著者
城下 貴司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】我々は足趾エクササイズについて,第42と43回理学療法学術大会では臨床研究を,第46回では表面筋電図による実験研究を,第47と48回では横断および縦断研究で形態学的研究を行ってきた。いずれもタオルギャザリングエクササイズ(以下TGE)と足内側縦アーチとの関連性は低いと報告したが,その根拠を示す必要性があった。我々は足趾底屈エクササイズの表面筋電図解析は既に報告した,本研究は足趾底屈エクササイズと併せたTGEの表面筋電図解析を比較することに着目し,TGEの運動学的根拠を示すことを目的とした。【方法】機材は小型データロガシステムpicoFA-DL-2000(4アシスト)とFA-DL-140ディスポ電極を使用しサンプリング周波数は1kHz,5~500Hzの周波数を抽出,時定数0.03secとした。対象は特に足趾や足関節運動をしても問題のなく,過去6ヶ月間,足関節周囲の傷害により医療機関にかかっていない健常者14名14足,年齢24.6±6.3歳とした。実験項目は全趾での底屈エクササイズ,母趾での底屈エクササイズ,2から5趾での底屈エクササイズ,そしてTGEとした。足趾底屈エクササイズは被験者に端坐位姿勢,大腿遠位端に3kgの重錘をのせ趾頭で踵を挙上させるように底屈エクサイサイズ(等尺性収縮約5秒間)をおこなった。膝および股関節の代償運動抑制を目的に,被験者の体幹前傾,膝の鉛直線上に頭部を位置させた。TGEは被験者に端坐位姿勢,足趾完全伸展から完全屈曲を1周期とし,母趾頭にフットスイッチを貼付し1周期を算出した。電極は腓骨小頭直下の長腓骨筋,内果やや後上方の内がえし筋群,腓腹筋内側頭筋腹,腓腹筋外側頭筋腹の4カ所に貼付した。足趾底屈エクササイズの解析は定常状態と思われる等尺性収縮5秒間の内,2秒間の筋電積分値(IEMG)を採用した。全趾による底屈エクササイズのIEMGをベースラインとして他の条件を正規化(%IEMG)した。TGEの解析は3から5周期を計測し,定常状態と思われる任意の1周期を採用した。エクサイサイズ別の各筋出力の比較はKruskal Wallis検定後,Mann-Whitney検定を採用した。統計ソフトはSPSS21.0を使用した。【説明と同意】すべての被験者に対して,実験説明書予め配布し研究の主旨と内容について十分説明をした後,同意書に署名がされた。また本研究は群馬パース大学および早稲田大学の倫理委員会の承認のもと行った。【結果】母趾底屈エクササイズでは,長腓骨筋が126.3±9.8%,内がえし筋群が112.4±13.1%,腓腹筋外側頭が79.2±8.1%,内側頭は90.2±5.9%であり,有意に長腓骨筋が腓腹筋内外側頭よりも高値を示した(p=0.003,0.000)。2から5趾底屈エクササイズでは,長腓骨筋が64.4±5.2,内がえし筋群が161.9±25.2%,外側頭は76.1±7.8%,内側頭97.8±5.0%を示し,内がえし筋群が長腓骨筋や腓腹筋外側頭よりも有意に高値を,長腓骨筋が腓腹筋内側頭よりも有意に低値を示した(p=0.000,0.003,0.000)。TGEでは,長腓骨筋が44.5±6.1%,内がえし筋群が145.1±21.4%,腓腹筋外側頭が18.8.±2.9%,内側頭は26.3±4.8%であった。内がえし筋群が他の筋群よりも有意に高値を示した(p=0.000,0.000,0.000)。【考察】本研究は筆者が考案した足趾底屈エクササイズとTGEを表面筋電図解析で比較したものである。足趾底屈エクササイズの筋放電パターンに関しては,本研究は先行研究と類似した。足趾底屈エクササイズとTGEを併せて比較すると,本研究のTGEおよび2から5趾底屈エクササイズは内がえし筋群が優位となり,母趾底屈エクササイズは長腓骨筋が優位な筋放電パターンを示した,すなわちTGEと2から5趾底屈エクササイズの筋放電パターンが類似した。形態学的変化に着目した先行研究では,TGEおよび母趾底屈エクササイズは足内側縦アーチとの関連性は低く,2から5趾底屈エクササイズと足内側縦アーチとの関連性は高かった,すなわちTGEと母趾底屈エクササイズの形態学的な研究結果は類似した。以上から,形態学的研究と表面筋電図解析による結果が一致しなかった。表面筋電図解析だけでは形態学的研究の根拠を示すことが困難であった。本研究の内がえし筋群の電極は後脛骨筋,長趾屈筋,長母趾屈筋のクロストークによるものである,単独筋ごとに明確な変化を示せない表面筋電図の限界があった,そのことは形態学的研究と結果が一致しなかった原因の一つと考えられた。今後は上述の矛盾した結果についてさらに研究していく課題が残された。【理学療法学研究としての意義】本研究から,足趾の評価治療は全趾を評価するのでなく足趾ごと評価治療することの必要性の意義を改めて示した。足関節の研究において表面筋電図のみで臨床的な現象を解釈することの困難さも示せた。
