著者
宮下 由香里 吾妻 崇 小峰 佑介 亀高 正男 岸山 碧
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日奈久断層帯は,2016年熊本地震の発生を受け,地震活動が活発化するエリアに属することが指摘されている.しかし,日奈久断層帯の古地震履歴は不明な点が多い.産総研は,熊本地震以降,3年間にわたって日奈久断層帯の陸域及び海域において古地震調査を実施してきた.その結果,日奈久断層帯はこれまでに考えられてきたよりも,高頻度で地震を起こしてきたことが明らかとなりつつある.プロジェクト最終年度にあたる今年度は,八代市でトレンチ調査を行った.速報的な結果と過去2年間の調査結果,今後の課題を紹介する.トレンチ調査は,八代市川田町西地点で行った.トレンチは昨年度同地点で掘削したトレンチ南側に隣接する場所で掘削した.トレンチ掘削に先立ち,7孔のボーリングを掘削して,堆積物の層相と分布を把握し,断層通過位置を推定した.トレンチは2段階に分けて掘削した.1個目のトレンチでは,西側導入路部分に断層が露出したため,断層がトレンチ壁面の中央にくるように2個目のトレンチを掘削した.2個目のトレンチは,長さ17m,幅10m,深さ6m程度で,2段堀とした.トレンチ壁面の地層は,南北両壁面において,上位より,A:人工改変土,B:河川成のシルト,砂,C:チャネルを充填するシルト,砂,砂礫,D:河川成のシルト,砂,砂礫の各層に大別される.B層は古代の土師器を含む.D層は上部の縄文後期の土器を含むシルト・砂,中部の腐植質シルト,下部のK-Ah火山灰層を含むシルト/砂互層,最下部の砂礫層から構成される.断層は,南北両壁面で観察され,北東—南西走向,高角西傾斜の見かけ正断層である.D層以下を変位・変形させる.北壁面では,断層はD層中で上方に向かって分岐する.C層に削り込まれるが,C層最下底は変形に伴う開口亀裂を充填しているようにも見える.以上より,D層/C層境界付近にイベント層準を認定した.D層を構成する地層中では,断層両側での変位量の差違,引きずり変形の程度の違い,断層低下側での層厚の変化などが認められ,D層中に1回の古地震イベントがある可能性がある.南壁面では,平行な2条の断層面が認められる.いずれもD層上部で不明瞭となるが,B層には確実に覆われる.予察的な年代測定の結果,C層から1130±30 yBP,D層から6240±30 yBPが得られている.以上より,1130±30 yBPと6240±30 yBP間に,2回以上の古地震イベントが推定される.
著者
吾妻 崇
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-42, 1997-02-28 (Released:2009-08-21)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

淡路島北部の活断層について,空中写真(縮尺約1/10,000)の判読に基づき,変位地形の記載および活動度の再評価を行った.写真判読の結果,釜口断層と蟇浦断層を新たに認め,各断層において低断層崖や水系の屈曲がみられることを明らかにした.また,当地域の活断層を3つの断層系(淡路島東縁断層系・西縁断層系・横断断層系)に分類した.楠本断層と野田尾断層では,山麓線より平野側に低断層崖が存在する.1995年以前には野島断層に沿ってそのような低断層崖はみられず,1995年以前の活動(約2,000年前)により形成された低断層崖は侵食され消失したと考えられる.断層の活動度は,断層を横切る水系の屈曲量(D,単位m)と断層よりも上流の長さ(L,単位m)を楠本・東浦・野田尾・釜口・野島断層について調べ,関係式D=aL(松田,1975)のaの値から評価した.その結果,東縁断層系では楠本断層よりも東浦断層の方が活動度が大きいこと,西縁の野島断層の活動度は東浦断層に匹敵することが明らかになった.今回新たに認められた釜口断層bは逆向き低断層崖と考えられ,東側の海底には逆断層の存在が推定される.淡路島横断断層系では,横ずれ変位地形は認められず,西縁断層系の隆起側花崗岩類ブロックの移動に関係した逆断層的な変形が段丘面にみられる.
著者
吾妻 崇 太田 陽子 石川 元彦 谷口 薫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.169-176, 2005-06-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
25
被引用文献数
3 9 2

