著者
佐藤 嘉倫
出版者
経済理論学会
雑誌
季刊経済理論 (ISSN:18825184)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.20-28, 2008-01-20 (Released:2017-04-25)

Arguments about disparity in the Japanese society, from the viewpoint of studies on social stratification, have pointed out two important issues: Income disparity and disparity between regular and irregular workers. Studies on social stratification have not analyzed these issues seriously. They have studied occupations rather than income; they have implicitly assumed that workers have regular jobs. To overcome these deficiencies, this paper studies the effect of employment status -regular workers versus irregular workers- on income by analyzing the 2005 Social Stratification and Social Mobility (henceforth, SSM) Survey data. The result of regression analysis with logged income as the dependent variable and occupation and employment status as independent variables shows that employment status has stronger explanatory power than occupation does. Arguments about disparity, however, have made another claim that disparity has recently been growing. To check the empirical validity of this claim, we compare regression coefficients of two regression models using the 1995 SSM and the 2005 SSM data. The result of the comparison shows that the coefficient of regular workers had become smaller from 1995 to 2005, which means that income disparity between regular and irregular workers had shrunken. To test this result rigorously, we build a sophisticated regression model and apply it to the 1995 SSM and 2005 SSM data. In the model we fix coefficients of the model using the 1995 SSM data and add interaction terms between the survey year and each independent variable. The coefficient of an interaction term shows increase or decrease in the explanatory power of the independent variable in the interaction term depending on its sign (positive or negative). The result of the regression analysis shows that the coefficient of regular workers is negative, which means that income disparity between regular and irregular workers had shrunken over the decade. It is risky to say that income disparity has shrunk based only on these results. Rather, what we would like to say is that these results would promote fruitful dialogue between arguments about disparity in the Japanese society and studies on social stratification.
著者
佐藤 嘉倫 近藤 博之 斎藤 友里子 三隅 一百 石田 浩 尾嶋 史章 中尾 啓子
出版者
東北大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2004

本プロジェクトは、社会階層の流動化と固定化という、一見相反する現象を統一的に理解・説明するための階層論を展開することを目的とした。この目的のために、理論的な検討をするとともに、データ分析のための社会調査を実施した。2005年に日本、韓国、台湾でほぼ同一の調査票を用いた実査を行った。また労働市場の流動性の影響をもっとも受けている若年層を対象とした郵送調査・ウェブ調査を2007年に行った。これらの調査データを用いた分析結果は、全15巻の研究成果報告書にまとめられた。また報告書以外にも、プロジェクトメンバーによる学会報告や論文・単行本刊行は多数に及ぶ。本研究プロジェクトは総合的研究なので、社会階層と社会移動をめぐってさまざまな視点からの分析を展開した。このため、研究成果すべてを述べることはできないが、たとえば(1)佐藤俊樹『不平等社会日本』で示されたホワイトカラー上層雇用の閉鎖性は2005年には存在しないこと、(2)非正規雇用者になる傾向は低学歴者と女性に高く見られること、(3)所得格差については正規雇用と非正規雇用の間の格差が大きいが、その格差が拡大しているかどうかは慎重な検討が必要であること、などの知見が得られた。また本プロジェクトが、本格的な東アジアにおける社会階層と社会移動の比較研究として初めてのプロジェクトであることも特筆に値する。その成果の一端は、研究成果報告書第13巻『東アジアの階層ダイナミクス』に収められている。
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-10, 2006-04-30 (Released:2007-08-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本講演では、エージェント・ベースト・モデルが社会変動論の発展に貢献することを主張する。社会変動は多くの社会学者を惹きつけてきた魅力的な研究テーマだが、マクロレベルでの分析に焦点が当てられていて、ミクロ・マクロ・リンクに着目した研究があまりなかった。例外として、今田高俊の自己組織性理論があるが、彼の理論はミクロレベルからマクロレベルへの移行の分析が弱い。エージェント・ベースト・モデルはこの移行の分析を明確に行うことができる。しかし社会変動論の主題である構造変動にこのモデルを適用しようとすると、役割概念を明確にする必要性が生じる。近年、役割概念をフォーマライズする研究がいくつか出てきているので、これらの研究とエージェント・ベースト・モデルの発想を組み合わせたモデルを開発することで、エージェント・ベースト・モデルは社会変動論の発展に寄与するだろう。
著者
佐藤 嘉倫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.459-465, 1996-03-30 (Released:2009-10-19)
著者
佐藤 嘉倫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.632-647, 2009-03-31 (Released:2010-04-01)
参考文献数
35
被引用文献数
8 5

