著者
大石 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.248-269, 2013-05-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本研究では,荒茶取引における品質決定のあり方を考察することによって,静岡県牧之原市東萩間地区における荒茶供給構造を明らかにした.荒茶取引は荒茶工場の経営形態に規定されることから,荒茶工場の経営形態ごとに,茶商との取引形態を分析した.東萩間地区における荒茶工場は,個人自園工場,個人買葉工場,茶農協工場,株式会社工場に分類され,個人自園工場や個人買葉工場は特定の範囲の茶商との直接取引や斡旋業者を介した取引によって,茶商との密な取引関係を構築し,それが比較的高品質な荒茶供給につながっていた.一方で茶農協工場や株式会社工場は,斡旋業者を介した取引や農協共販による取引によって,広範囲にわたる茶商との経済的な関係を構築し,質よりも量を重視した荒茶供給を行っていた.その結果,東萩間地区では,荒茶工場に対する茶商の関与度および,生葉生産農家に対する荒茶工場の関与度によって,製品の質が規定されるという荒茶供給構造が形成されていた.
著者
田林 明 大石 貴之
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.113-148, 2014 (Released:2018-04-05)
被引用文献数
2

この報告では,首都圏とその周辺を含む15の都県の観光と農政の担当者から,それぞれの都県における農村空間の商品化による観光活動の種類と分布状況,そして地域差について聞き取り,さらに統計や既存の研究,そして観光パンフレット等の分析を加えて,現代社会で活発に行われているか,あるいはその潜在的可能性が高い,重要とみなされる観光活動を抽出した。それらは,散策と市民農園,農産物直売所・農家レストラン,観光農園,ハイキング,農林業・農山村生活体験,避暑,スキー,登山,そしてマリンレジャーの10種類であった。これらの分布に基づいて地域区分を行った結果,基本的には東京都心部を中心とした同心円状のパターンがみられた。それは,農村空間の商品化による観光活動は,主として大都市からの近接性や交通利便性によって,さらには自然環境や農林水産業の内容,既存の観光地の存在によって規定されるからである。
著者
大石 貴之
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.30-30, 2010

<B>I はじめに</B><BR> 近年,日本における緑茶の消費量はコーヒーや紅茶など,他飲料の消費量が増加したことによって減少傾向にある。また,1990年代から登場した,ペットボトル飲料に代表される緑茶飲料は,大手飲料メーカーが緑茶の原料となる荒茶を安く大量に仕入れることによって,高級茶の茶価を低下させることとなった。緑茶原料の生産者である荒茶の加工工場は,こうした茶価の低迷によって経営が厳しい状態となっており,消費部門や流通部門の動向は生産部門である茶産地に与える影響が大きい。<BR> 茶業における生産部門と流通部門を対象とした既往の研究,特に茶の一次加工品である荒茶の流通について検討した研究では,荒茶を調達して最終製品である仕上げ茶を加工する茶商の重要性が指摘されている(坂口 1998)。その一方で,静岡県の高級茶産地を取り上げた深瀬(2008)は,荒茶のほとんどが農協で最終製品に加工されて小売店に供給され,茶商への出荷割合は相対的に少ないなど,必ずしも大手茶商の存在が重要でないと指摘している。また,茶商は経営規模や形態によって荒茶の調達先やその方法が異なり,茶商の存在が荒茶工場に対していかなる影響をもたらすのかを検討することは,緑茶流通の構造を明らかにする上で重要な課題である(木立 1985)。<BR> そこで,本報告では生産部門である荒茶工場を対象として,工場の経営形態によっていかなる荒茶製造・出荷が行われ,出荷先である茶商がいかなる販売行動を行っているのかを検討する。その上で,各荒茶工場が荒茶供給構造においてどのような役割を果たしているのかを明らかにする。<BR><B>II 鹿児島県南九州市知覧町における荒茶の生産・流通</B><BR> 本報告の対象地域である鹿児島県南九州市知覧町は,1970年代から1980年代にかけて茶の栽培面積が増加し,茶が町内の基幹作物となっている。知覧町における荒茶の流通は,茶商に対する相対取引が多かったが,1990年代に知覧町の荒茶工場を管轄する知覧茶業センターが,各工場を巡回して荒茶を受け取って市場などに配送するシステムを確立してからは,市場出荷の割合が増加した。知覧町では,このほか相対取引によって荒茶が茶商へ供給される。<BR> 2010年現在,知覧町における茶工場数は36で,自園で摘採される生葉を中心として荒茶加工を行う個人工場,複数の農家が共同で荒茶工場を設立して組合員の生葉によって荒茶加工を行う組合工場,個人が経営主となって,自園で摘採される生葉に加えて他農家から生葉を調達して荒茶加工を行う法人工場に分けられる。<BR> 個人工場は9工場で,1番茶や2番茶などの高級茶のみを生産し,荒茶の出荷先は県内茶商であるという工場がほとんどである。また,仕上げ茶に製造して小売販売をする工場も多く,その多くが知覧町内の観光地にある土産店で販売したり,指宿,枕崎など近隣自治体の観光地にある土産店やホテル等に出荷したりしている。組合工場は9工場で,1番茶から秋冬番茶に至るまで,5期全てにおいて荒茶を製造しており,高級茶である1番茶や2番茶は一部の工場で茶商へ出荷する割合が多いものの,ほとんどが茶業センターを通じた市場出荷である。組合工場では,組合員の話し合いによって出荷先が決定されるために,リスクの大きい相対取引を選択する傾向が低い。法人工場は残りの18工場が該当し,所属する農家は工場に生葉を出荷すると共に,工場における荒茶製造にも参加している。出荷先は工場の生産規模によって異なり,比較的生産量の多い工場では市場出荷を中心に,茶商との相対取引も行っている。一方で,生産量の比較的少ない工場では茶商との相対取引による荒茶出荷が多いが,近年では市場への荒茶出荷量も増加傾向にある。<BR><B>III 鹿児島県の茶商にみる荒茶の調達と供給</B><BR> 知覧町で生産される荒茶の28%にあたる1371tは,茶業センターを通じて鹿児島県茶市場に出荷される。鹿児島県茶市場では,買参権を持った鹿児島県内の茶商27社が参加して入札による取引が行われる。知覧町で生産される荒茶を多く取り扱う茶商は,鹿児島県内に4社立地しており,調達した荒茶のほとんどは静岡県を中心とした県外の茶商に対して荒茶の状態で供給している。このうち,知覧町内に立地するA社は,荒茶取扱量2000tのうち半数の1000tを鹿児島茶市場から,残り半数の1000tは知覧町を含む南九州市や枕崎市など近隣の約80工場から相対取引によって直接調達している。荒茶供給先は静岡県内の茶商が多く,仕上げ茶に製造後に小売店で販売したり,仏事用に利用されたりする。また,JAS法が改正された2004年以降,「知覧茶」の使用を希望する茶商が増加傾向にあり,直接調達した荒茶が多く供給されている。<BR>