著者
松澤 正 加藤 仁志 飯塚 直貴 久慈 晋也 高橋 宙来 田中 俊輔
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.271, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】 臨床的にマッサージは,生体に与える影響として,血液リンパ循環の改善,筋緊張の抑制,筋弛緩障害の改善などがあるが,生体に与える生理学的影響に関する科学的な証明がされていないものが多いとされている(松澤ら,2008).先行研究として,3分間の高強度運動後のマッサージによる筋硬度の変化と持続効果に関する研究(小粥ら,2009)によると,筋硬度が急激に低下し,その後30分までは有意に低下したと報告されている.マッサージ前後における筋硬度に関する研究(肥田ら,2010)によると,マッサージ施行後に筋硬度は低下すると報告されている.しかし,この研究は,対象者が7名と少人数であり,またマッサージの手技が不明であったり,持続効果の検討は行われていないなど,不十分な面が考えられた.そこで,本研究では,マッサージ施行直前,直後,15分後の筋硬度を測定することで,マッサージによる筋硬度の変化とその効果の持続を検討することを目的とした. 【方法】 対象者は健常成人20名とした.対象候補者に対して,予め十分に説明し,書面による同意を得た上で本研究の対象者とした.対象者は,下腿を露出できる服装で治療ベッド上に背臥位で10分間安静にした.その後,腹臥位になり,筋硬度を測定したのち,左腓腹筋のマッサージ(軽擦法,揉捏法)を,軽擦法1分間,揉捏法5分間,軽擦法1分間の順で,計7分間施行した.筋硬度はマッサージ直後と15分後に測定した.測定部位は両側の腓腹筋内側頭とし,最大膨隆部にマークし,その部位の筋硬度を5回測定しその平均値を採用した.統計学的分析はマッサージの有無と時間の二要因の二元配置分散分析を用いて,マッサージによる筋硬度の変化を検討した.有意水準は5%とした. 【結果】 マッサージ側と非マッサージ側のマッサージ直前の筋硬度には有意差は認められなかった.二元配置分散分析の結果,マッサージ側と非マッサージ側に有意な変化パターンを示し,マッサージ側の腓腹筋内側頭の筋硬度がマッサージ後に有意に低下し,その効果は15分後まで持続した. 【考察】 揉捏法の手技は指掌を皮膚に密着し,筋肉をつかみ圧し搾るようにして動かす手技(網本,2008)であるため,筋ポンプ作用に近い効果が得られたと考える.この効果により静脈還流量が増加することで,心拍出量が増加し末梢血管の血流が改善したと考える.血流改善することでATPの生産が促進され,筋小胞体上のカルシウムポンプが働くことで,アクチンとミオシンの科学的結合が切れ,筋硬度が低下したと考える.また外力が加わることで,アクチンとミオシンが引き離され弛緩すると言っている(黒川ら,2008).このことから,マッサージにより外力が加わったことで筋硬度が低下したと考える.
著者
原田 脩平 加藤 仁志 栗林 朋宏 轟木 信彦 吉澤 和真 松澤 正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.F3P3585, 2009

【目的】マッサージにおいて効果が大きいとされている血液循環改善について検討した.本研究では下腿にマッサージを施行し,その前後の末梢側(足背)と中枢側(大腿)それぞれの皮下血流量の変化を明らかにすることを目的とした.<BR>【対象】対象者は循環障害などの疾患に問題のない健常大学生15名(男子9名,女子6名,平均年齢20.7±1.3歳)とした.ヘルシンキ宣言に基づき全対象者に同意を得た.なお,本研究は群馬パース大学の研究倫理委員会の承諾を受けて実施した.<BR>【方法】対象者を背臥位にして,マッサージ施行前後で末梢・中枢側の皮下血流量と血圧を測定し比較した.皮下血流量を測定するプローブは末梢側では足背,中枢側では大腿前面中央に貼付した.マッサージ試行の3,2,1分前のデータを測定し,基準値を決定した.続いて左下腿部に10分間マッサージを施行し,終了直後,5,10,15,20分後のデータを測定した.手技は下腿全体へ軽擦・圧迫・揉捏法を施行した.また,マッサージ施行前後に最大・最小下腿周径を測定し比較した.統計学的分析はWilcoxonの符号付順位検定にて行った.<BR>【結果】マッサージ施行後に末梢側・中枢側共に血流量が増加した(p<0.05).