- 著者
-
牧野 和夫
- 出版者
- 実践女子大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
22年度の調査は、主として初期集古会会員江藤正澄の事跡を辿るべく、九州大学附属図書館蔵の正澄自筆『随神屋蔵書目録』等の調査を7月4・5日に行なった。結果として、21世紀における中世文学・中世史料として諸資料を新たに見直し考える時、今日的な意味で資料的価値の極めて高い書物類を明治期の九州に在って蒐集し続けた江藤正澄の姿勢が顕在化してきたのである。また、平成21年より継続して行なっている家蔵集古会関係資料(林若樹自筆本・林研海自筆本・林洞海自筆本)の整理などを行なうとともに、逐次、林若樹以外の集古会関係資料の蒐集につとめたが、主として三村竹清のものを蒐集しえた。従来、知られることのなかった「文壇」の有力な人物との交流関係などがあきらかになった。具体的には森鴎外であり、早稲田大学所蔵の鴎外書簡などとの関連を今後の課題として残すこととなった。4月12日には大阪の趣味家として知られる村松百兎庵旧蔵資料の調査蒐集に赴いた。芳名録や写真類に貴重なものが多く残されていた。具体的な成果報告は予定していないが、今後の論文作成に活用し具体化していきたい。近代の趣味家の活動には質量ともに今日の文学・文化研究活動を予見させる萌芽ともいえる積極的な面が備っていたことは、今回の試験的な調査で明らかになりつつある。従来の視点から見るとき「諸学問分化以前のすがたで、近代的学問の成立の前段階」として看過されがちであるが、更なる試掘を試みるべき研究対象として、新たな段階に入ったことを痛感している。