著者
五百部 裕 田代 靖子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.45-46, 2015

演者らは、既存の調査路を繰り返しゆっくり歩き直接観察した調査対象種を記録するという方法で、タンザニア共和国マハレ山塊国立公園やウガンダ共和国カリンズ森林において、中・大型哺乳類の生息密度を推定してきた。この方法の最大のメリットは、新たに調査路を切り開く労力がいらず、極めて低コストで調査対象種の生息密度を推定できることであり、定期的に資料を収集することで生息密度の変化も把握できることにある。一方で、同じルートを何回歩けば、信頼できる資料が収集できるのかといった点は検討されてこなかった。そこで本研究は、カリンズにおいて、比較的短い間隔で二つの時期に資料を収集し、この方法の問題点を検証した。小乾季の中ほどにあたる2014年2月と大乾季の終わりの8月に現地調査を行った。この調査では、長さ2.5kmのセンサスルート6本(うち1本は1.5km)を利用して、センサスルートを歩きながら発見した哺乳類種を記録するという方法によって生息密度の推定を行った。1日に二つのルートを歩き、2月はそれぞれのルートを3回ずつ、8月は4回ずつ歩いた。調査期間中に直接観察できたのは、オナガザル科霊長類5種(レッドテイルモンキー、ブルーモンキー、ロエストモンキー、アヌビスヒヒ、アビシニアコロブス)と森林性リス(種不明)、ブルーダイカーであった。このようにして得られた資料を用いてこの方法の問題点を検証するとともに、1997年度にほぼ同様の方法で行われたセンサス結果と比較し、カリンズの中・大型哺乳類の生息密度の変化を考察する。
著者
田代 靖子 伊谷 原一 ボンゴリ リンゴモ 木村 大治
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.21, pp.67, 2005

コンゴ民主共和国ルオー学術保護区ワンバ地区におけるボノボの研究は、1996年から続いた内戦後、2002年に再開された。内戦の前後でワンバにおけるボノボの生息状況に変化が生じたか、またもし変化したならその原因は何かを明らかにすることを目的として調査をおこなった。<br> 2005年1月から2月(約40日間)ワンバにおいて現地調査をおこなった。内戦前にワンバ地区に生息していた6集団の生息状況を調べるとともに、森林における人間活動について資料を収集した。また、ランドサットデータを用いて、内戦前後の二次林の分布を比較した。その結果、以下のようなことが明らかになった。(1)主な調査対象集団であるE1群は依然村に近いところを遊動しているが、個体数は変化していないのにも関わらずその遊動域が拡大し、過去に利用しなかった場所も利用している。(2)E2集団、P集団は遊動域を大きく変え、ワンバ地区とは異なる地域を主な遊動域としている。(3)他のB, K, Sといった3集団の生息状況は不明。(4)多くの一次林が伐採されて畑になっている。<br> 1973年の調査開始時から内戦開始前まで、各集団の遊動域が大きく変化することはなかったことを考えると、内戦による人為的な影響によってボノボの遊動域が大きく変化した可能性が高い。銃や罠を用いた密猟という直接的な影響以外にも、戦争中村人の多くが森に逃げ込んで生活したことや、戦後の貧困から一次林を伐採した焼畑が急速に拡大したことなどによる植生の変化が、ボノボの生息数を減少させ、各集団の遊動域に影響を与えたと考えられる。ワンバの村人はボノボを食べないが、他の地域からの密猟者の侵入という直接的影響に加え、生息環境の変化という間接的な影響によって、ボノボの生息数が急激に減少していることが予想される。コンゴ民主共和国全体のボノボの詳しい生息状況は不明だが、かなり危機的な状況にあると考えられる。
著者
古市 剛史 黒田 末寿 伊谷 原一 橋本 千絵 田代 靖子 坂巻 哲也 辻 大和
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ボノボ3集団と、チンパンジー2集団を主な対象として、集団間・集団内の敵対的・融和的交渉について研究した。ボノボでは、集団の遭遇時に融和的交渉が見られるが、その頻度やタイプは集団の組み合わせによって異なり、地域コミュニティ内に一様でない構造が見られた。チンパンジーでは、集団間の遭遇は例外なく敵対的であり、オスたちが単独で行動するメスを拉致しようとするような行動も見られた。両種でこれまでに報告された152例の集団間・集団内の殺しを分析したところ、意図的な殺しはチンパンジーでしか確認されていないこと、両種間の違いは、環境要因や人為的影響によるものではなく生得的なものであることが明らかになった。