著者
土畑 重人
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

本研究では,進化生物学の主要な概念である社会進化と種分化の両理論を橋渡しする実証系を確立することを目標とし,社会性昆虫の一種アミメアリの同種内社会寄生者(裏切り系統)に着目した.集団遺伝学的な証拠から,裏切り系統は宿主たる協力系統から同所的に分化したと推定されたため,本年度はこの同所的な進化的分岐現象が可能となる生態学的・遺伝学的条件の理論的検討を主眼とした.報告者が作成したコロニーベース格子モデル(格子点には個体ではなくコロニーが入る;Dobata et al. in prep.)を発展させて,個体の協力形質の度合いが突然変異によって連続的に変化する進化シミュレーションを行った.コロニー内の個体数動態には,コロニー内の協力系統頻度に応じた公共財の利益,協力形質の程度に応じた個体へのコスト,コロニーサイズに応じた(負の)密度効果の線形結合で適応度を記述する一般化線形モデルを用い,階層ベイズ法を用いて野外データからパラメータを推定することで,計算が現実的な条件を反映するようにした.個体のコロニー間移出入,突然変異率とその表現型への効果については不明であるため,感度分析を行った.シミュレーションの結果,協力系統から裏切り系統が進化的分岐するかどうかは,コロニーの世代あたり分裂率,個体の世代あたりコロニー間移動分散率に大きく影響されることが明らかとなった.また,初期集団の協力形質の程度も進化的分岐の発生を左右するという結果が得られた.さらに,とりうる表現型の区切り幅(1回の突然変異で変化できる表現型の大きさ)を小さくするほど,進化的分岐が生じにくくなる傾向が得られたため,アミメアリの系においては,協力系統・裏切り系統の共存は何らかの断続的な表現型変化が関与している可能性が残された.モデルの単純化,解析的な取扱いが今後の課題であり,感染症のモデルを応用することを検討している.
著者
辻 瑞樹 松浦 健二 秋野 順治 立田 晴記 土畑 重人 下地 博之 菊地 友則 ヤン チンチェン 五箇 公一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

生物学的侵略機構の研究には自然分布域と侵入域の比較が不可欠である。日本ではあまり知られていないが、近年北米で日本由来の複数の外来アリ種による環境被害が広がっている。しかし皮肉にもこれは日本の研究者にとって居ながらにして侵略アリの自然個体群情報を収集できる絶好の機会である。そこで、本研究では侵略的外来昆虫研究の日米のエキスパートが協力し、これら日本からの侵入者の生態・行動・遺伝情報を侵入先と自然分布域である日本国内で徹底比較する。さらに広大な国土を持つ米国で日本では不可能な野外実験を行う。既存の諸学説を整理しながら網羅的にテストすることで外来アリの侵略機構に関する一般論を導く。以上の目的で研究を始めたが、初年度冒頭に代表者の不測の病気が発覚し研究が遅延した。そこで、2年度目以降は遅れを取り戻すべく主として以下の研究を鋭意進めている。まず、米国側のカウンターパートと協力し、オオハリアリ、アメイロアリ、トビイロシワアリの各国個体群の基礎データを収集した。とくにトビイロロシワアリの炭化水素データを重点的に収集した。また多数外来アリが分布する沖縄では外来アリと在来アリの比較研究を室内および野外で進め、外来種を含むアリには採餌機能に関する複雑なトレードオフが存在することを立証した。また、日米比較の最大の成果として、オオハリアリが侵入前の原産地である日本国内においても侵略先の米国個体群と同様に、高度な巣内近親交配を行なっていることを明らかにし国際誌に発表した。これは近親交配耐性が侵略の前適応であることを示した世界初の成果である。また、テキサスのフィールドに研究代表者が研究室の学生らとともに訪問し実験のプロットを設置しており、2017年夏に2度襲来したハリケーンのため野外プロットが水没した遅れを取り戻すべく鋭意研究を進めている。H30年度にはプロットを再設置した。