- 著者
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大宮司 信
- 出版者
- 北翔大学
- 雑誌
- 北翔大学北方圏学術情報センター年報 (ISSN:21853096)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.1-4, 2012
イムは日本の北方の島である北海道に住むアイヌ民族に見られる,行動面並びに言語面における特徴的な状態であ る。もちろんアイヌ民族は日常生活の中でこの現象は見慣れたものであり,病気とみなしてはいなかった。一方西洋 医学の立場に立つ精神科医は,これを精神医学的ないし異常精神症状として記載してきた。その特徴的な症状は,ア イヌ語で蛇を意味する「トッコニ」などの言語的な刺激によって惹起される,エコラリアやコプロラリアといった爆 発的な言語表現,および自動運動や退行した性的行動などを含む乱暴で突発的な制御できない反響症状である。しか し我々が調査した現在では,このような古典的で特徴的なイム現象は既に失われていて,わずかに断片的なエコラリ アや反響行動のみが,あたかも残された足跡のように,アイヌ民族のごく少数の者に見られるだけであった。本論文 では,イムの精神学的側面と,アイヌ民族の歴史の視点からみた文化的な背景,そしてイムの過去から現在への変容 について述べる。