著者
金井 雅之 小林 盾 大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.205-225, 2007-10-31 (Released:2008-01-08)
参考文献数
50
被引用文献数
2

近現代社会においては、個人の自由意志によって加入や退出が可能な、企業やNPO のようなアソシエーション型組織が、人びとの生活に重要な役割を果たしている。こうした組織において、組織目標の達成のために十分な貢献をせず他の成員の貢献にただ乗りするフリーライダーを抑制するためのメカニズムを、進化ゲーム理論的に分析した。具体的には、これらの組織が社会の中で十分多く存在し、個人はそうした組織間を自由に移動することができ、ただし移動には一定のコストがかかる、と仮定した場合に、フリーライダーが増加するのを防ぐための条件を探った。 理論的知見は以下の4 つである。第一に、このモデルでフリーライダーを抑制するためには、組織間の移動すなわち対戦相手の変更にコストがかかるという仮定が不可欠である。第二に、相互作用が十分多い回数おこなわれるという仮定も必要である。第三に、成員の貢献が組織全体で十分大きな相乗効果をもつような組織構造になっていることが重要である。第四に、一般に組織の人数は小さいほうが協力を達成しやすいが、人数が十分多いと仮定した場合でもコストのかかる移動が可能であればフリーライダーの侵入を阻止できる。 さらに、このモデルの妥当性を検証するために、労働市場における転職に着目して、職場のフリーライダーとの関係を分析した。その結果、もっとも主要な第一の理論的知見は、おおむね支持された。
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.133-152, 2003-09-30 (Released:2009-01-20)
参考文献数
35
被引用文献数
3

本論文では、秩序問題へ進化ゲーム理論的にアプローチする方策について考察する。 人間社会で観察される秩序現象はゲーム理論的には、調整ゲーム型の秩序現象、チキンゲーム型の秩序現象、社会的ジレンマ回避型の秩序現象の3つに大別することができる。このうち、もっとも解決が困難なのは、社会的ジレンマ回避型の秩序現象である。 社会的ジレンマ回避については、二人囚人のジレンマゲームで協力状態をもたらす究極要因や、N人囚人のジレンマゲーム(NPD)で協力状態をもたらす至近要因についての研究はすすんでいるが、これらの至近要因の進化を可能にする究極要因についての研究は不十分である。本論文では、従来の進化ゲーム理論を拡張したn人選択的相互作用型の進化ゲームモデルの開発によって、NPD回避の究極要因を明らかにできる可能性があることを紹介する。 このような進化ゲーム理論的アプローチは、秩序問題について従来提案されてきた規範解やゲーム論解の不十分な点を補うことができると期待できる。
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.129-144, 1996-12-31 (Released:2016-08-26)
参考文献数
22
被引用文献数
3

現在のヒトはきわめて複雑な社会を構成しているが、もとをたどればそれも、原猿のつくる単純な社会から、真猿類の群れ社会を経て次第に進化してきたものである。霊長類におけるこのような社会進化のメカニズムを知ることは、秩序や規範の起源といった社会学上の基本問題にアプローチする上で不可欠であると考えられる。本研究ではこうしたアプローチの第一歩として、霊長類における群れ社会の形成メカニズムについて検討を行った。いくつかのESS(進化的に安定な戦略)モデルによる検討の結果、捕食者を避ける要因が多くの場合、群れ戦略を有利にする上で有効であることが明らかとなった。また、群れの形成はエサなどの資源を巡る争いを激化させる一方、個体密度が高い場合やエサ資源が不均一に分布している場合には、連合して資源を防衛するために群れを作る戦略が有利になりうることが明らかとなった。
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.277-280, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
2
著者
大浦 宏邦
出版者
一般社団法人 CIEC
雑誌
コンピュータ&エデュケーション (ISSN:21862168)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.32-37, 2013-06-01 (Released:2014-09-01)

ある授業方法の効果を測定する場合,授業方法以外の要因を統制した実験群と統制群を設けてPre-Postで調査を行う必要がある。しかし,教育の現場では十分な統制を行うことは困難であることが多く,逆因果や偽相関による偽りの教育効果が検出される可能性が残る。そこで本稿では,授業方法以外の要因が結果に及ぼす影響を除去する,統計的な方法を紹介する。具体的には重回帰分析に第三変数として統制変数を投入する方法と,質的な統制変数を用いて三重クロス集計を行う方法である。これらの方法を用いることでより的確に授業の効果を把握し,有用な知見を蓄積することができるであろう。
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.298-314, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
19

本研究では社会的ジレンマの回避メカニズムを探る試みの一つとして,集権的組織における試行錯誤ダイナミクスを検討することを試みる.1人の管理者が複数のメンバーにサンクションを与える集権的組織では,サンクションの過小供給や管理者による利得の過剰徴収が生じる可能性がある.シミュレーションと解析的な分析を行ったところ,管理者が長い時間間隔で戦略の修正を行う場合にはサンクションの過小供給を回避しうること,複数の集団の間をメンバーが移動できる場合には利得の過剰徴収を避けうることを示す結果が得られた.
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.145-156, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
1
著者
大浦 宏邦 海野 道郎 金井 雅之 藤山 英樹 数土 直紀 七條 達弘 佐藤 嘉倫 鬼塚 尚子 辻 竜平 林 直保子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

秩序問題の中核には社会的ジレンマ問題が存在するが、社会的ジレンマの回避は一般に二人ジレンマの回避よりも困難である。本研究プロジェクトでは、Orbel & Dawes(1991)の選択的相互作用の考え方を拡張して、集団間の選択的な移動によって協力行動が利得のレベルで得になる可能性を検討した。まず、数理モデルとシュミレーションによる研究では、協力型のシェアが大きければ選択的移動が得になる可能性があることが明らかになった。次に所属集団が変更可能な社会的ジレンマ実験を行った結果、協力的な人は非協力者を逃れて移動する傾向があること、非協力的な人は協力者がいるうちは移動しないが、協力者がいなくなると移動することが明らかとなった。この結果は、特に協力的なプレーヤーが選択的な移動をする傾向を持つことを示している。実験室実験の結果を現実社会における集団変更行動と比較するために、職場における働き方と転職をテーマとした社会調査を実施した。その結果、協力傾向と転職行動、転職意向には相関関係が見られた。これは、実験結果の知見と整合的だが、因果関係が存在するかどうかについては確認できなかった。方法論については、基本的に進化ゲームやマルチエージェント分析は社会学的に有意義であると考えられる。ただし、今回主に検討したN人囚人のジレンマゲームは社会的ジレンマの定式化としては狭すぎるので、社会的ジレンマはN人チキンゲームなどを含めた広い意味の協力状況として定義した方がよいと考えられた。広義の協力状況一般における選択的移動の研究は今後の課題である。