御前崎周辺には,御前崎段丘(高度48~25m,三崎面相当の海成段丘)と4段の完新世海成段丘(高度15m以下)が分布する.御前崎段丘は,全体として西-南西に向かって傾動し,小規模な活断層,撓曲崖および背斜構造を伴う.御前崎段丘を開析する水系の分布形態および駿河湾側の海食崖上にみられる風隙の存在は,旧汀線が北西に位置することと不調和で,段丘形成後の変形を示している.御前崎段丘上にみられる東西方向に延びる低崖は,更新世段丘上に残された地震性隆起の記録である可能性がある.完新世海成段丘は4段に区分され,I面は後氷期海進最盛期直後,II面は約3,500cal BP以前,III面は2,150cal BP以前にそれぞれ離水したと考えられる.I面の内縁高度は14mに達するが,既存のボーリングコア解析から推定される海成層の上限高度は約3mにすぎない.これらの段丘の形成過程を,海溝型の活動間隔の短い地震による隆起と,地震間における沈降および活動間隔の長い地震による大きな隆起との和として解釈した.
著者
吾妻 崇 太田 陽子 小林 真弓 金 幸隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.365-379, 1996-05
参考文献数
12
被引用文献数
1

The Nojima earthquake fault appeared along the recognized active fault in the northwestern part of Awaji Island in association with the 1995 Hyogoken-Nanbu Earthquake. This earthquake fault is dominated by right-lateral offset (max. 1.7m), with a high-angle reverse fault which has a maximum verlical displacement of 1.3m uplift on the southeastern side. We have repeated the measurement of seven profiles of the fault scarp at two areas (Hirabayashi, Ogura). The fault scarp of the Hirabayashi area (profiles 1-4) is composed of the Plio-Pleistocene Osaka Group at the base and is overlain by an unconsolidated gravel bed at the top. The Ogura area (profiles 5-7) is entirely underlain by the Plio-Pleistocene Osaka Group. The fault scarp in these two areas is characterized by an overhanging slope due to thrusting of the upthrown side. Scarp retreat at Hirabayashi occurred in association with the sudden collapse of the gravel bed and proceeded more quickly than at Ogura, where fault scarp retreat proceeded by exfoliation of the fault plane as well as partial collapse of the Osaka Group. These facts strongly indicate that the lithological control is most significant for the formation of original fault scarp as well as retreat. The retreat of fault scarp was very slow after March to June at Hirabayashi and June to July at Ogura, and proceeded more quickly than some of seismically generated normal faults.
著者
白濱 吉起 宮下 由香里 吾妻 崇 東郷 徹宏 亀高 正男 鈴木 悠爾
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日奈久断層帯は上益城郡益城町木山付近を北端とし,八代海南部に至る長さ約81 kmの断層帯である.日奈久断層帯は過去の活動時期から高野―白旗区間,日奈久区間,八代海区間に分けられる(地震調査研究推進本部 2013).2016年4月熊本地震に伴い,高野―白旗区間の北部から約6 kmの範囲に右横ずれによる地表地震断層が出現した(Shirahama et al., 2016).日奈久断層帯の将来の活動を知る必要があるが,これまでの調査では最新活動や活動間隔といった活動履歴の詳細はよくわかっていない.我々は,九州大学からの委託業務「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」の一環として,日奈久断層帯の活動履歴をより詳細に明らかにすることを目的に,熊本県甲佐町白旗山出地区と宇城市小川町南部田地区の二か所においてトレンチ調査を実施した.本発表では特に山出地区において掘削されたトレンチ(山出トレンチ)が示す日奈久断層帯高野―白旗区間の活動履歴を紹介する.南部田地区の調査結果については東郷ほか(JpGU 2017)を参照されたい.山出トレンチの掘削地点は日奈久断層帯高野―白旗区間中央部に位置し,熊本地震に伴って出現した地表地震断層の南端に当たる.本地点における地震直後の調査では,付近の水田に東上がりの傾動変形とNE-SW方向に杉型雁行配列した開口亀裂が水田の畝に確認された.地震断層に直交するように長さ14m,幅10m,深さ4mのトレンチを掘削したところ,壁面に明瞭な断層と地層の変形が確認された.主要な断層は北面に2条,南面に4条見られ,それらはすべて東から南東傾斜で,ほぼ直立した東上がりの逆断層の様相を呈していた.地層は断層付近で東から西へたわみ下がるとともに,断層を境に上下の食い違いが生じていた.また,壁面には複数枚の腐植質シルト層が見られ,下位の層準ほど断層沿いの変位量が大きく,変位の累積が確認された.トレンチ内で見られる最下部の腐植質シルト層の14C年代は約15 kaを示しており,それ以降の複数回の活動による変形が示唆される.発表では本トレンチが示す日奈久断層帯高野-白旗区間の活動履歴を報告し,他区間の活動履歴との関係について議論する.