著者
五箇 公一 立田 晴記 今藤 夏子 国武 陽子
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本産およびアジア諸国産のヒラタクワガタ地域系統の系統関係がミトコンドリアDNA分析によって明らかにされ、アジアの大陸分化プロセスにあわせてヒラタクワガタ地域系統の種分化が進行したことが示された。交雑実験により、ヒラタクワガタ系統間の交雑は遺伝的距離が大きいほど交雑和合性が高い傾向が示された。楕円フーリエ解析による大顎形態分析の結果、雑種個体雄成虫は親系統雄の形態とは異なる大顎形態を示すが、雌親系統の形態的特徴が強く示される傾向があることが示され、ヒラタクワガタの大顎形態には母性効果があることが判明した。生殖操作に関与するWolbachiaの感染は、調査した個体すべてから検出はされなかった。
著者
辻 瑞樹 松浦 健二 立田 晴記 菊地 友則
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

東アジアから北米に侵入したオオハリアリに注目し生物学的侵略機構に関する既存仮説全てのテストを試みた。日本、北米とも多女王多巣性コロニーというほぼ同じ集団遺伝学的構造を持ち、北米の方が高い個体群密度を示した。安定同位体分析では自然分布域(日本)におけるシロアリ食から侵入域(米国)でのジェネラリスト捕食者化という栄養段階・食性ニッチの変化が示唆された。病原微生物が原因と考えられる蛹の死亡率が日本でより高かった。これらの結果はアルゼンチンアリなどで議論されている遺伝的ボトルネック説などよりも、外来種一般で議論されている生態的解放が侵略機構としてより重要であることを示す。
著者
立田 晴記 坂巻 祥孝
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.194-205, 2011-07-05 (Released:2018-09-21)

近年の幾何学的形態測定学の発達によって,生物の形態的特徴を「シェイプ」と「サイズ」に明確に区分して解析できるようになり,多数の標識点間の相対的な位置関係の変異(歪み)も評価できるようになった.そのため,従来検出が難しかった微妙な形態の違いや部分的な形態の歪みなどを量的に検出する精度が飛躍的に向上した.ここでは利用頻度が高い 1)多変量形態測定学,2)標識点の配置に基づく形態測定学,3)輪郭記述法の特徴を大まかに解説し,特に利用価値が高いと考えられる昆虫およびクモ・ダニ類を材料とした近年の幾何学的な標識点測定法と輪郭記述法の研究例を総説した.
著者
辻 瑞樹 松浦 健二 秋野 順治 立田 晴記 土畑 重人 下地 博之 菊地 友則 ヤン チンチェン 五箇 公一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

生物学的侵略機構の研究には自然分布域と侵入域の比較が不可欠である。日本ではあまり知られていないが、近年北米で日本由来の複数の外来アリ種による環境被害が広がっている。しかし皮肉にもこれは日本の研究者にとって居ながらにして侵略アリの自然個体群情報を収集できる絶好の機会である。そこで、本研究では侵略的外来昆虫研究の日米のエキスパートが協力し、これら日本からの侵入者の生態・行動・遺伝情報を侵入先と自然分布域である日本国内で徹底比較する。さらに広大な国土を持つ米国で日本では不可能な野外実験を行う。既存の諸学説を整理しながら網羅的にテストすることで外来アリの侵略機構に関する一般論を導く。以上の目的で研究を始めたが、初年度冒頭に代表者の不測の病気が発覚し研究が遅延した。そこで、2年度目以降は遅れを取り戻すべく主として以下の研究を鋭意進めている。まず、米国側のカウンターパートと協力し、オオハリアリ、アメイロアリ、トビイロシワアリの各国個体群の基礎データを収集した。とくにトビイロロシワアリの炭化水素データを重点的に収集した。また多数外来アリが分布する沖縄では外来アリと在来アリの比較研究を室内および野外で進め、外来種を含むアリには採餌機能に関する複雑なトレードオフが存在することを立証した。また、日米比較の最大の成果として、オオハリアリが侵入前の原産地である日本国内においても侵略先の米国個体群と同様に、高度な巣内近親交配を行なっていることを明らかにし国際誌に発表した。これは近親交配耐性が侵略の前適応であることを示した世界初の成果である。また、テキサスのフィールドに研究代表者が研究室の学生らとともに訪問し実験のプロットを設置しており、2017年夏に2度襲来したハリケーンのため野外プロットが水没した遅れを取り戻すべく鋭意研究を進めている。H30年度にはプロットを再設置した。