著者
大園 享司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.304-318, 2007-11-30 (Released:2016-09-16)
参考文献数
91
被引用文献数
1

冷温帯産樹木の落葉を材料として、その分解過程と分解に関わる菌類群集の役割を実証的に明らかにした。調査地は京都府の北東部に位置する冷温帯ブナ天然林である。35ヶ月間にわたる落葉分解実験の結果、14樹種の落葉のリグニン濃度と落葉分解の速度および落葉重量の減少の限界値との間に負の相関関係が認められた。また窒素・リンの不動化-無機化の動態がそれぞれリグニン-窒素(L/N)比、リグニン-リン(L/P)比の変化によく対応していた。実験に用いた落葉樹種のいずれにおいても、リグニン分解はホロセルロース分解より遅く、落葉中のリグニン濃度は分解にともなって相対的に増加する傾向が認められた。落葉に生息する微小菌類と大型菌類について調査を行い、29樹種の落葉から49属の微小菌類を、また林床において一生育期間を通して35種の落葉分解性の担子菌類を記録した。ブナとミズキの落葉において分解にともなう菌類遷移を比較調査した。リグニン濃度が低く分解の速いミズキ落葉では、リグニン濃度が高く分解の遅いブナ落葉に比べて、菌類種の回転率が高く、菌類遷移が速やかに進行した。担子菌類の菌糸量はミズキよりもブナで多く、またブナでは分解にともなって担子菌類の菌糸量の増加傾向が認められた。分離菌株を用いた培養系における落葉分解試験では、担子菌類とクロサイワイタケ科の子嚢菌類がリグニン分解活性を示し、落葉重量の大幅な減少を引き起こした。落葉のリグニン濃度が高いほど、菌類による落葉の分解速度が低下する傾向が培養系でも示された。同様に、先行定着者による選択的なセルロース分解によりリグニン濃度が相対的に増加した落葉においても、菌類による落葉の分解力の低下が認められたが、選択的なリグニン分解の活性を有する担子菌類の中には、そのような落葉を効率的に分解できる種が含まれた。これら選択的なリグニン分解菌類は野外においても強力なリグニン分解活性を示し、落葉の漂白を引き起こしていたが、林床におけるその定着密度は低かった。
著者
大園 享司 門 祐太 Takashi Osono Yuta Kado
出版者
同志社大学ハリス理化学研究所
雑誌
同志社大学ハリス理化学研究報告 = The Harris science review of Doshisha University (ISSN:21895937)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.221-229, 2021-01-31

本稿では土壌におけるリン溶解菌(リン化合物の可溶化に関わる細菌・真菌)の機能的多様性をまとめる。土壌における主要な無機リン・有機リン化合物の動態についてまとめ、土壌微生物のリンプールとしての役割ならびにリンの変換における役割を紹介する。微生物は無機リン・有機リンの可溶化能力の点で機能的に多様であり、リン可溶真菌として50属の子嚢菌類、担子菌類、ケカビ類が報告されている。有機リン化合物を加水分解するホスファターゼをコードする遺伝子を有するリン可溶細菌のメタバーコーディングについての最近の研究をレビューし、リン可溶真菌に関する今後の研究について議論する。
著者
大園 享司
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.297-309, 2011-11-30
被引用文献数
2