両者の変動は類似しており,5分後に減少し再び上昇した後,徐々に下降した.収縮期血圧において施行直後に低下がみられ,その後に大きな変動はなかった(p<0.05).下腿周径は最大・最小共に,施行後に減少した(p<0.05).<BR>【考察】マッサージ施行後に血流が増加したのは,マッサージにより滞っていた末梢側の血液が中枢側へ送られ,施行部の静脈管やリンパ管が空虚になり,そこへ新しい血液が急激に流れ込んだために血流量が上昇したと考えた.また,血流の変動は血流の上昇により中枢側へ流れ込んだ血流が滞り,血流量は5分後には施行前に比べ減少した.その後,滞っていたリンパ液が徐々に左静脈角で静脈に吸収されたことでリンパの流れが再び改善し,血管の周囲に張り巡らされているリンパ管による圧迫も軽減したことで,10分後の血流は再び上昇したと考えた.中枢側と末梢側による血流変化量については,同様な変化を示したため,浅・深膝窩リンパ節より上位のリンパ本幹で滞っていることが示唆された.血圧については,マッサージ施行により静脈環流量,心臓への血液流入量が増加した.それに伴い一回拍出量や心拍出量も増加したことで圧受容器が感知し,血管を拡張させた.これにより血管抵抗が低下し,血圧が低下したと考えられた.下腿周径において,施行前 後で有意にその値が低下したのは,末梢に滞っていたリンパ液が中枢側に還流されたためと考えた.本研究により,皮下血流量の上昇,血圧の低下,下腿周径の減少が認められたため,マッサージの血液循環の改善は認められた.
著者
鈴木 学 加藤 仁志 仲保 徹 木村 朗
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.485-489, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1

〔目的〕学生の性格とPBLテュートリアルに対する取り組み状況との関係について検討した.〔対象〕A大学理学療法学科の3年生55名とした.〔方法〕PBL実施後,KT性格検査による学生の性格判定およびPBLの取り組み状況に関するアンケートを実施した.〔結果〕5つの性格の程度は7.85~11.71であった.主たる性格によるPBLの取り組み状況には差異はなかった.各タイプの傾向とPBLの取り組み状況との関係は,臨床思考は「信念確信型」との間で有意な正の相関,「繊細型」との間で負の相関,協調性は「自己開放型」との間で有意な正の相関がみられた.〔結語〕取り組み状況の要因の1つとして各性格の程度が関係していることが示唆された.
著者
小口 理恵 牧迫 飛雄馬 加藤 仁志 石井 芽久美 古名 丈人 島田 裕之
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.705-710, 2008 (Released:2009-01-28)
参考文献数
19
被引用文献数
8 3

[目的]本研究では,地域在住高齢者において定期的に実施している運動の種目により,身体組成,運動機能に違いがあるかを検討した。[対象]70歳以上の地域在住高齢者83名(平均年齢75.9±4.3歳)を対象にした。[方法]身体組成,運動機能,実施している運動種目,実施頻度,実施時間および過去半年間での転倒の有無を調査した。運動種目により,対象をスポーツ群と軽運動群とに分類し,調査項目の比較検討を行った。[結果]スポーツ群では,軽運動群よりもTimed Up & Go Testが有意に速い値を示し,過去半年間の転倒経験が少なかった。さらに,スポーツ群では運動実施頻度と骨格筋量(r=0.41),膝伸展筋力(r=0.42)に有意な相関関係が認められた。[結語]定期的にスポーツを実施している高齢者は,歩行機能が良好であり転倒経験も少なく,運動の実施頻度は下肢筋力や骨格筋量と関連があることが示された。
著者
城下 貴司 福林 徹 加藤 仁志 浅野 信博 大橋 俊介 山家 佳那子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CcOF1071-CcOF1071, 2011

