著者
松岡 憲知 藁谷 哲也 若狭 幸
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.369-405, 2017-06-25 (Released:2017-08-03)
参考文献数
221
被引用文献数
3 6

Physical rock weathering has been studied through laboratory experiments, field observations, and numerical modeling, but linking these approaches and applying the results to weathering features in the field are often problematic. We review recent progress in three weathering processes—frost shattering, thermal fracturing, and lightning strikes—and explore better approaches to linking weathering processes and products. New visual and sensor technologies have led to great advances in field monitoring of weathering of fractured bedrock and resulting rockfalls in cold mountains. Laboratory simulations successfully produce fractures resulting from segregational freezing in various intact rocks. Modelling approaches illustrate the long-term evolution of periglacial slopes well, but improvements are required to apply laboratory-derived criteria to frost weathering. The efficacy of thermal weathering, which has long been under debate, is now partly supported by laboratory and field evidence that cracking takes place when wild fires or artificial explosions lead to thermal shock. Rock fracturing due to strong radiation is also reevaluated from the presence of large cooling/warming rates and meridian cracks in rocks exposed to arid environments. Linking laboratory simulations and natural features, however, needs further field-based observations of thermal fracturing. Irregular fractures formed in boulders are often attributed to lightning strikes, despite rarely being witnessed. Artificial lightning in the laboratory produces radial cracks, marking the first step toward interpreting irregular fractures in the bedrock that are unlikely to originate from other weathering processes. Identifying the origins of fractured rocks in the field requires distinguishing between fracture patterns derived from these weathering processes.
著者
宋 苑瑞 藁谷 哲也 小口 千明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

アンコール遺跡は,クメール王朝によっておもに9~13世紀に建てられたカンボジアの石造建築物群である.遺跡には王朝を代表する芸術と文化が建物の彫刻に多く残され,1992年にユネスコ世界遺産に指定されたことから,毎年多くの観光客を集めている.自然劣化の進んだアンコール遺跡の保存修復は,20世紀初頭からフランス極東学院によって行われてきた.また内戦後,とくに悲惨な状態にあったアンコールワット寺院の修復作業は,インド考古調査局(ASI)によって1986~1993年に行われた.ASIはアンコールワット寺院を構成する砂岩ブロックの割れ目にモルタルを注入して水の浸透を防ぎ,紛失部分や毀損箇所を修復するとともに,建物を覆う植物の除去作業を行った.また,寺院のほぼ全域(約20万m2)を対象として,砂岩ブロックの表面洗浄を行った. このような膨大な規模の洗浄作業後,アンコールワット寺院の表面の色は建築当時の砂岩本来の色である灰色~黄色い茶色に戻った. 現在,アンコールワット寺院を構成する砂岩ブロックの表面は全体的に黒っぽく見える.これは,おもにシアノバクテリアのバイオマットであり,1994年以降に形成されたものである.文化財の保存修復分野では,バクテリア,カビ,地衣類をはじめミミズやシロアリ,植物などの生物的要素が遺跡(岩石)を風化(生物風化)しているのか,保護しているのか長く議論が続いている.これは風化現象が物理的,化学的,生物的な要素が合わさって起こるとても複雑な現象であり,風化環境や風化継続時間によって異なる結果がもたらされているためと考えられる.本研究では,アンコールワット寺院の第一回廊基壇に付着するシアノバクテリアが,砂岩ブロック表面にどのような影響を与えているかについて検討を進めた.ASIによると,基壇の砂岩ブロックに対しては,アクリル樹脂を用いた防水処理を行っている.しかし,その約2年後からシアノバクテリアが基壇表面を覆い始め,砂岩ブロックはスレーキングによる剥離部分とシアノバクテリアの付着した黒色変色部分が共存するようになったという.そこで,このような砂岩ブロック表面の剥離部分と変色部分に対して,シュミット・ロックハンマーとエコーチップ硬さ試験機を用いた反発硬度測定を行った.その結果,剥離部分は変色部分に比べて反発値が最大3.7倍大きかった.剥離されず,シアノバクテリアにも覆われていない部分も変色部分に比べて最大3.6倍も大きかった.シアノバクテリアはアンコールワット寺院の回廊を保護しているのではなく,表面硬度の低下を引き起こしている点では風化を促進していると言える.さらに, アンコールワット寺院に関しては,殺虫剤を使い生物的要素を除去してもすぐに原状に戻るため,表面洗浄作業はほとんど意味がなく,人工樹脂処理後20年以上経過した今はそれが蒸発を防ぎ風化を加速させたり,それ自体が溶け落ちるなど他の問題の生じているため樹脂の使用を慎重にする必要がある.

