- 著者
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秋野 順治
山岡 亮平
- 出版者
- 日本応用動物昆虫学会
- 雑誌
- 日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, no.4, pp.265-271, 1996-11-25 (Released:2009-02-12)
- 参考文献数
- 7
- 被引用文献数
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クロヤマアリFormica japonicaでは同巣仲間の死体を巣外へ運び出す行動が認められるが,このような搬出行動は,死体体表面に含まれるオレイン酸によって引き起こされ,死後48時間以上経過した死体に対して顕著に認められた。オレイン酸は,生きた働きアリの体表面および体液中には殆ど含まれないが,その含有量は死後の時間経過に伴って変化し,死後48時間で急激に増加した。一方,体液中に含まれるトリグリセリドの含有量は,死後48時間で急激に減少し,その構成脂肪酸はオレイン酸であった。また,死亡直後に電子線を照射した場合には,体液中および体表面におけるオレイン酸の増加,および体液中のトリグリセリドの減少のいずれも認められない。これらの結果から,クロヤマアリの死体認識シグナルとして作用するオレイン酸は,働きアリの死後,体液中に含まれるトリグリセリドの酵素的加水分解反応によって生じるものと考えられる。