【目的】<BR> 著者は、第42回理学療法学術大会にてアキレス腱周囲炎、第43回理学療法学術大会では有痛性外脛骨に対して各々著者が考案した足趾エクササイズの臨床研究を紹介した。<BR> 本研究では、上述の足趾エクササイズを表面筋電図で解析し足趾機能を生体力学的に考察することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR> 機材は小型データロガシステムpicoFA-DL-2000(4アシスト)とFA-DL-140ディスポ電極を使用しサンプリング周波数は1kHz、5~500Hzの周波数を抽出、時定数0.03secとした。<BR> 対象は、特に足趾や足関節運動をしても問題のない健常者19名,25足,年齢25.72±7.2歳とした。被験者には端坐位姿勢、大腿遠位端に3kgの重錘を乗せ趾頭で踵を挙上させるように底屈エクサイサイズ(等尺性収縮約5秒間)おこなった。膝や股関節の代償運動抑制ために、被験者の体幹やや前傾、頭部は膝の直上に位置させた。<BR> 実験項目は、全趾による底屈エクササイズ、母趾による底屈エクササイズ、2から5による底屈エクササイズ、そして3から5による底屈エクササイズである。<BR> 電極は腓骨小頭直下の長腓骨筋、内果やや後上方脛骨内側後面に走行している内がえし筋群、腓腹筋内側頭筋腹、腓腹筋外側頭筋腹の4カ所に貼付した。<BR>データ解析は、定常状態と思われる等尺性収縮5秒間の内2秒間の筋電積分値(IEMG)を採用した。全趾による底屈エクササイズのIEMGをベースラインとして他の条件を正規化(%IEMG)した。エクサイサイズ別に各筋出力比較にANOVA、同一被験者同一筋の比較にRepeated ANOVA、および生データでも比較した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> すべての被験者に対して研究の主旨と内容について記載のある実験説明書を予め配布し実験説明をした後、同意書に著名を頂いてから行った。<BR><BR>【結果】<BR> 母趾底屈エクササイズでは、長腓骨筋が141%,内がえし筋群が103%、腓腹筋外側頭が102%,内側頭は96%であり、統計上も有意に長腓骨筋が他の筋よりも高い値を示した(n=25,p=0.001,0.19,0.001 <0.05)。<BR> 2-5趾の底屈エクササイズでは、長腓骨筋が68.2%<BR>内がえし筋群が120%、外側頭は90%、内側頭94.9%を示し、統計上内がえし筋群が長腓骨筋、腓腹筋内側頭よりも有意に高い値を示した(n=25,p=0.0001, 0.03 <0.05)。<BR> 3-5底屈エクササイズでは、長腓骨筋が58%、内がえし筋群が121%、腓腹筋外側頭が78% 内側頭は91 .8%であった。統計上も内がえし筋群が長腓骨筋と腓腹筋内側頭に対して有意に高い値を示した(n=25,p=0.001,0.001<0.05)。<BR> しかしながら同一被験者、同一筋の比較では長腓骨筋が母趾エクササイズにて2から5趾3から5趾底屈エクササイズよりも有意に高い値を示した(n=25,p=0.001,0.001<0.05)のみで、その他の筋は有意な差は示さなかった。<BR><BR>【考察】<BR> 本研究は筆者が考案した足趾エクササイズを表面筋電図で解析したものである。<BR> 腓腹筋内側頭および外側頭は、内側頭の方がやや高い値を示しただけであり、どのエクササイズでも明らかな違いを示さなかった。足趾運動は後方の筋よりも内外果を走行している前方の筋群であることを示唆した。<BR> 著者の先行研究で、アキレス腱周囲炎、有痛性外脛骨の症例に対して、2から5趾、3から5趾の底屈エクササイズは有効的であったが母趾のエクサイサイズは有効的ではなかったことを報告した。<BR> 母趾エクササイズは回外筋である長母趾屈筋の作用は明らかであるにもかからず、上記の疾患で有効性を示さなかったことに疑問があった。<BR> 本研究の結果から母趾エクササイズでは外がえし筋群が優位であり先行研究の現象が長母趾屈筋だけでなく長腓骨筋が作用していることがわかった。<BR>2から5趾および3から5趾底屈エクササイズでは母趾エクササイズとは対照的で、内がえし筋群が優位であったことから著者の臨床研究の根拠を示せたと考えている。<BR> しかしながら同一筋で比較したとき、長腓骨筋ではエクササイズごとに有意な差を認めたが、内がえし筋群では有意な差を認めなかった。本研究の内がえし筋群の電極は後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋が混在しているために、エクササイズごとに明確な変化を示さなかったと考えている。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究から、足趾の評価治療は、全趾を評価するのでなく足趾ごと評価治療することの必要性と、著者が考案した足趾エクササイズの臨床的有効性のみだけでなく、バイオメカニカルな視点からの根拠を示唆した。