病原菌は森林における樹種の多様性の維持に貢献することが知られている。寿命の長い多様な木本種からなる自然環境下の森林において、病原菌が樹種の多様性の創出・維持に果たす役割を実証するためには、病害の発生地における長期的な樹木群集の動態データが不可欠である。本稿の目的は、病害の発生地における樹木の長期的な個体群動態や群集動態に関する実証的・記載的なデータをレビューし、病原菌が森林における樹種の多様性に及ぼす影響について議論することである。シュートレベルでの枯死を引き起こすミズキの輪紋葉枯病やスイス落葉病といった病害では、病原菌が樹木個体内のシュート集団の動態に及ぼす影響を定量化し、感染が個体レベルでの物質生産に及ぼす影響を実証的に評価することは可能である。しかし、それが森林における樹種の多様性にどのような影響を及ぼすのかはよくわかっていない。その一方で、成木の比較的急速な枯死を引き起こすミズキ炭疽病、ブナがんしゅ病、ニレ立枯病、クリ胴枯病、エキビョウキンによる根腐病、エゾノサビイロアナタケによる根株心腐病などの病害では、病原菌が樹木個体群の動態や樹種の種多様性に及ぼす影響が実証的に明らかにされている。これらの病害が森林における樹種の多様性の維持に貢献しており、病原菌が森林における樹種の多様性を創出するメカニズムの1つとして機能しうることが実証されている。ただし、病原菌は必ずしも多様性の増加に寄与するとは限らず、変化がない場合や、逆に多様性が減少する場合もあり、多様性がどう変化するかの予測は現時点では困難といえる。
著者
大園 享司 広瀬 大 Takashi Osono Dai Hirose
出版者
同志社大学ハリス理化学研究所
雑誌
同志社大学ハリス理化学研究報告 = The Harris science review of Doshisha University (ISSN:21895937)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.41-51, 2020-04-30

樹木の生葉に由来する内生菌が枯死葉からも出現しその分解に関与することが知られている。本総説では、樹木の葉リターの分解に関わる内生菌の分類と生態を集約した。内生菌の葉リターにおける出現、定着、遷移、存続と、分解プロセスへの貢献についてまとめた。環境DNAを対象とした分子生物学的手法を用いた予備的な研究から、亜熱帯林と熱帯林の樹木葉でのリグニン分解に果たす内生菌の役割は小さいことが示唆された。
著者
長尾 侑架 大園 享司 広瀬 大
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.85, 2011

葉や茎を変形させてアリ類を営巣させ、それらのアリ類と密接な相利共生関係を結ぶ植物をアリ植物という。アリと菌類の共生関係として、ハキリアリ類との栽培共生がよく知られている。近年では、アリ植物やその共生アリとのあいだにユニークな関係を持つ菌類が相次いで発見されており、植物―アリ―菌類の三者間相互作用系に注目が集まっている。演者らは、アジア熱帯に分布するアリ植物のオオバギ―シリアゲアリ共生系を材料として、この相互作用系を明らかにする目的で研究を進めている。本発表では、<I>Macaranga bancana</I> 茎内のアリの巣から出現する菌類の多様性と機能についての予備調査の結果を報告する。2009年6月にマレーシアのランビルヒル国立公園において、内側がアリ室として利用され黒色化した茎(直径1cm、長さ2cm、軸方向に半分割)20片を採取した。これら試料片を20℃の湿室内で2週間培養し、出現した菌類の形態観察とDNA塩基配列(ITS領域、28S)により分類群を検討した。その結果、9分類群の菌類が得られた。<I>Nectria haematococca</I> と<I>Lasiodiplodia theobromae</I> の2種はいずれも20試料片中13片(出現頻度65%)ともっとも高頻度で出現した。<I>L.theobromae</I> はマンゴーやカカオの病原菌として知られるが、本種の黒色菌糸はアリ室内部の黒色化に関与している可能性がある。<I>Isaria takamizusanensis</I> はアリ室に共生するカイガラムシの関連菌と推察される。このほか昆虫関連菌と考えられる分類群や、リター菌・土壌菌である<I>Aspergillus niger</I> などが分離された。加えて、アリ植物の葉に見られるfood bodyおよびアリからも菌が分離されており、その結果も合わせて報告する。今後はこれらの菌類種のアリ室における生態的な役割を調べるとともに、オオバギ属の他の植物種を対象とした菌類多様性の比較調査を行う予定である。
著者
大園 享司
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第52回大会
巻号頁・発行日
pp.94, 2008 (Released:2008-07-21)

