著者
岡野 司 村瀬 哲磨 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.1371-1376, 2004-11-25
参考文献数
36
被引用文献数
2 24

ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)は,日本国内におけるいくつかの地域では絶滅が危惧されており,精液の採取と凍結保存は,遺伝資源の保存手段として重要である.本研究では,野生ニホンツキノワグマより精液を採取してその性状を調べるともに凍結保存した.4頭の野生ニホンツキノワグマから,捕接地点である山中において,電気刺激射精法を用いて精液を採取した.4頭全てにおいて,運動性を持った精子を含む精液が得られた.精液量,総精子数,精子運動率,精子生存率および精子奇形率(範囲(平均))は,それぞれ0.65-2.20(1.51)ml,99-1082(490)×10^6,5-100(31)%,42-97(66)%および20-87(53)%であった.3頭の精液を,卵黄-トリス-クエン酸-グルコース液で希釈し,液体窒素中で凍結保存した.すべての場合において,凍結融解後に運動精子がみられた.本研究から,電気刺激射精法は,野生ニホンツキノワグマから精液を採取するために有用な方法であり,この方法で採取した精液の凍結融解後に少なくとも運動性のある精子が得られることが示された.
著者
吉田 洋 林 進 堀内 みどり 坪田 敏男 村瀬 哲磨 岡野 司 佐藤 美穂 山本 かおり
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-43, 2002-06-30
参考文献数
28
被引用文献数
3

本研究は,ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus,以下ツキノワグマと略す)による針葉樹幹の摂食量と,他の食物の摂食量との関係ならびにツキノワグマの栄養状態の年次変動を把握することにより,クマハギ被害の発生原因を食物環境面から解明し,さらに被害防除に向けた施策を提案することを目的とした.ツキノワグマの糞内容物分析の結果,クマハギ被害の指標となる針葉樹幹の重量割合は,1998年より1999年および2000年の方が有意に高く(p<0.05),逆にツキノワグマの重要な食物種の一つであるウワミズザクラ(Prunus grayana)の果実の重量割合は,1999年および2000年より1998年の方が有意に高かった(p<0.05).また,ツキノワグマの血液学的検査の結果,1999年および2000年より1998年の方が,血中尿素濃度は低い傾向にあり,血中ヘモグロビン濃度は有意に高かった(p<0.05)ことより,1998年はツキノワグマの栄養状態がよかったと考えられる.以上のことから,クマハギ被害は,ツキノワグマの食物量が少なく低栄養の年に発生しやすく,ウワミズザクラの果実の豊凶が被害の発生の指標となる可能性が示唆された.したがって,クマハギ被害は,被害発生時期にツキノワグマの食物量を十分に確保する食物環境を整えることにより,その発生を抑えられる可能性があると考えられた.
著者
吉田 洋 林 進 堀内 みどり 坪田 敏男 村瀬 哲磨 岡野 司 佐藤 美穂 山本 かおり
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-43, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究は,ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus,以下ツキノワグマと略す)による針葉樹幹の摂食量と,他の食物の摂食量との関係ならびにツキノワグマの栄養状態の年次変動を把握することにより,クマハギ被害の発生原因を食物環境面から解明し,さらに被害防除に向けた施策を提案することを目的とした.ツキノワグマの糞内容物分析の結果,クマハギ被害の指標となる針葉樹幹の重量割合は,1998年より1999年および2000年の方が有意に高く(p<0.05),逆にツキノワグマの重要な食物種の一つであるウワミズザクラ(Prunus grayana)の果実の重量割合は,1999年および2000年より1998年の方が有意に高かった(p<0.05).また,ツキノワグマの血液学的検査の結果,1999年および2000年より1998年の方が,血中尿素濃度は低い傾向にあり,血中ヘモグロビン濃度は有意に高かった(p<0.05)ことより,1998年はツキノワグマの栄養状態がよかったと考えられる.以上のことから,クマハギ被害は,ツキノワグマの食物量が少なく低栄養の年に発生しやすく,ウワミズザクラの果実の豊凶が被害の発生の指標となる可能性が示唆された.したがって,クマハギ被害は,被害発生時期にツキノワグマの食物量を十分に確保する食物環境を整えることにより,その発生を抑えられる可能性があると考えられた.
著者
坪田 敏男 瀧紫 珠子 須藤 明子 村瀬 哲磨 野田 亜矢子 柵木 利昭 源 宣之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.69-74, 2002-03

