- 著者
-
和田 有希子
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, no.3, pp.629-653, 2003
これまで鎌倉時代の臨済禅は「兼修禅」と「純粋禅」という枠組みで捉えられるのが一般的であった。この枠組みは、「純粋禅」を、禅の清規を導入し、従来の顕密諸宗から完全に距離を取った存在と見、一方の「兼修禅」を、顕密諸宗を併習する禅として明確に区別するものであった。しかしこうした枠組みは、当該期臨済禅とは何かということや、臨済禅の中世思想世界における意義を埋没させてしまう。そこで本稿では、この枠組みを一度措き、当該期臨済禅僧の交流の実態を踏まえた上で、「兼修禅」・「純粋禅」に分類されてきた円爾弁円と蘭渓道隆による『坐禅論』の内容を比較検討した。その結果、当該期臨済禅僧には「兼修禅」「純粋禅」の区分を超えた密接な交流があったこと、また円爾・蘭渓の思想に共通性の高い構造があることを確認した。このことは、「兼修禅」「純粋禅」の区分を前提とする前に、宋代臨済禅に由来する両者の臨済禅僧としての共通性とその内実に、より着目すべきことを示唆している。