ヤブツバキの内生菌・葉面菌とその季節および葉齢にともなう変動を調べた.調査地は京都市西部の大原野森林公園内にあるアカマツ・コナラ・ヤブツバキの優占する二次林である.2004年5,8,11月および2005年2月の4回,ランダムに選んだヤブツバキ成木5個体の高さ約6mの枝を刈り取って年枝を読み取り,葉齢0,1,2,3年の見かけ上健全な葉を各10枚ずつ,合計40枚を採取した.これらの葉から直径5.5mmの葉片を合計160葉片を打ち抜き,表面殺菌法と洗浄法により内生菌と葉面菌をそれぞれ分離した.全体で79分類群の菌類がヤブツバキ葉から出現した.内訳は,内生菌が44分類群,葉面菌が52分類群,共通種が17種であった.内生菌の葉片感染率と分離菌株数は5月から2月にかけて有意に増加する傾向を示し,出現種数は葉の加齢にともなって有意に増加する傾向を示した.一方,葉面菌の葉片感染率は季節・葉齢によらず100_%_であり,分離菌株数は5月に最大となり8月に最小となった.葉面菌の出現種数は季節,葉齢で有意差は認められなかった.8種の菌類が高頻度で出現し主要な菌類と見なされた.Colletotrichum gloeosporioides, Colletotrichum acutatum, Pestalotiopsis sp.1, Aureobasidium pullulans, Phoma sp.1, Ramichloridium sp., Cladosporium cladosporioidesの7種では季節間で出現頻度が有意に変動した.出現頻度の季節パターンはこれらの種間で異なっており,5月にはC. gloeosporioides, Pestalotiopsis sp.1, Clad. cladosporioides, Phoma sp.1が,8月にはA. pullulans, Ramichloridium sp.が,11月にはC. gloeosporioides, C. acutatum, Pestalotiopsis sp.1, Clad. cladosporioides, A. pullulansが,そして2月にはC. gloeosporioides, Pestalotiopsis sp.1, Clad. cladosporioidesが高頻度で出現した.一方でGeniculosporium sp.1 とC. cladosporioidesの出現頻度は葉の加齢にともなって有意に増加した.
著者
大園 享司
出版者
応用森林学会
雑誌
森林応用研究 (ISSN:13429493)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.7-12, 2006-03-31 (Released:2018-01-16)
被引用文献数
2

輪紋葉枯病に罹病したミズキ葉上の菌類を,生葉での病斑拡大と脱落・腐朽にともなう変化に注目して調べた。また分離菌株を用いた対峙培養試験により,ミズキ葉より分離される菌類の,輪紋葉枯病の病原菌に対する拮抗作用を調べた。罹病生葉の輪紋部からは病原菌が主に分離された。病斑周縁部からは病原菌とともに,未感染部に存在する内生菌が分離された。罹病生葉の輪紋部,周縁部において,病原菌が検出された葉片では検出されなかった葉片に比べて菌類の分離頻度が低かったことから,病斑の拡大にともなって内生菌が排除されると考えられた。早期落葉直後の脱落葉では,輪紋部から病原菌が,周縁部から病原菌と内生菌が分離された。未感染部では腐生菌の定着にともない内生菌が減少していたことから,脱落直後においても病原菌感染部への菌類定着は制限されていると考えられた。腐朽の進んだ葉から病原菌は分離されず,輪紋部,未感染部のいずれからも腐生菌が分離された。対峙培養試験において,ミズキ葉上から分離した9種18菌株の供試菌は病原菌4菌株に対して置き換わり,接触阻害,接触前阻害を示した。拮抗作用は供試菌の種や菌株と病原菌の菌株との組み合わせにより異なった。
著者
大園 享司
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

