著者
藤森 信吉
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.51-60,92, 2006-08-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
30

ウクライナの「オデッサ・ブロディ」原油パイプラインは,原油供給源および輸入ルート面でのロシア依存解消を目的として建設された。しかし,供給源のロシア依存解消は主要な国内製油所がロシア資本傘下に入ることにより意味を失い,さらにロシア以外の原油供給源が確保できなかったため完工後も稼働に至らなかった。同パイプラインは,2004年,原油輸出の追加ルートを求めていたロシアが原油を供給することにより輸送を開始したが,結果的に当初の目的を果たしたとはいえず,ウクライナはロシア依存を一層深めることになった。
著者
影山 摩子弥
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.37-45,75, 2003-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
6

資本主義は,理性主義のシステムである。つまり,資本主義は,科学・技術や思考といった理性の成果や機能に依拠しているだけではなく,理性の特性(対象化認識のツール,一般性・普遍性,ヒエラルキー,自律性)を形態的に体現している。それを明らかにして始めて,環境問題,ノーマライゼイションに基づく福祉,知識創造,NPO・ボランティア組織,ネットワーク組織が,新しいシステムを求めるものであることが明らかになる。
著者
久保庭 真彰
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.18-29,120, 2003-01-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
11

この10年間におけるロシアの市場経済化プロセスは,周知のように様々な特異な様相を呈している。最近3年間のロシア経済の好調の中で,投資の増加や連邦財政黒字基調や非貨幣取引抑制など顕著な改革の成果をみることができるが,極端な「産業空洞化」と「サービス経済化(商業肥大化)」が依然として見られる。また,グローバリゼーションが進行する中で,ロシアの国際資本市場への統合は,依然として,相対的に僅少な外国直接投資(FDI)流入と膨大なキャピタル・フライトという好ましからぬ2要因によって特徴付けられる。国内市場の特異性と国際市場のそれとをリンクするキイセクターの1つは,ロシアの「サービス経済化」の中核を担う商業部門である。本稿は,最新の産業連関表の付帯表として作成されている商業マージン・マトリックスを基本データとして利用して,ロシアの商業マージンを分析し,国際比較の中にそれを位置づけることによって,ロシア市場経済化の特異性の一側面を浮き彫りにするこれまでの筆者の試みをフォローアップしている。
著者
山田 鋭夫
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.15-28,101, 2007-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
23
被引用文献数
2 3

本稿は資本主義経済をその制度的多様性の観点から類型化し,その意味を問う。これに関する研究として,1990年代以降,2類型論と5類型論という2大所説が展開されている。その議論を整理しつつ,そこで原理的に問われているものとして,「資本原理と社会原理の対抗と補完」および「社会的調整の多様性」という論点を取り出し,もって資本主義多様性論に関する有効な分析視角を提起する。
著者
金 秀日
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会会報 (ISSN:18839797)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.83-89, 2001

ハイエク(Friedrig August von Hayek,1899~1992),レプケ(Wilhelm Röpke,1899~1966),山田盛太郎(1897~1980)の三者は共に19世紀末に生を受け,ナチズムと軍国主義の台頭という歴史の激流に抗しつつ壮年期を経た経済学者として知られている。ハイエクはネオ・リベラリストの,レプケはオルド・リベラリストの,山田は日本の講座派マルキストの重鎮である。<BR>1989年11月ベルリンの壁崩壊以後,市場経済に対する信頼が喧伝されて来た。結果的にロシア・東欧の厳しい賃金危機と(ハイパー)インフレーションを招きながらもなお,ドイツにおける社会国家解体論,日本における新自由主義(あるいは新保守主義)改革必要論が勢いを増している。ロシア・東欧のみならず,旧西側の住人の我々にも市場経済の有効性を再検討する意義が高まっている。本稿はこうした間題意識に立ち,社会哲学者としてのハイエク,エアハルトの経済顧問としてオイケンと共に実際家としても活躍したレプケ,日本の農地改革プラン作成に大きな影響を与えた山田の認識を市場を軸として比較検討し,その思想を整理するものである。
著者
ガンバト ジャミヤン
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.72-84,100, 2004-06-30 (Released:2009-12-03)
参考文献数
21
被引用文献数
1

モンゴル市場経済移行期の初期10年間においては,農村地域県の経済水準が低下し,医療水準などの社会状況も悪化した。そして人口の都市地域県への移動が増加した。特に,首都ウラーンバートル市を中心とした一極集中の開発傾向が進行している。このような状況は地域間の格差を拡大し,首都ウラーンバートル市自体に悪影響を及ぼしている。農村地域県の牧畜業は国民経済の発展にとって重要な要因であることに変わりはないということを考慮に入れると,農村地域県の社会・経済状況の改善措置は緊急課題といえよう。
著者
志田 仁完
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.49-59,102, 2007-01-31 (Released:2009-12-03)
参考文献数
55

ソ連の強制貯蓄は,実証上の困難や体制転換に伴う議論の中断のため,十分に検討されていない。そのため,その要因として指摘されてきた(1)公式市場の不足,(2)第二市場の存在の有無と完全性の是非,(3)公式市場から第二市場への消費者の行動転換の不十分さ,といった側面は個別的な検討に留まり,統合的には検討されてこなかった。そこで,本稿では,これの要素を統合し,ソ連の強制貯蓄を説明するための筆者独自のモデルを提示する。
著者
Valeriy ZAITSEV
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会会報 (ISSN:18839797)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.32, pp.56-59, 1994-10-01 (Released:2009-07-31)