人間の営みによって作り出された化学物質が,長期間分解されることなく環境に蓄積し,内分泌攪乱化学作用によって人や野生動物の生殖に異常をもたらすことが解明されつつある。内分泌攪乱化学物質には,DDTなどの農薬,PCB類などの工業化学物質,ダイオキシンなどの非意図的生成物,合成女性ホルモンとして使われたDESなどの医薬品などが含まれる。これまでに,アメリカ合衆国のアポプカ湖でのワニの個体数減少,ミンクやカワウソの繁殖率の低下,猛禽類の卵殻の薄化や孵化率の低下,イルカやアザラシの大量死,イボニシでのインポセックス,コイの雌雄同体化,ホッキョクグマの生殖能力の低下や間性といったさまざまな生殖異常が内分泌攪乱作用によって引き起こされている。日本においては平成10年度より内分泌攪乱化学物質およびダイオキシン類による野生生物への影響実態調査が開始され,さまざまな野生動物,とくに海獣類や猛禽類における内分泌攪乱化学物質の蓄積が認められた。今後さらに影響実態を究明し,内分泌攪乱化学物質問題を解決していく必要がある。
著者
山本 かおり 河村 篤紀 坪田 敏男 釣賀 一二三 小松 武志 村瀬 哲磨 喜多 功 工藤 忠明
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine = 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.103-108, 2002-09-01

本研究では,飼育条件下のニホンツキノワグマにおいてDNAフィンガープリント法による父子判定の有用性を検討した。制限酵素Hinf Iおよび(GATA)_4プローブを用いたDNAフィンガープリントはニホンツキノワグマの個体識別および父子判定に有用であることが示された。1995年から1997年の間に11頭の母グマから生まれた13頭の子グマと22頭の父親候補の雄グマについて父子判定を行った結果,7頭の雄グマが父親と判定された。特に2頭の雄グマが8頭の子グマの父親と判定された。本研究では,飼育条件下において雌グマが多くの雄グマとの交尾の機会をもっても,ある特定の雄の繁殖成功が高くなることが示された。
著者
伊藤 英之 遠藤 千尋 山地 明子 阿部 素子 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.79-84, 2005-09

タカ目の多くの種は他の多くの鳥類と同様に外部形態から性判別をすることが困難である。この問題は, タカ目に関する生態学の研究を妨げ, 保存のための計画を作製することを困難にする。そのため, タカ目における性判別方法の開発が望まれていた。我々は, CHD1WとCHD1Zの遺伝子間のイントロンの長さの違いを利用する方法を用いて, 日本に生息する8種類のタカ目において, 性判別を試みた。今回用いた方法は, これまでに開発された他の性判別方法よりも容易で迅速に行うことができる。また, 今回調査したすべての種において性判別が可能であった。さらに, わずかなサンプルから抽出したDNAからでも性判別が可能であり, この方法が野生個体/集団の研究に適用することが可能であることが示唆された。結論として, この研究において用いた方法は, タカ目の性判別に非常に有用であり, 希少なタカ目の将来の保全に大きな価値があると考えられた。
著者
翁 強 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.603-605, 2005-06-25
被引用文献数
2 8

2001年10月に交通事故により死亡した野生タヌキ1頭を収集した.本個体は年齢査定により4.5歳と判定された.外生殖器は雌型を示したが, 外陰部より大きな陰核がペニス様に突出していた.内生殖器は精巣と子宮の形状を呈した.精細管内にセルトリ細胞のみが存在し, 精子形成は認められなかった.PCR法によりY染色体上にある性決定領域(SRY)の単一バンドを増幅した.以上の結果より, 本例のタヌキは雄性仮性半陰陽と診断された.
著者
石黒 直隆 村瀬 哲磨
出版者
岐阜大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