南西諸島の亜熱帯から本州の暖温帯に至る常緑広葉樹林において、落葉の漂白に関わる菌類の多様性、漂白部の化学組成およびその落葉分解にともなう変化、そして落葉漂白菌類の地理的分布を実証した。沖縄本島北部の亜熱帯林における継続観察により8属の菌類が漂白に関与しており、落葉中のリグニンの選択的除去が炭素と窒素のターンオーバーを促進していることを示した。石垣島から佐渡島に至る20地点では計62種の菌類が漂白に関与しており、落葉上の漂白面積率は年平均気温の低下にともなって減少した。以上により、リグニン分解に関与する菌類の多様性と機能の点から、本邦亜熱帯林の土壌分解系について新規性の高い成果が得られた。
著者
大園 享司 武田 博清
出版者
応用森林学会
雑誌
森林応用研究 (ISSN:13429493)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.7-11, 2002-03-29
被引用文献数
1

培養系において15種19菌株(担子菌類(B)6種6菌株,クロサイワイタケ科子のう菌類(XA)4種7菌株,その他の子のう菌類(OA)5種6菌株)の分解を受けたブナ落葉の養分濃度(N,P,K,Ca,Mg)を測定した。実験に用いた菌株は京都府北東部の京都大学農学部附属芦生演習林において採取した。同地においてリクードラップにより採取したブナ落葉をオートクレーブ滅菌(120℃,20分)して素寒天培地の表面に置き,菌類を接種して2ヶ月間,20℃,暗黒下で培養した。培養後の落葉は重量減少率を測定後,養分濃度を測定した。分類群間で各元素濃度の平均値を比較したところ,N濃度はBとXAとの間で差はみられず,BでOAよりも高かった。P濃度はXAでB,OAよりも高かった。K,Ca濃度は分類群間で差はみられなかった。Mg濃度はBでXA,OAよりも低かった。この結果を,菌類が森林生態系での落葉分解にともなう養分動態に果たす役割という観点から考察した。
著者
大園 享司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.304-318, 2007
被引用文献数
2

冷温帯産樹木の落葉を材料として、その分解過程と分解に関わる菌類群集の役割を実証的に明らかにした。調査地は京都府の北東部に位置する冷温帯ブナ天然林である。35ヶ月間にわたる落葉分解実験の結果、14樹種の落葉のリグニン濃度と落葉分解の速度および落葉重量の減少の限界値との間に負の相関関係が認められた。また窒素・リンの不動化-無機化の動態がそれぞれリグニン-窒素(L/N)比、リグニン-リン(L/P)比の変化によく対応していた。実験に用いた落葉樹種のいずれにおいても、リグニン分解はホロセルロース分解より遅く、落葉中のリグニン濃度は分解にともなって相対的に増加する傾向が認められた。落葉に生息する微小菌類と大型菌類について調査を行い、29樹種の落葉から49属の微小菌類を、また林床において一生育期間を通して35種の落葉分解性の担子菌類を記録した。ブナとミズキの落葉において分解にともなう菌類遷移を比較調査した。リグニン濃度が低く分解の速いミズキ落葉では、リグニン濃度が高く分解の遅いブナ落葉に比べて、菌類種の回転率が高く、菌類遷移が速やかに進行した。担子菌類の菌糸量はミズキよりもブナで多く、またブナでは分解にともなって担子菌類の菌糸量の増加傾向が認められた。分離菌株を用いた培養系における落葉分解試験では、担子菌類とクロサイワイタケ科の子嚢菌類がリグニン分解活性を示し、落葉重量の大幅な減少を引き起こした。落葉のリグニン濃度が高いほど、菌類による落葉の分解速度が低下する傾向が培養系でも示された。同様に、先行定着者による選択的なセルロース分解によりリグニン濃度が相対的に増加した落葉においても、菌類による落葉の分解力の低下が認められたが、選択的なリグニン分解の活性を有する担子菌類の中には、そのような落葉を効率的に分解できる種が含まれた。これら選択的なリグニン分解菌類は野外においても強力なリグニン分解活性を示し、落葉の漂白を引き起こしていたが、林床におけるその定着密度は低かった。