Grand designs are associated with great risk. So it was with Communism, so it with Liberal capitalism.The victory of former communists in Poland, and more recently in Hungary's parliamentary elections, and strategic retreat of pro-reform parties and politicians in Russia, Belarus and Ukraine could mean that countries in Eastern Europe and the former Soviet Union are trying to achieve too much too fast in their market reforms.This paper supports the gradualist position in Russia and maintains that transition can be managed more gently, with better protection for those who stand to lose. The Paper also claims that Russia should learn more from the East Asian model of economic and social development. From different aspects, especially because of the legacy of state-led command economy, can-style libertarian approach to reforms.
著者
阿部 望
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.1-11,77, 2005-06-04 (Released:2009-07-31)
参考文献数
15

南東欧は将来EUへの加盟を確実視されているが,未だに多くの政治経済的な困難を抱え,EU加盟を果たしていない。本稿では南東欧の中でも特にセルビア・モンテネグロに焦点を当てて,EU加盟のプロセスと経済体制移行の問題点と展望とを考察する。本稿は,この国の特異な国家形態のゆえに既存の国際支援パッケージでは限界のあること,そしてコソボ問題の解決こそがこの国の発展にとって最重要な課題であることを主張する。
著者
金子 泰
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.13-25,77, 2005-06-04 (Released:2009-07-31)
参考文献数
41

ポーランドにおいては,体制転換後,重厚長大型産業・研究開発拠点立地地域,農村地帯を中心に産業構造転換と失業問題の解決が喫緊の課題とされた。ポーランド政府は,打開策として,投資インセンティブを付与した経済特区創設による外資誘致を図った。経済特区へは,同国向けFDIのごく一部が流入したに留まり,雇用創出効果も小さい一方,多国籍企業の積極進出を得たことから,外資誘致に一定の効果を齎したものと判断される。
著者
杉浦 史和
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.27-41,77, 2005-06-04 (Released:2009-07-31)
参考文献数
50
被引用文献数
1

市場経済への移行を図る1990年代のロシアでは深刻な未払問題に見舞われた。企業から銀行への未払は,緊縮政策,銀行監督強化,およびマクロ経済状況の悪化を背景に93年から98年にかけて増加した。ズベルバンクなど旧専門銀行系の銀行は「不良企業」への融資を継続したのに対して,新設民間銀行は企業向け融資を縮小して期限超過信用の発生を抑制した。この結果,銀行における未払は,一部に集中する結果をもたらした。
著者
松澤 祐介
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.43-55,77, 2005-06-04 (Released:2009-07-31)
参考文献数
46
被引用文献数
1 1

移行期のチェコでは,銀行監督の不備,大銀行私有化の先送り,度重なる銀行救済とその安易なファイナンスの仕組等から,銀行部門で「モラル・ハザード」を発生する構造があり,移行の「痛み」を緩和すべくこれが放置されたため,10年に渡る銀行危機の長期化を招いた。大銀行の私有化,銀行規制のEU基準への調和等で状況は改善したが,膨大な不良債権という移行戦略の負の遺産が依然として残されている。
著者
鈴木 拓
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.57-67,78, 2005-06-04 (Released:2009-07-31)
参考文献数
86
被引用文献数
2 2

本稿の目的は,移行国政府に関する議論を,経済成長を切り口に整理しつつサーベイすることであり,筆者の総括は以下3点に要約しうる。1)移行国政府は,伝統的市場化政策等の諸政策を進める必要がある一方,市場化のスピードについては更なる検討の余地が示唆されている。2)政策実行能力確保の為に,法の支配の徹底と汚職の防止が求められている。3)民主化が持続的成長の為の保険となる可能性は,数多く示唆されている。
著者
Takeshi Inoue
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.15-23,59, 2005-01-31 (Released:2009-07-31)
被引用文献数
1

The theoretical literature points out that inflation targeting and the exchange rate peg have the advantage of lowering the inflation rate. Controlling for the other relevant variables, this paper estimates the effects of these policies on the inflation rate in 20 transition countries during 1995-2003 by using regressions on panel data. The main finding is that inflation targeting and the exchange rate peg appear to have been effective in lowering inflation rate even in transition countries.
著者
鄭 光敏
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.25-34,59, 2005-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
24

本稿は都市部飢饉としての北朝鮮飢饉の性格の解明の一環として,北朝鮮の政治経済システムの中核に位置する,首領経済が,人々の食糧の獲得能九すなわち,「食糧エンタイトルメント」にいかなる影響を及ぼしたかを論じた。北朝鮮における食糧配給システムは,首領とその一家を頂点とした差別的ヒエラルキー構造になっている。このようなエンタイトルメントのヒエラルキーを規定する物質的基礎は「首領経済」の形成にあった。
著者
黒坂 真
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-40,59, 2005-01-31 (Released:2009-12-03)
参考文献数
4

北朝鮮では,金父子に対する崇拝が強化されてきた。本稿は北朝鮮の体制について二種類のモデルを提起する。第一は労働党幹部が,一般国民の労働配分を直接決定できる場合である。第二は労働党幹部が,一般国民の誘因制約と参加制約を考慮して,一般国民と契約をする場合である。分析により,脱北したときに得られる所得が低いと一般国民がみなしてきたことが,金父子に対する崇拝強化の重要な原因であることがわかる。
著者
今村 弘子
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.41-49,59, 2005-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
6

北朝鮮は2002年7月に価格改革を主とする経済管理改善措置を開始した。同措置を中国の改革開放政策と比較すると,同措置は順序を無視した改革であること,北朝鮮では金日成から金正日と政権が連綿と続いていること,北朝鮮の経済があまりに困窮しており,インセンティブ・システムが働かないことなどから,中国の改革開放政策と類似しそいる点は少なく,北朝鮮の経済を改善させることは難しい。