著者
吉野 悦雄 塩谷 昌史
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.41-61, 2007-09-06

筆者たちは2005年にベラルーシの東部でポーランド国境から15キロメートル圏内にある中規模都市のグロードノ市とブレスト市 を訪れ,そこの企業を4社づつ,合計8社で企業聞き取り調査を行った。業種は裁縫業,煙草工場,牛乳工場,ガス器具工場,百貨店,自転車工場,ゼネコン,壁紙販売業である。調査の目的はベラルーシにおいてEU経済の影響がどの分野でどのように及んでいるかを調査することであった。イタリア服飾企業の下請の例と,EU向けへ安売り自転車を製造している例を除くと,EU経済の影響はさほど強くなかった。ガス器具工場はロシア資本の支配下にあった。しかし百貨店ではコンピュータ・システムをEU企業が設計するなど,いずれの企業でも何らかのEU経済の影響は発見できた。この<資料>はベラルーシの現地企業を直接聞き取り調査した日本で最初の試みの調査報告である。
著者
吉野 悦雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

EU6ヵ国におけるポーランドとリトアニアからの移民の出国動機ならびにEUの対応のアンケート調査研究。調査国は,独,仏,英,アイルランド,スペイン,デンマークであった。161人の移民労働者と平均50分のインタビューをおこない,その結果を統計的に分析した。特に移民の第一動機が高収入であるとの従来の欧米での通説に対して,男女の愛と夫婦の絆が移民の第一動機であることが明らかになったことが最大の成果である。
著者
吉野 悦雄 ジャミヤン ガンバト
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.31-41, 2006-03-09

本稿ではモンゴルにおけるGDP計算方法の実態について分析する。モンゴル政府は,国民経済統計を市場経済体制に適応した統計制度に切り替えている。遊牧民の所得はGDPに計算されているが,ミルクなどの畜産物はその諸経費の把握が困難なためにGDPに計算されていない。また,法人企業のGDP計算はほぼ国連SNA基準に基づいて行われている。しかし,個人経営の商店やタクシー屋などの所得は測定できないがゆえに,GDP計算には算入されていない。
著者
吉野 悦雄
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.75-88,122, 2003-01-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
10

ポーランドは1999年1月1日より新しい年金制度を導入した。第一の特徴は、従来の年金賦課方式から年金積み立て方式に転換したことである。第二の特徴は、積み立て金の一部の運用を民間の年金基金に委ねたことである。第三の特徴は、企業別の年金組合の設立を認めたことである。しかしながら現存する年金受給者や高齢層従業員への年金財源の確保のため、、事実上の賦課方式も存続させる折衷策を採りつつ、長期のスパンで積み立て方式への移行をめざすことになった。なおポーランドの年金改革は日本における確定拠出年金(401K)の検討にとっても参考となる点があると考える。
著者
吉野 悦雄 弦間 正彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,東欧10か国が2004年5月1日にEU(当時15か国)に加盟した時点から3年間の間に,市民(労働者)・消費者・農民の経済行動カルチャーにどのような変化が生じたかを研究することを目的としている。研究対象国は,上記10か国中で最大の経済規模を持つポーランドと,一人当たりGDPが最低水準であったリトアニアの2か国に限定した。研究領域は3分野から構成された。第一は,農民の意思決定メカニズムの変化である。土地所有面積の両極分解,作付け作物の選定に際しての利益追求志向への転換を調査した。第二は,消費者金融に対する消費者の意識転換である。マクロ的家計統計の観点と同時に,住宅ローンに限定したミクロ的行動の変化を調査した。第三は,西側への国外出稼ぎ労働である。私たちは,この三分野で,2004年以降,市民(労働者)・消費者・農民の経済行動カルチャーに大きな変化が生じると予想して,研究を開始したが,研究の結果は,この研究成果報告書が明らかにするように,予想をはるかに上回る劇的な変化が生じていたのである。農民は,EU経済での利益商品の生産に特化した。作物の種類と生産高は毎年,3倍増にも5割減にも激しく変化した。消費者は住宅ローンに走り,住宅建設バブルがポーランドでもリトアニアでも生じた。住宅ローン融資は,ほとんど毎年,倍々ゲームのように拡大した。労働者は失業者でなくとも西側に出稼ぎに行くようになった。とりわけ医師など高学歴者の国外出稼ぎが急増し,ポーランド国内では医師不足・熟練技術者不足という現象が深刻になった。以上の三つの研究領域は,我が国ではまったくの未開拓領域であり,多くの研究者に多少なりとも有意義な情報を提供することができたと考えている。
著者
ガンバト ジャミヤン 吉野 悦雄
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.73-93, 2005-06-09

モンゴルは、市場経済に移行して国際社会から援助を受けるようになった。モンゴルは1991年から2002 年までの間に総額で23.6 億米ドルのODA を受けている。このODA 総額のうち日本からのODA 額は約36%を占めており、日本はモンゴルにとって第1 位のドナー国となっている。このような多額にのぼる外国ODA はモンゴルの社会・経済において疑いもなく重要な役割を果たしている。本稿では、モンゴルに対する外国ODA の実態を概観し、日本のODA の現状と課題について検討する。さらに事例分析を通じて日本のODA のモンゴル社会・経済に与えている効果について分析を行う。本稿の検討からはODA 法の整備の遅れが悪影響を及ぼしたことが分かる。日本のODA はモンゴルの経済インフラを中心として行われている。ODA 事業の失敗例もあるが、モンゴルに対する日本のODA は非常に重要な意義を持ち、欠かせない役割を果たしていると位置づけられよう。