- 著者
-
大畠 誠一
- 出版者
- 京都大学農学部附属演習林
- 雑誌
- 京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
- 巻号頁・発行日
- vol.65, pp.36-49, 1993-12-24
マツ属各種の系統進化上の位置づけを行う第一段階として, 種群単位での位置づけを試みた。方法としては, 各種の地理分布圏を重ね合わせ, 系統分類群ごとに等種数分布図を作成し, 種群の最小単位であるマツ亜節の地理分布圏の特徴と分布の様相を調べた。全北区の広分布要素のひとつとされるマツ属の分布を詳しく調べると, 亜節分布の様相は分類群によって異なる様々な結果を示した。他方, 種群の歴史的変化過程が, 発生, 変異して繁栄の段階をむかえ, ついには滅亡へと進む自己運動として考え, それらの地理的分布の様相が発展的固有, 広分布, 不連続分布, 遺存的固有の様相を示すものとすれば, 個々の種群の分布の様相を調べることによって, それぞれの種群の分化後の位置づけが可能となる。この仮定のもとに現生のマツ属各種群を位置づけると表2となった。この表により, マツ属各グループの系統進化の概要が位置づけられる。近縁の多数種が限定された場所に分布する特徴と種群内の天然雑種の形成率の大きさから, マツ属のうちではSubsect. Oocarpae, Subsect. Ponderosae, Subsect. Australes, 地中海沿岸のSubsect. Sylvestres等が, 種分化後の時間が短く, 新しいグループであると推測された。これらの種群の分布域の北側には山岳域がある。一方, 第三紀以後マツ属全体の分布域が南下したことが化石マツから明かにされている。そこで, これら種群の分化は第三紀以後に現在の分布圏の北部にある山岳地において, それらの形成に伴って種分化が発生したと推測した。さらに, これらの種群の示す同所的, 集中的分布は, 第四紀の気温変動によって形成されたと推測した。