現代日本の階層構造について語るとき,「流動化」と「固定化」という2つのキーワードが浮かび上がる.非正規労働者の増加などの流動化と特定階層における世代間移動の固定化がその典型例である.本稿では,相矛盾するように見える2つのキーワードを階層論の視点から統一的に理解・説明できることを示す.すなわち,階層構造の流動化といっても,すべての階層でそれが生じているわけではなく,特定の階層は依然として保護的な制度に守られているが,別の階層は高まる流動性に巻き込まれている.教育,若年層,転職,世代間移動,収入という5つの領域における,2005年社会階層と社会移動研究プロジェクトの研究成果を検討しながら,この仮説が全体として妥当することを示す.最後に,階層構造の安定性と流動化の共存が社会階層論に与える含意について考察する.
著者
与謝野 有紀 林 直保子 都築 一治 三隅 一百 岩間 暁子 佐藤 嘉倫
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、経済資本、人的資本、文化資本に続く第4の資本としての社会関係資本の形成プロセスと機能について、社会的諸資源、近隣ネットワークや社会参加といったライフスタイルとの関連で理論的、実証的に明らかにしようとするものである。手法としては、質問紙調査、実験、コンピュータ・シミュレーション、フィールドワークをもちいた。また、2004年1月に面接調査法による調査を行い、ランダムにサンプル1000ケースに対して707ケースの回収をみた。日本での社会関係資本に関する本格的な面接調査は本調査が最初であり、日本の社会関係資本の状況を知る上での基礎データを提供するとともに、他の手法と補完しながら、以下の知見を最終的に得た。(1)社会関係資本の主要素として一般的信頼感に焦点を絞って解析した結果、信頼の生成メカニズムに関する現行の主要理論(「信頼の解き放ち理論」)のプロセスは、日本では一切確認されない(2)一般的信頼感の生成のためには、近隣ネットワーク、自主的な参加を前提とするクラブへの参加など、中間集団に対するコミットメント関係の形成が重要であり、これらの中間集団において醸成された個別的な信頼感は、他者一般に対する信頼感を形成する重要な基礎となる。また、この知見は共分散構造分析によるデータ解析とコンピュータ・シミュレーションによって同時に確認されており、頑健性が高い。(3)社会関係資本の形成のための投資と回収のプロセスを「社会関係基盤」概念を提出することで定式化し、さらに近畿調査データを用いて、この点を実証し、社会関係資本のセーフティーネットとしての機能と階層固定化機能の両者を確認した。(4)社会関係基盤については、フィールドワークからも投資、回収概念の高い適用可能性が確認された。これらの研究成果については、論文、著書のほか、日独先端科学技術会議(学術振興会・フンボルト財団共催)や本研究を中心に企画された第39回数理社会学会シンポジウムで報告されている。
著者
佐藤 嘉倫
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.188-205, 1998-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿の目的は, 合理的選択理論に対する批判を分類し, それぞれの批判の論理構造を検討し, 受け入れるべき批判を明らかにすることである。 批判は次のように分類される。 (1-a) 選好の文化依存性の指摘, (1-b) プロスペクト理論, (2-a) 合理性仮定の経験的妥当性に対する批判, (2-b) 共有知識仮定に対する批判, (3-a) 経験的事象の説明可能性に対する批判, (3-b) 複数均衡の存在に対する批判, (3-c) 社会現象は行為から成り立つとは限らないという批判。これらの批判のうち, (1-a) から (2-b) までは, 合理的選択理論の仮定に関する批判である。これらの批判は, 経験科学理論に対する批判として意味がないわけではないが, 理論の説明力を無視して仮定の妥当性のみを問うならば, 生産的ではなくなる。 (3-a) の批判は, 合理的選択理論の説明力に対する批判であり, 重要である。 (3-b) の批判に対しては合理的選択理論は適切に対処できる。 (3-c) の批判は, 合理的選択理論よりも優れた説明力を持つ理論を提示していないので, 現状では受け入れるわけにはいかない。 以上の批判の検討から, (3-a) の批判に適切に対処することが, 合理的選択理論をより豊かな社会学理論にするメイン・ルートであると結論される。
著者
佐藤 嘉倫
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.85-93, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
15

本稿の目的は,ソーシャル・キャピタルの生成メカニズムをミクロ・メゾ・マクロレベルの相互連関に着目して解明することである.ソーシャル・キャピタルをめぐっては,(1)ソーシャル・キャピタルの定義・概念化,(2)ソーシャル・キャピタルの生成過程の解明,(3)ソーシャル・キャピタルの効果の分析という大きく3つの問題群がある(Portes 1998).(1)と(3)については多くの研究が蓄積されてきたが,(2)の研究は(1)と(3)に関する研究ほど進んでいない.それは,Coleman(1988=2006)が指摘するように,ソーシャル・キャピタルが副産物であるという特性によるものである.本稿ではこのことを踏まえて,下位レベルのソーシャル・キャピタルを促進する上位レベルの仕組みを分析するとともに,下位レベルのソーシャル・キャピタルが上位レベルのソーシャル・キャピタルを促進する過程も同時に分析する.そして,すべてのレベルでソーシャル・キャピタルが高まる好循環過程とすべてのレベルでソーシャル・キャピタルが低下する悪循環過程があることを示すとともに,下位レベルのソーシャル・キャピタル向上のために上位レベルの仕組みが介入することの問題点も指摘する.
著者
佐藤 嘉倫
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.39-41, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
5
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.277-290, 2016 (Released:2017-01-16)
参考文献数
39