日本には本州、四国、九州にニホンイノシシが琉球列島にリュウキュウイノシシが生息する。最近、西日本を中心にニホンイノシシの固体数の増加と生息域の拡大が顕著である。それにより、中山間村地域での農作物被害や人的被害が拡大している。本研究の目的は、野生イノシシ中に拡散が懸念される家畜ブタ由来遺伝子の分布と家畜由来感染症の広がりを検出する検査手法を開発することである。さらに、開発した検査手法を用いて、日本に生息するイノシシ中での家畜ブタ由来遺伝子の浸潤動向を調査することである。その結果、以下の成績を得た。また、一部の成績を公表した。1.野生のニホンイノシシと家畜ブタとを区別するマーカーとして、ミトコンドリアDNA(mtDNA)574bpと核GPIP遺伝子多型を改良し、母系遺伝と父系遺伝の両方から家畜由来遺伝子を検知した。2.和歌山県下での現地調査:農作物被害が深刻な和歌山県をモデルに、生息するニホンイノシシ中の家畜ブタ由来遺伝子の浸潤状態を検討した。その結果、2005年と2006年の2年間で129サンプルを調査し、4型のmtDNA(J10,J15,J21,J22)を得たが、家畜由来のmtDNA型は検出されなかった。核GPIP遺伝子型別でもGPIP1,GPIP3,GPIP3aが検出されたのみで、家畜由来GPIP遺伝子型は検出されなかった。3.感染症の抗体価調査:2004年に調査した四国4県のイノシシ血清115サンプルに関して、ブルセラ菌の抗体価を調査した。その結果9サンプルで陽性であり、野生イノシシの中にブルセラ症に感染したイノシシが存在することが明らかとなった。今後、イノシシ肉を食する上で注意が必要である。本研究により、野生イノシシ中へのイノブタの浸潤頻度は、少ないものと考えられる。ただし、全国的にみて、イノシシの個体数は増加していることから今後とも注意深く調査する必要があろう。
著者
岡野 司 村瀬 哲磨 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.1093-1099, 2003-10-25
被引用文献数
9 26

岐阜県根尾村において,1998年から2000年にそれぞれ夏から秋にかけて合計21頭の野生雄ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)を捕獲した.精巣の大きさを計測した後,精巣組織を採取し組織学的に観察した結果,精巣容量は1〜3歳でほとんど変化がなく,その後4歳で急激に増加し,5歳でピークを迎えた.精子形成は6〜8月に活発で,9月までに退行し,季節変化が明瞭であった.野生雄ニホンツキノワグマにおける性成熟年齢は3〜4歳であると推定された.血清中テストステロン濃度は0.05〜1.78ng/mlの範囲で,平均値±標準偏差は0.43±0.48ng/mlであった.免疫組織学的に4種類のステロイド合成酵素,すなわちcholesterol side-chain cleavage cvtochrome P450, 3β-hydroxysteroid dehydrogenase, 17-αhydroxylase cvtochrome P450およびaromatase cytochrome P450の局在を調べた結果から,ニホンツキノワグマにおいて,ライディッヒ細胞,セルトリ細胞および精細胞はアンドロジェン合成能を持ち,ライディッビ細胞,セルトリ細胞,精子細胞および精祖細胞はエストロジェン合成能を持つことが示された.
著者
岡野 司 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.1359-1364, 2004-11-25
被引用文献数
2 25

本研究では,犬精液の凍結保存方法を再検討した.4頭のビーグル犬より精液を採取し,混合,遠心濃縮後再度精漿(第3分画)を加えることにより目的の精子濃度を持つ濃度調整精液を作成した.濃度調整精液あるいは原精液を,トリスークエン酸-グルコース希釈液で希釈し,4℃まで冷却し(冷却),次いでグリセロールを添加した同希釈液で2次希釈した.4℃で平衡した後(グリセリン平衡),液体窒素中に保存した.最終精子濃度が一定(1.0×10^8/ml)で最終希釈倍率が2.5〜10倍となるように凍結した場合および最終希釈倍率を一定(6倍)とし,最終精子濃度を0.25〜2.5×10^8/mlとした場合のいずれも凍結融解後における精子性状に有意な影響を及ぼさなかった.一方,0〜26時間の冷却後に1時間のグリセリン平衡をした場合,冷却時間が2および3時間において精子性状が良好であった.また,冷却時間を3時間とし,0〜4時間グリセリン平衡して凍結した場合,融解後の精子性状に有意差は認められなかった.以上のことから,犬精液の凍結保存において,使用した範囲内ではいずれの精子濃度あるいは希釈倍率でも精液を凍結保存できること,および精液の冷却時間を十分に設ける必要があるが,グリセロールの平衡時間は特に設ける必要のないことが示唆された.