著者
岡野 光夫 大和 雅之 菊池 明彦 横山 昌幸 秋山 義勝 清水 達也 KUSHIDA Ai 青柳 隆夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、温度変化に応答して水溶性を大きく変化させる温度応答性高分子のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)とその誘導体で修飾した温度応答性パターン化表面を、電子線重合法を用いて作製し、これら表面の物性解析と異なる細胞種を用いた共培養、ならびに共培養細胞シートの作製への応用可能性を追究した。今年度は、パターンサイズの異なるパターン化温度応答性表面を作製した。具体的には、電子線重合法によりPIPAAmであらかじめ修飾された表面に、疎水性モノマーのブチルメタクリレート(BMA)溶液を塗布、パターンサイズの異なるマスクを介して電子線照射し、パターン化温度応答性表面を調製した。このとき、パターンサイズが100μm程度では、照射電子線の潜り込み等によりパターンサイズがマスクに比して変化する可能性が示唆された。この手法で、温度制御により部位特異的に親水性/疎水性(細胞非接着性/接着性)を制御しうる表面が調製できた。これらの表面を用い、肝実質細胞と、血管内皮細胞のパターン化共培養系を構築した。さらに、培養皿表面全体が親水性を示す20℃ですべての細胞を、パターン化形状を維持したまま1枚のシートとして回収できた。次に、共培養による肝実質細胞機能の変化をみるために、肝実質細胞から産生されるアルブミンの定量、ならびにアンモニア代謝に伴う尿素合成能を解析した。パターン化共培養により、いずれの機能も肝実質細胞単独培養系に比して高い数値を示した。さらにパターンサイズが小さいほど機能亢進することが明らかとなった。このとき、より小さなパターン化共培養系で肝実質細胞の培養期間が延長できる点も明らかとなった。以上の結果は、肝実質細胞と内皮細胞シートとの重層化によって得られた知見とよく一致していたことから、細胞-細胞間の距離がきわめて重要な影響を与え、細胞機能の発現につながるものと考えられる。
著者
岡野 光夫 大和 雅之 清水 達也 中山 正道 秋山 義勝 原口 裕次 菊池 明彦 串田 愛
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)をポリスチレン表面にグラフトした温度応答性培養皿を利用した、細胞シート工学的手法をさらに発展させることを目的として、(1)種々の生理活性因子を温度応答性表面に固定化し、ウシ胎児血清(狂牛病等の異種感染を完全には否定できない)や患者自己血清(患者毎に生理活性が異なりうる)を必要としない温度応答性培養床を開発、さらに本技術を応用し(2)細胞増殖を加速化し、短期間で細胞シートを作成することにも成功した。具体的には、温度応答性培養皿表面に、生理活性物質が固定化可能な結合サイトを導入し、RGDのような生理活性ペプチドを導入することで無血清培養条件下での細胞シート回収に成功した。また、スペーサーを介してPHSRN(RDGのシナジー配列)とをRDGと共固定することで細胞接着性が向上し、共固定の細胞培養における有用性を明らかにした。(2)さらに、RGDとインスリンの共固定した表面で細胞培養を行うことで、液中にインスリンが存在するよりも、細胞増殖が加速され短期間に細胞シートが作製できることを明らかにした。生理活性物質の固定にはアビジン、ビオチンケミストリーの利用も有効であることを明らかにした。今後、既に臨床応用をおこなっている皮膚表皮細胞シート、角膜上皮細胞シートの他、臨床応用を目指している角膜内皮細胞シート、網膜色素上皮細胞シート、心筋細胞シート、肺胞細胞シート等、それぞれの細胞種に最適化した固定化する生理活性子の組み合わせ、各々の因子の濃度を検討中である。
著者
大和 雅之
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

プラスチックやガラスのような可塑性をもたない培養基質上に接着した細胞は、細胞底面のごく限られた部分でのみ基質と接着し、この接着部位は接着斑と呼ばれる。接着斑には、細胞外マトリックスリセプターが濃縮し、細胞骨格としてアクチン線維の末端が繋留する。接着斑には、ビンキュリンやテーリンなどの接着構造を維持するのに必要な分子の他に、情報伝達に関与することが知られているPLC-_γなどの分子群も濃縮している。しかし、生体内ではこのような硬質の接着基質は存在せず、血管内皮などの例外を除いて、接着斑は観察されていない。本研究では生体内で細胞と細胞外マトリックスとの接着構造を検討することを最終目標に、そのモデル系として三次元コラーゲンゲル内培養を用いて、I型コラーゲンと線維芽細胞の間の接着構造について、螢光抗体法により共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて検討した。線維芽細胞は、三次元培養系では二次元培養の接着斑のような局所的な接着部位を形成せず、細胞表面全面にわたって接着斑よりも小さなバッチ状の接着部位を作った。ここには、α2β1インテグリンの他、ビンキュリンも濃縮しており、接着構造を構成する分子は、基本的に二次元培養と同一であると思われる。