- 著者
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吉野 悦雄
弦間 正彦
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2004
本研究は,東欧10か国が2004年5月1日にEU(当時15か国)に加盟した時点から3年間の間に,市民(労働者)・消費者・農民の経済行動カルチャーにどのような変化が生じたかを研究することを目的としている。研究対象国は,上記10か国中で最大の経済規模を持つポーランドと,一人当たりGDPが最低水準であったリトアニアの2か国に限定した。研究領域は3分野から構成された。第一は,農民の意思決定メカニズムの変化である。土地所有面積の両極分解,作付け作物の選定に際しての利益追求志向への転換を調査した。第二は,消費者金融に対する消費者の意識転換である。マクロ的家計統計の観点と同時に,住宅ローンに限定したミクロ的行動の変化を調査した。第三は,西側への国外出稼ぎ労働である。私たちは,この三分野で,2004年以降,市民(労働者)・消費者・農民の経済行動カルチャーに大きな変化が生じると予想して,研究を開始したが,研究の結果は,この研究成果報告書が明らかにするように,予想をはるかに上回る劇的な変化が生じていたのである。農民は,EU経済での利益商品の生産に特化した。作物の種類と生産高は毎年,3倍増にも5割減にも激しく変化した。消費者は住宅ローンに走り,住宅建設バブルがポーランドでもリトアニアでも生じた。住宅ローン融資は,ほとんど毎年,倍々ゲームのように拡大した。労働者は失業者でなくとも西側に出稼ぎに行くようになった。とりわけ医師など高学歴者の国外出稼ぎが急増し,ポーランド国内では医師不足・熟練技術者不足という現象が深刻になった。以上の三つの研究領域は,我が国ではまったくの未開拓領域であり,多くの研究者に多少なりとも有意義な情報を提供することができたと考えている。