著者
城下 貴司 福林 徹 加藤 仁志 浅野 信博 大橋 俊介 山家 佳那子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CcOF1071-CcOF1071, 2011

【目的】<BR> 著者は、第42回理学療法学術大会にてアキレス腱周囲炎、第43回理学療法学術大会では有痛性外脛骨に対して各々著者が考案した足趾エクササイズの臨床研究を紹介した。<BR> 本研究では、上述の足趾エクササイズを表面筋電図で解析し足趾機能を生体力学的に考察することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR> 機材は小型データロガシステムpicoFA-DL-2000(4アシスト)とFA-DL-140ディスポ電極を使用しサンプリング周波数は1kHz、5~500Hzの周波数を抽出、時定数0.03secとした。<BR> 対象は、特に足趾や足関節運動をしても問題のない健常者19名,25足,年齢25.72±7.2歳とした。被験者には端坐位姿勢、大腿遠位端に3kgの重錘を乗せ趾頭で踵を挙上させるように底屈エクサイサイズ(等尺性収縮約5秒間)おこなった。膝や股関節の代償運動抑制ために、被験者の体幹やや前傾、頭部は膝の直上に位置させた。<BR> 実験項目は、全趾による底屈エクササイズ、母趾による底屈エクササイズ、2から5による底屈エクササイズ、そして3から5による底屈エクササイズである。<BR> 電極は腓骨小頭直下の長腓骨筋、内果やや後上方脛骨内側後面に走行している内がえし筋群、腓腹筋内側頭筋腹、腓腹筋外側頭筋腹の4カ所に貼付した。<BR>データ解析は、定常状態と思われる等尺性収縮5秒間の内2秒間の筋電積分値(IEMG)を採用した。全趾による底屈エクササイズのIEMGをベースラインとして他の条件を正規化(%IEMG)した。エクサイサイズ別に各筋出力比較にANOVA、同一被験者同一筋の比較にRepeated ANOVA、および生データでも比較した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> すべての被験者に対して研究の主旨と内容について記載のある実験説明書を予め配布し実験説明をした後、同意書に著名を頂いてから行った。<BR><BR>【結果】<BR> 母趾底屈エクササイズでは、長腓骨筋が141%,内がえし筋群が103%、腓腹筋外側頭が102%,内側頭は96%であり、統計上も有意に長腓骨筋が他の筋よりも高い値を示した(n=25,p=0.001,0.19,0.001 <0.05)。<BR> 2-5趾の底屈エクササイズでは、長腓骨筋が68.2%<BR>内がえし筋群が120%、外側頭は90%、内側頭94.9%を示し、統計上内がえし筋群が長腓骨筋、腓腹筋内側頭よりも有意に高い値を示した(n=25,p=0.0001, 0.03 <0.05)。<BR> 3-5底屈エクササイズでは、長腓骨筋が58%、内がえし筋群が121%、腓腹筋外側頭が78% 内側頭は91 .8%であった。統計上も内がえし筋群が長腓骨筋と腓腹筋内側頭に対して有意に高い値を示した(n=25,p=0.001,0.001<0.05)。<BR> しかしながら同一被験者、同一筋の比較では長腓骨筋が母趾エクササイズにて2から5趾3から5趾底屈エクササイズよりも有意に高い値を示した(n=25,p=0.001,0.001<0.05)のみで、その他の筋は有意な差は示さなかった。<BR><BR>【考察】<BR> 本研究は筆者が考案した足趾エクササイズを表面筋電図で解析したものである。<BR> 腓腹筋内側頭および外側頭は、内側頭の方がやや高い値を示しただけであり、どのエクササイズでも明らかな違いを示さなかった。足趾運動は後方の筋よりも内外果を走行している前方の筋群であることを示唆した。<BR> 著者の先行研究で、アキレス腱周囲炎、有痛性外脛骨の症例に対して、2から5趾、3から5趾の底屈エクササイズは有効的であったが母趾のエクサイサイズは有効的ではなかったことを報告した。<BR> 母趾エクササイズは回外筋である長母趾屈筋の作用は明らかであるにもかからず、上記の疾患で有効性を示さなかったことに疑問があった。