現在、他の構成分子についても検討中である。線維芽細胞は、三次元コラーゲンゲル内で、きわめて細長い紡鐘形をとるが、このときストレスファイバーは細胞長軸に両末端を接続するように並走する。ストレスファイバーとインテグリン、ビンキュリンの共局在は、共焦点レーザー走査顕微鏡の解像度では、観察されなかった。ストレスファイバーよりも微細なアクチン線維の組織化状態との関係については、今後、電子顕微鏡レベルでの検討を加えたい。アクチン線維を断裂させるサイトカラシンを低濃度で培地に添加すると、アクチン線維が断裂するにも関わらず、細胞形態はほとんど変化しない。断裂の結果、アクチン線維はパッチ状に細胞膜直下に観察された。この断裂したアクチン線維のパッチとインテグリン、ビンキュリンの濃縮する接着構造の共局在が認められるかについて現在検討中である。
著者
大和 雅之
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1 短時間で細胞を脱着させる温度応答性培養床表面の創製:温度応答性培養皿からの非侵襲的な細胞脱着は、培養皿表面に固定化した温度応答性高分子が低温処理にともない親水性化して、細胞接着分子との相互作用を減少させることを必要とするため、培養皿表面に固定化した温度応答性高分子への水の供給の制御は重要である。これまでに作成した温度応答性培養皿は市販のポリスチレン製細胞培養皿上に固定化していたが、ポリスチレンは疎水性を示し、水分子の供給という観点からは最適ではないと考えられる。今回、この点に着目し、微小孔(直径1μm以下)より水分子が容易に侵入できる多孔性膜上に温度応答性高分子をグラフトした。PIPAAmのグラフト量が同程度であ、直径を同一にした従来型の培養皿に比べ、細胞や細胞シートをより早くより完全に脱着させることに成功した。また脱着の加速化の程度は、細胞シートの場合により顕著であった。2 サイトカインによる細胞脱着速度の制御:これまでの研究で、低温処理により細胞が温度応答性培養床表面から脱着するには、ATPを消費して発生する細胞骨格に起因する収縮力が必要であることが明らかになっている。種々の因子により細胞骨格の再組織化に関与する情報伝達系を刺激することができるが、これらのうち、ATP,dbcAMP、各種細胞成長因子、カルシウムイオノフォアを検討した。いずれを用いても顕著な加速化を達成する条件は得らなかった。3 サポータを用いた脱着過程の短時間化:温度応答性培養皿から回収した細胞シートを組織工学的に応用することを目標として、欠陥のない細胞シートを回収し、別表面に移動して再接着する種々の条件を精緻化する過程で、条件の最適化により脱着に要する時間を十倍以上短縮することに成功した。これらの成果の一部についてはすでに論文発表した。残りについても今後発表していく予定である。
著者
大和 雅之 篠崎 和美 堀 貞夫 清水 達也 青柳 隆夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

我々は細胞シート工学を提案し、その体系的追求に尽力している。細胞シート工学とは、生分解性高分子製足場を一切用いることなく、細胞-細胞間接着と細胞自身が培養の間に作り出す細胞外マトリックスによりシート状をなす細胞集団すなわち細胞シートを根幹単位として、細胞シートを用いて組織構造を再構築する技術の総称である。通常、培養細胞の回収に用いられるトリプシンなどのタンパク質分解酵素は細胞-細胞間接着を破壊してしまうため、通常、細胞シーとして回収することはできない。この問題を解決するため、我々は温度応答性培養表面を開発した。温度応答性培養表面には、温度に応じて親水性・疎水性を大きく変化させる温度応答性高分子が共有結合的に固定化されており、タンパク質分解酵素を用いることなく、温度を下げるだけで培養細胞をまったく非侵襲的に回収することができる。細胞シートは底面に培養の間に沈着した細胞外マトリックスを接着したまま回収されるため、容易に他の表面に接着する。温度応答性培養皿を用いて作製した角膜上皮細胞シートをウサギ角膜上皮幹細胞疲弊症モデルに移植し、十分な治療成績が得られることを確認した。通常、角膜移植では縫合が必須であるが、温度応答性培養皿を用いて作製した角膜上皮細胞シートは5分程度で角膜実層に接着し、縫合の必要がまったくなかった。また、細胞-細胞間接着が維持されているため、移植直後からきわめて良好なバリア機能を有していた。これらの成果をふまえ、大阪大学眼科との共同研により平成14年12月より臨床応用を開始し、全例で治療に成功した。本技術は熱傷やスティーブンス・ジョンソン症候群などの角膜上皮幹細胞疲弊症の治療に大きく貢献することが期待された。
著者
大和 雅之