本稿の目的は, 数理社会学が社会的不平等研究に貢献するためにはミクロ・マクロ・リンクを意識する必要があることを示すことである. この目的のために, まず既存の量的研究と質的研究の問題点を指摘し, いくつかの数理モデルの論理構造を検討し, それらがミクロ水準とマクロ水準の移行を適切に扱っていることを主張する. 既存の量的研究は高度な統計分析により重要な知見を得てきたが, その知見を生み出した社会的メカニズムの分析が弱い. 一方, 質的研究はその社会的メカニズムを丹念に解明しているが, その知見の一般性について留保が必要である. この両者の問題点の解決策の1つとして, 数理モデルによる社会的不平等の解明がありうる. そこで本稿では相対的リスク回避モデル, 地位序列の生成モデル, 信頼と不平等のエージェント・ベースト・モデルの論理構造を検討し, それらがミクロ・マクロ・リンクを踏まえたものであることを示す. 今後の数理モデルもそのような方向性を持つことで社会的不平等研究に貢献するだろう.
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-14, 1987-10-01 (Released:2009-03-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿の目的は媒介主体と被媒介主体の関係と相互作用に関する対抗的分業論を2人チキン・ゲームとして定式化することである。このための準備作業として、初めに次のことを明らかにする。すなわち媒介主体は(指導,支配)という戦略を取ることができ、被媒介主体は(異議申し立て,防衛)という戦略を取ることができる。そして媒介主体が指導戦略を選択し被媒介主体が異議申し立て戦略を選択する時、対抗的分業が成立する。 しかし対抗的分業はつねに成立するわけではない。このことは(指導,異議申し立て)という状態が両プレイヤーによってつねに選択されるわけではないことを意味する。つまり対抗的分業ゲームは支配戦略のないゲームである。そこで本稿ではこの対抗的分業ゲームをチキン・ゲームとして定式化する。 通常のゲームの規則では、対抗的分業は成立しない。そこで通常のゲームの規則とプレイヤーの行動基準を変更したS. J. Bramsの継起的ゲームを対抗的分業ゲームに適用する。そして東京ゴミ戦争、排ガス規制問題という事例の分析を通じて、対抗的分業が成立・失敗するメカニズムを明らかにする。
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.39-52, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
15
被引用文献数
2

従来の社会計画論は社会計画の失敗メカニズムを的確に捉えることができなかった。その理由は、従来の社会計画論が「社会システムは通常の行為者の『理論や知識』(一次理論)に依存する」ということにあまり注意を払わなかったからである。このため、「社会計画の実施によって通常の行為者の一次理論が変動する」というようなケースを適切に扱うことができなかった。 本稿では、分析モデルの構成要素として、計画主体の一次理論(政策と結果を結びつける理論)、通常の行為者の一次理論、通常の行為者の一次理論に依存する社会的メカニズム(政策と結果の実際の関係)を設定する。さらに、「社会計画の実施は通常の行為者の一次理論を変動させる」、「通常の行為者の一次理論の変動は社会的メカニズムを変動させる」という二つの仮定を置く。そして計画主体の一次理論と社会的メカニズムの一致・不一致、上の仮定の成立・不成立を組み合わせて、六つのケースを得る。これらの中、社会計画の失敗メカニズムに対応する三つのケースを検討し、失敗メカニズムを解明する。さらに、成功メカニズムに対応する残りの三つのケースも検討し、成功メカニズムの解明も行う。
著者
渡辺 勉 佐藤 嘉倫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.197-215, 1999-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
24
被引用文献数
3

戦後日本経済の飛躍的な発展は, 人々の生活全般に変化をもたらしてきた。その中でも職歴や労働市場に対しては大きな影響を与えてきており, 時代の変化を捉えずして, 職歴は捉えることができない。本稿では, 戦後の日本経済と照らしあわせながら, 職歴の変化によって戦後の労働市場がどのように変化してきたのかを捉えていく。分析から, 職業の移動パターンは年齢によって最も大きく規定されているが, 時代の変化の影響としても内部労働市場としての終身雇用制と, 外部労働市場としての二重構造や産業構造によって規定されていることがわかる。特に二重労働市場が戦後強化されている傾向が見て取れる。