著者
大澤 絢子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.27-56, 2014-03

浄土真宗の宗祖親鸞はこれまで、「妻帯した」とされてきた。 ところが現在確認できる親鸞の言葉のうちで、親鸞自身が「妻帯」を宣言したものや、「妻」について語ったものはない。また、親鸞の生涯を記した「親鸞伝絵」や、『御伝鈔』においても、親鸞が「妻帯した」というエピソードはない。親鸞の「妻帯」が明確に記述されているのは、特に江戸期に刊行または作成された親鸞伝においてである。 江戸期は幕府によって僧侶の女犯や妻帯が厳罰化された時期であるが、一方では浄土真宗が「宗風」を理由に妻帯を許可されていた時期でもる。本稿は、江戸期に刊行・作成された親鸞伝の記述を分析し、浄土真宗において「妻帯の宗風」がいかに確立したかを考察した。具体的に注目した記述は、親鸞「妻帯」の描写、「妻帯」の理由、「妻帯」に対する親鸞の反応、そして「妻帯の宗風」に関する記述である。 江戸期以前に親鸞の「妻帯」を記した親鸞伝は写本が少ないのにもかかわらず、そこに書かれた親鸞の「妻帯」は、江戸期の親鸞伝において定着する。またその「妻帯」は、単なる破戒行為とは異なるものとして正当化され、「妻帯」の責任は親鸞に起因させない形で記述されていく。さらには親鸞の「妻帯」が「妻帯の宗風」の起源として記述され、他宗とは異なる「宗風」の独自性が強調されていく。 たとえ宗祖である親鸞が「妻帯」したとしても、それ自体は浄土真宗の「妻帯の宗風」には直結しないはずである。しかし親鸞伝では宗祖親鸞の「妻帯」が次第に、浄土真宗における「妻帯の宗風」の起源として語られていく。江戸期の親鸞伝における「妻帯した親鸞」像の定着と、「妻帯の宗風」の起源に関するエピソードの完成は、浄土真宗の「妻帯の宗風」の確立を考える上で一つの重要な動きであると考えられる。It has long been said that founder of the Jōdo Shin school of Buddhism Shinran (1173-1262) was married, even though Shinran's "marriage" is not mentioned in any statements by the priest himself during his lifetime, as depicted in the pictorial accounts (Shinranden-e), nor does it appear in the biographical Godenshō. This paper focuses on biographies of Shinran written in the Edo period that state clearly that he was married.In the Edo period the Tokugawa bakufu harshly punished members of the Buddhist clergy for relations with women, but marriage was permitted among the clergy of the Jōdo Shin school because it was apractice with a long tradition. Based on an analysis of the accounts in the biographies compiled or published in the Edo period, this paper attenpts to explain how the practice of marriage was established in Jōdo Shin. It focuses specifically on mentions of Shinran's "marriage" (saitai 妻帯), reasons for the marriage, Shinran's reaction to marriage, and descriptions of the practice.Descriptions of Shinran's marriage, despite the scarcity of pre-Edo manuscripts telling of hismarriage, became established in almost all the biographies published in the Edo period. Through these descriptions, his marriage is explained not as a violation of Buddhist vows, but otherwise justified in order to avoid placing the responsibility on Shinran himself.The accounts also show that the Jōdo Shin practice of clerical marriage was not directly linked to the founder's marriage even if he had indeed married. The accounts in the biographies published during the Edo period increasingly emphasize the distinction of Jōdo Shin from other schools in terms of the practice of marriage, which they trace to the "marriage of the founder."The fixing of the imageo f Shinran as a married priest and the relating of episodes about the origins of clerical marriage in the Edo period played an important part in the establishment of the practice of marriage in the Jōdo Shin school.
著者
吉永 進一 GAITANIDIS IOA 大澤 絢子 荘 千慧 栗田 英彦 大道 晴香
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、第一に、終戦直後から1960年代までを中心として、インド、アディヤールにある神智学協会本部所蔵の資料や、戦後日本の神智学系の運動の調査を行い、神智学思想の伝播と流布についての通史を記述する。第二に、同時期の出版メディアの調査を通じて、神智学以外の西洋秘教思想の一般への流布を調べる。第三に、それら1960年代までの動きが、1970年代のオカルト流行とその後のニューエイジへの発展へどう発展し、あるいは断絶したかを検証する。
著者
赤江 達也 大澤 絢子
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、メディアに依存した宗教的言説実践、すなわち「メディア宗教」という新たな視座から、大正期に活発化する活字メディア上の宗教活動を検証し、宗教や教派の別を超えた「求道的な宗教性」と「流動的な組織形態」の実態を解明する。研究方法としては、明治末期から昭和戦前期にかけて既成の教団の外で活動した求道者・独立系宗教者たちに注目し、彼らが刊行した膨大な活字媒体(雑誌・書籍・小冊子)の収集整理と言説分析を行う。近代宗教と活字メディアの密接不可分な実態を解明し、広範な読者層の存在や修養・教養・道徳と浸透しあう宗教的ランドスケープを描き出すことで、教団中心に語られやすい日本近代宗教史を拡張・更新する。
著者
大澤 絢子 加藤 友佳里 嶋谷 真理 野寺 和花 服部 菜里 眞岡 孝至 新藤 一敏
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.499-505, 2011-08-15 (Released:2015-03-11)
参考文献数
23

The coconut crab (Birgus Latro), the largest terrestrial arthropod in the world, contains carotenoid pigments mainly in the shell, although no previous studies have identified them. We isolated the pigments in this study, by EtOAc extraction, silica gel column chromatography, and GPC column chromatography.We identified them as astaxanthin [optical isomeric ratio: (3R, 3’R), 9%; (3R, 3’S; meso), 41%; (3S, 3’S),50%] and diacyl astaxanthins [fatty acid ratio: stearic acid (18:0), 46%; palmitic acid (16:0), 26%; and oleic acid (18:1n-9), 18%] by 1H-NMR, LRESI-MS, chiral phase HPLC and GC analyses. This is the first detailed analysis of the carotenoids contained in coconut crab. We also examined the antioxidative activity of isolated astaxanthin and diacyl astaxanthins in the singlet oxygen suppression model. These compounds showed equal antioxidative activities with an IC50 value of 4 μM.
著者
大澤 絢子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.27-50, 2016-12-30 (Released:2017-09-15)

本稿は、『出家とその弟子』の素材とされる『歎異抄』との関連に焦点を当て、特に浩々洞の暁烏敏を中心とした『歎異抄』読解を扱った。暁烏や多田鼎における『歎異抄』の読みとは、自己の罪悪の自覚と「絶対他力」の強調であり、その態度が彼らの描く親鸞像にも色濃く現れ、自分を愚かだと吐露する親鸞像が展開されていく。そしてそのような親鸞は、『出家とその弟子』の親鸞とも重なる点も多い。 だが『出家とその弟子』の親鸞は、悪人の往生を説く『歎異抄』とも、あるいは暁烏の『歎異抄』読解とも大きく異なり、善を志向し、念仏(「祈り」)の成就としての往生を理想とする。キリスト教的な愛にも、絶対的な他力にもすがることのできなかった倉田が生み出したのは、きわめて求道的な親鸞像であった。