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ラット背部皮膚および人工的に作成した創傷部位について、共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて、免疫組織学的検討をおこなった。培養細胞では高度の組織化が観察されるアクチン線維は、正常真皮中に存在する線維芽細胞ではまったく観察されなかった。β1インテグリンは、表皮細胞や毛包細胞では発現していたが、その局在は細胞-基質間接着ではなく細胞-細胞間接着に関与することを強く示唆するものであった。正常真皮中の線維芽細胞ではβ1インテグリンは検出されなかったが、創傷治癒部位の線維芽細胞では、血球系の細胞と共に強く発現していた。創傷治癒部位の線維芽細胞はアクチン線維の組織化も観察された。正常真皮中の線維芽細胞は、大量のコラーゲン線維によって三次元的に覆われているため、抗体が認識するエピトープがインテグリン細胞外ドメインにある場合、コラーゲン線維によるマスキングの可能性を否定できないが、インテグリン細胞質ドメインを認識するポリクローナル抗体を用いても同一の結果がえられたので、マスキングはないと結論した。有限寿命をもつ正常二倍体線維芽細胞を用いた、基質接着部位に濃縮する種々の分子の抗体染色の結果は、これまでに用いられてきた無限寿命をもつNIH3T3やSwiss3T3と同様であった。培養細胞では非常によくその発現を検出できるFAKは、正常組織では、ほとんど検出できなかった。以上の結果は、培養細胞系は、創傷治癒部位の線維芽細胞とは似ているものの、正常真皮中の線維芽細胞とは大きく異なることを示唆している。
著者
大和 雅之 清水 達也
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

我々は、温度に応じて水との親和性を大きく変化させる温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を培養皿表面に共有結合的に固定化することにより温度応答性培養皿を開発した。この表面は、37℃では市販の培養皿と同程度の弱い疎水性を示し様々な細胞が接着・伸展するが、温度を32℃以下に下げると高度の親水性を示し、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を必要とすることなく細胞を脱着させることができる。コンフレントな細胞層を形成させた後に低温処理すると、全細胞を細胞?細胞間接着により連結した一枚の細胞シートとして脱着を・回収することができる。本研究は新しいハイブリッド型人工尿細管の開発をめざして、温度応答性培養皿を用いて作製した腎尿細管上皮細胞シートを多孔膜上に再接着させ、再吸収能・物質産生能の機能評価をおこなう。本年度に以下の成果を得た。(1)ヒト尿細管上皮細胞シートの作製:昨年度に用いていたイヌ近位尿細管上皮細胞由来株細胞に代えて、正常ヒト尿細管上皮細胞を温度応答性培養皿上で培養し、細胞シートとして回収する条件を確立した。臨床を考慮すると正常ヒト細胞の利用は必須であるが、株化(無限寿命化していない正常)していない正常ヒト尿細管上皮細胞を用いても、培養条件を工夫することにより、細胞シートとして回収し、平膜型透析デバイスに組み込むことができた。(2)物質輸送能に必要な分子群の発現、局在化:人工尿細管デバイスとしての機能に要求される種々の物質輸送関連分子の発現と局在を確認するために、免疫染色後に、共焦点レーザー走査顕微鏡により細胞シート縦断面像作製した。トリプシンで回収し、透析膜上に播種したコントロール群に比べ、有意に良好な局在が認められた。以上により、腎尿細管上皮細胞シートを利用したハイブリッド型人工尿細管の開発の可能性が示された。
著者
大和 雅之 菊池 明彦 秋山 義勝 西田 幸二 串田 愛
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、3T3フィーダーレイヤーを完全に代替することを目的として、上皮幹細胞を維持・増殖させるのに必要な生理活性因子を固定化し、なお温度に応答して細胞シートを脱着させる次世代型温度応答性培養皿の開発を目的としている。カルチャーインサートを用いた実験、および上皮幹細胞を播種するまでの時間を変え効果を比較する実験等の予備的検討から、3T3フィーダーレイヤー由来の生理活性因子の少なくとも一部として細胞外マトリックス構成分子が機能していることを明らかにした(論文投稿準備中)。次に、3T3フィーダーレイヤー由来生理活性因子の検索の際にポジティブコントロールおよびネガティブコントロールとして用いるマウス細胞株を決定するために、種々のマウス由来細胞株をフィーダーレイヤーとして用い、角膜上皮細胞のコロニー形成能、重層化を評価した。本方法で選択したポジティブコントロール、ネガティブコントロールの細胞株からmRNAを単離し、TaqMan PCRを用いた定量化により約30種の細胞外マトリックス遺伝子について網羅的検索を行い、3T3と比較した。この方法でフィーダーレイヤー活性に関与する可能性をもつ数種の遺伝子を同定することができた(論文投稿準備中)。現在、これらの遺伝子産物を培養系に添加する実験、およびこれらの特異的な抗体を培地に添加する阻害実験といった細胞生物学的手法により、それら候補分子の上皮幹細胞に対する生理活性を検討中である。また、培地に添加する方法以外に、カルボキシル基を導入した温度応答性培養皿表面に共有結合的に固定化する方法もあわせて検討している。すでに、RGDペプチドやインシュリンなど生理活性分子を固定化した温度応答性培養皿を利用して、血管内皮細胞の接着性や増殖性が亢進することを確認している。現在、上記候補分子を結合した培養皿上での上皮幹細胞培養条件について検討を進めている。