著者
原田 脩平 加藤 仁志 栗林 朋宏 轟木 信彦 吉澤 和真 松澤 正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F3P3585, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】マッサージにおいて効果が大きいとされている血液循環改善について検討した.本研究では下腿にマッサージを施行し,その前後の末梢側(足背)と中枢側(大腿)それぞれの皮下血流量の変化を明らかにすることを目的とした.【対象】対象者は循環障害などの疾患に問題のない健常大学生15名(男子9名,女子6名,平均年齢20.7±1.3歳)とした.ヘルシンキ宣言に基づき全対象者に同意を得た.なお,本研究は群馬パース大学の研究倫理委員会の承諾を受けて実施した.【方法】対象者を背臥位にして,マッサージ施行前後で末梢・中枢側の皮下血流量と血圧を測定し比較した.皮下血流量を測定するプローブは末梢側では足背,中枢側では大腿前面中央に貼付した.マッサージ試行の3,2,1分前のデータを測定し,基準値を決定した.続いて左下腿部に10分間マッサージを施行し,終了直後,5,10,15,20分後のデータを測定した.手技は下腿全体へ軽擦・圧迫・揉捏法を施行した.また,マッサージ施行前後に最大・最小下腿周径を測定し比較した.統計学的分析はWilcoxonの符号付順位検定にて行った.【結果】マッサージ施行後に末梢側・中枢側共に血流量が増加した(p<0.05).両者の変動は類似しており,5分後に減少し再び上昇した後,徐々に下降した.収縮期血圧において施行直後に低下がみられ,その後に大きな変動はなかった(p<0.05).下腿周径は最大・最小共に,施行後に減少した(p<0.05).【考察】マッサージ施行後に血流が増加したのは,マッサージにより滞っていた末梢側の血液が中枢側へ送られ,施行部の静脈管やリンパ管が空虚になり,そこへ新しい血液が急激に流れ込んだために血流量が上昇したと考えた.また,血流の変動は血流の上昇により中枢側へ流れ込んだ血流が滞り,血流量は5分後には施行前に比べ減少した.その後,滞っていたリンパ液が徐々に左静脈角で静脈に吸収されたことでリンパの流れが再び改善し,血管の周囲に張り巡らされているリンパ管による圧迫も軽減したことで,10分後の血流は再び上昇したと考えた.中枢側と末梢側による血流変化量については,同様な変化を示したため,浅・深膝窩リンパ節より上位のリンパ本幹で滞っていることが示唆された.血圧については,マッサージ施行により静脈環流量,心臓への血液流入量が増加した.それに伴い一回拍出量や心拍出量も増加したことで圧受容器が感知し,血管を拡張させた.これにより血管抵抗が低下し,血圧が低下したと考えられた.下腿周径において,施行前 後で有意にその値が低下したのは,末梢に滞っていたリンパ液が中枢側に還流されたためと考えた.本研究により,皮下血流量の上昇,血圧の低下,下腿周径の減少が認められたため,マッサージの血液循環の改善は認められた.
著者
小野沢 浩 加藤 仁志 鳥海 亮
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.302, 2011 (Released:2011-08-03)

【はじめに】 一般的に変形性膝関節症に対する杖処方は、膝関節面の保護や疼痛緩和を目的に行われる。今回、当施設に通所する両側変形性膝関節症(内側型)を呈した症例に対して、歩行時の痛みの評価からT字杖の免荷効果に着目した理学療法を展開した。その結果、動作指導後、T字杖歩行にて痛みの軽減を図ることができた症例であった。 【症例】 88歳女性。診断名は両側変形性膝関節症。介護区分は要支援1。通所回数は週1回。主訴は歩行時両膝が痛い、自信をもって歩きたい。膝痛は数十年前から出現、ここ数年間で痛みが増悪。杖歩行の経験はなく、屋内・屋外はつたい歩き、又は休憩を取りながら歩行していた。なお、発表にあたり口頭にて同意を得た。 【評価】 日常会話から、認知機能問題なし。リハ意欲強く、学習機能良好。歩行時荷重時痛あり(右>左)。痛みは、踵接地直後から立脚中期に両膝関節裂隙部に出現し、刺すような、重いような痛みであった。