<BR> 本研究の結果から母趾エクササイズでは外がえし筋群が優位であり先行研究の現象が長母趾屈筋だけでなく長腓骨筋が作用していることがわかった。<BR>2から5趾および3から5趾底屈エクササイズでは母趾エクササイズとは対照的で、内がえし筋群が優位であったことから著者の臨床研究の根拠を示せたと考えている。<BR> しかしながら同一筋で比較したとき、長腓骨筋ではエクササイズごとに有意な差を認めたが、内がえし筋群では有意な差を認めなかった。本研究の内がえし筋群の電極は後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋が混在しているために、エクササイズごとに明確な変化を示さなかったと考えている。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究から、足趾の評価治療は、全趾を評価するのでなく足趾ごと評価治療することの必要性と、著者が考案した足趾エクササイズの臨床的有効性のみだけでなく、バイオメカニカルな視点からの根拠を示唆した。
著者
城下 貴司 福林 徹
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.397-400, 2012 (Released:2012-09-07)
参考文献数
22

〔目的〕足趾機能は重要とされているが未知な部分も多い.我々は足趾機能の臨床研究や筋電図解析を行ってきた.しかしながら足趾機能と足内側縦アーチ(MLA)の関係はわかっていない.本研究の目的は足趾エクササイズとMLAの関係を検討することである.〔対象〕健常者20名,20足,平均年齢22.5±3.6歳とした.〔方法〕被験者にはタオルギャザリングエクササイズ(TGE)と3種類の足趾エクササイズ(母趾底屈エクササイズ,2から5趾底屈エクササイズ,3から5趾底屈エクササイズ)をランダムに行い,各々の足趾エクササイズ前後にNavicular Drop (ND)を計測し比較した.〔結果〕介入前NDは4.34 mmであった,TGE後NDは4.94 mmで有意差を示さなかったが,母趾底屈エクササイズ後NDは5.25 mmで有意に低下した.2から5趾底屈エクササイズ後NDは3.07 mm,3から5趾底屈エクササイズ後NDは3.32 mmとなり各々有意にNDは低下しなかった.〔結語〕母趾底屈エクササイズはMLAを低下させた.TGEは特に変化を示さなかった.しかしながらその変化は母趾底屈エクササイズに類似した.一方で2から5趾底屈エクササイズ,3から5趾底屈エクササイズはMLAを高くする効果を示しMLAとの関係性を示した.
著者
城下 貴司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【目的】</p><p>ハイヒール歩行は骨盤後傾,膝関節屈曲の増加から重心後方化する<i>(Opila-Correia 1990)</i>,膝伸展モーメント増加,重心後方化しレバーアームが延長(<i>Esenyel 2003)</i>などの報告が散見される。</p><p></p><p>しかしながら,踵が高いにもかかわらず,重心が前方化しないことに疑問点がある。先行研究は実際の重心移動を算出していない。</p><p></p><p>本研究目的はハイヒール歩行の矢状面上の重心移動を中心に動作戦略を明確にすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p>計測機器は三次元動作解析装置Vicon MX,7台の赤外線カメラ,3枚の床反力計とし,全身に35個のマーカを貼付しFull plug-inモデルで計測した。</p><p></p><p>対象は,ハイヒール歩行をしても問題なく過去6ヶ月間,傷害により医療機関にかかっていない健常成人女性14名,平均年齢20.8±0.7歳,平均身長160.0.±4.0cm,平均体重53.9±5.2kgとし,週3回以上ハイヒール使用群をCustom群7名,それ以外をNo Custom群7名とした。踵高6cmの靴を使用した。</p><p></p><p>計測は自由歩行とハイヒール歩行を各々5回行い,1歩行周期を100%に正規化した。重心移動は膝関節軸と重心線との矢状面上の距離で判断した。重心線に対して関節軸が前方を+とした。</p><p></p><p>パラメーターは歩行周期12%,31%,50%における矢状面上の足および膝関節の角度とモーメント,膝関節軸と重心線との矢状面上の距離とした。