定狭心症に対して人工心肺下冠動脈バイパス術(On-pump coronary artery bypass, ONCAB)が予定された。麻酔導入後,声門下狭窄に伴う挿管困難が判明した。適切な気道確保を行わなければ,周術期の呼吸器合併症のリスクが高いと判断し,一旦手術を延期しアプローチ法を検討した。後日,上気管切開術と下部胸骨部分正中切開による一期的ONCABを施行し良好な術後経過を得た。</p>
著者
河野 崇
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.27-33, 2020-08-01 (Released:2020-09-10)
参考文献数
51

術後神経・認知機能異常は,高齢心臓血管手術患者に頻度が多く,長期予後に影響する重大な術後合併症である。発症様式により,術後せん妄と術後認知機能障害とに分類される。これらに共通する病態機序として脳内神経炎症の役割が注目されている。特に,加齢に伴う脳内常在性ミクログリアの炎症反応性変化は,手術侵襲に対する高齢脳の認知脆弱性に関与する。脳内神経炎症仮説に基づく術後神経・認知機能異常の予防・治療戦略では,急性期に生じる術後せん妄に対する対策が最も重要と考えられる。本稿では,脳内神経炎症仮説を踏まえつつ,術後神経・認知機能異常の定義,病態機序,予防,治療戦略について概説したい。