FTA右195°左190°、FBS 50点。握力右11kg左10kg。上肢・体幹・下肢MMT4~5。ROMは両股関節伸展-5°、両膝関節屈曲110°/伸展-5°。立位姿勢は骨盤軽度前傾、股関節軽度屈曲、膝関節軽度屈曲、大腿骨に対して頸骨が軽度内旋位。立位にて両大腿四頭筋・大腿筋膜張筋の筋緊張高い。痛みにより連続歩行時間5分程度。 【経過】 免荷効果による両膝関節の荷重時痛緩和を目的にT字杖歩行練習開始。どちらの手で杖を把持した方が良いかわからず、杖先接地面が定まらない歩行。FTAの結果から左把持と杖の長さを調節。杖先が吸盤型のT字杖では杖先接地良好。痛みの評価から、痛みの発生時期と正常歩行の鉛直床反力の変化に着目し、右踵接地に合わせた杖接地のタイミングを口頭と模範的に指導。2ヶ月後には連続歩行時間10分以上可能(施設内)。本症例より、「安心して歩けるような気がする。」という発言を頻回に聴取。 【考察】 T字杖の免荷作用に着目すると、19%の免荷効果が可能であると報告されている。しかし、この効果を発揮する場合、利用者がT杖歩行動作を十分に習得することが条件であり、杖処方時に十分な動作指導が必要であると考える。本症例の場合、歩行時の垂直分力が最も大きくなる踵接地時に免荷効果を発揮するため、右踵接地と同時に杖を接地するよう徹底して指導を行った。その結果、1歩あたりの荷重時間が延長できるようになり、T字杖の免荷効果によって、膝関節内側面にかかる踵接地時の垂直方向の分力が減少し、歩行時の荷重時痛が軽減されたと考えられた。また、そのことにより歩行距離が延長したと考えられた。
著者
飯塚 直貴 加藤 仁志 高橋 宙来 松澤 正
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.210, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】我々は,マッサージ側と非マッサージ側の筋硬度を比較し,マッサージ側の筋硬度が有意に低下したことを報告した(松澤ら,2011).しかし,マッサージの効果の男女差を明らかにした報告は見当たらない.本研究ではマッサージ施行直前,直後の筋硬度の変化量の男女比較を行うことで,マッサージによる筋硬度の変化に男女差があるか検討した.【方法】対象者は健常成人20名(男性10名, BMI22.1±3.0,年齢22±2.1歳.女性10名, BMI19.9±1.8,年齢20.7±0.5歳)とした.対象候補者に対して,予め十分に説明し,書面による同意を得た上で本研究の対象者とした.対象者は,下腿を露出し治療ベッド上に背臥位で10分間安静にした.その後,腹臥位になり左腓腹筋のマッサージを,軽擦法1分間,揉捏法5分間,軽擦法1分間の順で施行した.筋硬度はマッサージ直前,直後,15分後に測定した.測定部位は両側の腓腹筋内側頭最大膨隆部とし,その部位をマークし筋硬度を5回測定しその平均値を採用した.統計学的解析は,マッサージ側と非マッサージ側の変化量を比較するために対応のないt検定を用いて検討した.また,マッサージ前後の筋硬度の変化量の男女差を比較するために対応のないt検定を用いて検討した.【結果】筋硬度の変化量は,マッサージ側が有意に大きかった.また,男性のマッサージ側の筋硬度は直前13.1±3.8N,直後10.9±3.1Nであり,女性のマッサージ側の筋硬度は直前9.7±1.9N,直後8.5±1.5Nであった.男女のマッサージ側の筋硬度の変化量を比較した結果,男性が有意に大きかった.【考察】結果より,マッサージによって筋硬度が低下することが明らかとなり,これは我々の先行研究と同様の結果であった.さらにマッサージを実施した筋の筋硬度の変化の男女差を検討した結果,マッサージの効果は女性と比較して男性の方が大きいことが明らかとなった.生体における標準体脂肪は,男性が15%であり,女性は26%であることが知られている(小澤ら,2009).揉捏法の手技は指掌を皮膚に密着し,筋肉をつかみ圧し搾るようにして動かす手技(網本,2008)であるため,マッサージの効果を得るには筋組織に圧が伝わらないといけないが,女性は筋組織にマッサージの圧が加わる前に脂肪組織に圧がより多く伝わってしまいマッサージの効果が得られにくかったと考えられた. 【まとめ】本研究の結果は,マッサージの効果としては女性と比較して男性の方がより効果が高いことが示唆され,女性に対してマッサージを施行する際には男性と同様の結果が得られない可能性を考える必要がある.