</p><p></p><p>統計処理はCustom群とNo Custom群の比較はMann-Whitney検定で,裸足とハイヒール歩行の比較はWilcoxonの符号順位検定を使用した。各々の有意水準は5%未満とし,解析ソフトはIBM SPSS Statistics 21を使用した。</p><p></p><p>【結果】</p><p>Custom群とNo Custom群に分類したが,いかなるパラメーターも統計的な差は示されなかった。</p><p></p><p>膝関節角度は歩行周期12%,31%でハイヒール歩行が裸足歩行と比較して有意に屈曲位だったが50%では有意に伸展位であった。</p><p></p><p>足関節底屈モーメントは有意に31%で低値を,膝関節伸展モーメントは31%で有意に高値を示したが50%では有意差を示さなかった。</p><p></p><p>膝関節軸と重心線との距離は12%,30%で有意に重心後方化を示した,一方で50%では有意に前方化した。以下ハイヒール,裸足の順:12%*(134.3m,104.2m),30%*(-38.3m,-67.5m),50%*(-178.7m,-174.3m)</p><p></p><p>【結論】</p><p>ハイヒール歩行の膝関節屈曲角度が歩行周期12%,31%で増加,伸展モーメントが歩行周期31%で増加することは先行研究と類似した。一方で,膝関節角度が50%でより伸展位,膝伸展モーメントが裸足歩行とほぼ同値,膝関節軸からみた重心移動が50%では有意に前方化することは報告されていない。</p><p></p><p>以上から,立脚相前半は膝関節屈曲し膝伸展モーメント増加,重心後方化するが,立脚相後半では膝関節伸展し膝伸展モーメント減少,重心は前方化する対称的な現象となった。</p><p></p><p>ハイヒール歩行分析は少なくとも立脚前半の現象か,それとも立脚後半の現象かを明確にして臨床的に解釈する必要があると我々は考える。</p>
著者
城下 貴司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0270, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】アキレス腱炎およびアキレス腱周囲炎とは若年スポーツに限らず中高年層にも発症し、原因はランニング、ジャンプ、登山等での蹴り出し時に腱やその周囲に繰り返し伸張刺激が加わり、結合組織の炎症や腱実質に微細損傷および変性を引き起すという報告が複数ある。臨床現場でも推進期等の伸張位での痛みを訴える症例が多い。代表的な治療の一つにアキレス腱のストレッチがある。ところが伸張刺激が原因にもかからず伸張刺激で治療する矛盾があり、安易なストレッチには疑問を持っていた。本研究では、本疾患の理学療法についてもう一度再考するきっかけ作りとしたい。【対象および方法】対象は当クリニックでアキレス腱炎およびアキレス腱周囲炎と診断された15足(15名,男9名 女6名)年齢35.4±19.1歳とした。まずステッピング等でアキレス腱にストレスのかかる疼痛誘発テストで評価し、次に母趾から5趾を使用しての底屈エクササイズ、2趾から5趾での底屈エクササイズ、そして3趾から5趾での底屈エクササイズを施行し各々でエクササイズ前後の疼痛の変化を比較した。疼痛変化はVAS(100mm幅)を使用した。【結果】母趾から5趾底屈で改善した被験者は4名,26.7%、非改善は3名20%、変化が認めなかったものは8名53.3%であった。2趾から5趾底屈では、改善したもの12名80%、非改善1名6.7%、変化が認めなかったもの2名13.3%であった。3趾から5趾底屈では改善したものは14名93.3%、非改善0名0%、変化が認めなかったものは1名6.7%であった。 2趾から5趾底屈の「30%以上改善率」は13.3%、「40%以上改善率」は0%、3趾から5趾底屈の「30%以上改善率」は46.7%、「40%以上改善率」は33.3%であった。【考察】母趾から5趾底屈では、ほとんどの被験者で改善は認めず、中には悪化する被験者も認めた。一方2趾から5趾の底屈では約8割の被験者に改善を認め、3趾から5趾の底屈では15名中14名の9割以上の被験者に改善を認めた。さらに改善率から比較しても3趾から5趾の底屈の方が良好な結果を得た。また本研究の結果では母趾を使用したエクササイズよりも母趾を使用ないエクササイズが有効的であった。すなわち、本疾患に対しては母趾を使用させるにはリスクがあり、母趾以外の足趾に着目すべきと考える。以上から、ストレッチを施行せずとも、臨床的な評価に基づいたエクササイズを選択することで本疾患は有効的な理学療法を展開できると考えている。