1 0 0 0 OA ピルバラ紀行

著者
藁谷 哲也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.82-91, 2023 (Released:2023-04-18)
参考文献数
19
著者
前田 拓志 藁谷 哲也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1</b><b>.目的</b> <br> 新第三紀から第四紀の堆積岩を基盤に持つ,房総半島および新潟県中越地域の河川において,近世以降人為的な蛇行切断が行われてきた.これらは,房総半島では「川廻し」,中越地域では「瀬替え」と呼称され,一般に蛇行頚状部を掘削して新たに直線的な流路をつける(曲流短絡する)ことで,廃棄河道を新田として開発する目的で行われた.曲流短絡による一連の地形(以下,曲流短絡地形)には以下のような特徴があると考えた.①切断された流路(旧流路)は,無能河川となり,その後下刻作用を受けない.つまり,旧流路の河床面(旧河床面)は短絡以前の地形面を保存している.②一方,旧河床面と対比される(かつて連続していた)現河床面は,その後も下刻作用を受ける.つまり,現河床面と旧河床面の比高を,曲流短絡以降の下刻による河床の低下量とみなすことができる.また,短絡以降の時間は,下刻作用継続期間とみなすことができる.そこで本研究では,現・旧河床面における比高を<i>H</i> ,下刻作用継続時間を<i>T</i>として,短絡以降の平均下刻速度<i>H/T</i>を求め,さらにそれを制約する要素を検討した. &nbsp; <br> <b>2</b><b>.研究方法</b> <br> 既存文献および史料より,房総丘陵と魚沼丘陵から流路の短絡時期が推定できた7地点を研究対象として選定した. 7地点はいずれも,おもに受食性の大きい新第三系の泥岩を基盤に持つ渓流部である.それぞれの地点において,現地調査のもと現・旧河床面の比高を測量した.また,下刻速度を制約する変数を考察するために河床勾配,流域面積,年降水量の情報を取得した.一方,河床を構成する岩石の力学的強度を求めるために,シュミットハンマーKS型を用いて反発強度を測定するとともに,岩石試料をもとに圧裂引張強度を測定した. &nbsp; <br> <b>3</b><b>.結果と考察</b> <br> 現・旧河床面の比高および下刻作用継続時間は,それぞれ0.11~2.05m,103~235年間であることがわかり,平均下刻速度1.08~15.89mm/yが得られた.下刻速度は,河床を構成する岩石の抵抗力<i>R</i>に対する下刻侵食力<i>F</i>の比に制約を受けると考えられる.そこでまず,下刻侵食力<i>F</i>と侵食に対する抵抗力<i>R</i>の変数について検討した.下刻侵食力<i>F</i>は,流水が河床底面にあたえる力,すなわち流体の強さである掃流力として表すことができると考えられる.掃流力は,水深,河床勾配および流体の密度に比例して増大する.入手できた変数を用いて下刻侵食力<i>F</i>を以下のように考えた. <br> <i>F</i> &prop;(&gamma;,<i>A</i>,<i>P</i>,tan&theta;,<i>W<sup> </sup></i><sup>-1</sup>) <br> ここで,&gamma;:流水の単位体積重量(9810N/m<sup>3</sup>と仮定),<i>A</i>:流域面積,<i>P</i>:年間降水量,tan&theta;:河床勾配,<i>W</i>:河床幅員である.一方,侵食に対する抵抗力<i>R</i>は,河床を構成する岩石の力学的強度によって表すことができると考えられる.流水によって,岩盤には河床に沿ってせん断力が作用する.したがって,侵食に対する抵抗力<i>R</i>は,河床を構成する岩石のせん断強度(<i>S</i><sub>s</sub>)によって次のように表すことができると考えた. <br> <i>R</i> &prop;<i>S</i><sub>s</sub> <br>以上を整理すると,基盤岩石の抵抗力<i>R</i>に対する下刻侵食力<i>F</i>の比を表す変数が,以下に示す速度の次元をもつ指標(<i>F/R</i> index)として表される. <br> <i>F/R </i>= &gamma;<i>A P</i> tan&theta; <i>W </i><sup>-1</sup> <i>S</i><sub>s</sub><sup>-1</sup> <br>それぞれの地点について<i>F/R</i> index値を計算し,下刻速度との関係を分析した.その結果,短絡区間の上流側では下刻速度と<i>F/R</i> indexとの間に関係性が認められないのに対して,下流側では両者の間に高い相関(r=0.92)が認められた.これは,短絡区間の上流側と下流側の地形条件の違いが,下刻速度に影響を与えたと推察される.曲流を短絡しているので短絡区間の河床勾配は,その前後の河床勾配に比べて大きくなり,遷急区間となる.したがって,短絡の下流側の下刻速度は,この遷急区間の河床勾配が優位に作用していることが示唆された.
著者
前田 拓志 藁谷 哲也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100140, 2015 (Released:2015-04-13)

1.目的 新第三紀から第四紀の堆積岩を基盤に持つ,房総半島および新潟県中越地域の河川において,近世以降人為的な蛇行切断が行われてきた.これらは,房総半島では「川廻し」,中越地域では「瀬替え」と呼称され,一般に蛇行頚状部を掘削して新たに直線的な流路をつける(曲流短絡する)ことで,廃棄河道を新田として開発する目的で行われた.曲流短絡による一連の地形(以下,曲流短絡地形)には以下のような特徴があると考えた.①切断された流路(旧流路)は,無能河川となり,その後下刻作用を受けない.つまり,旧流路の河床面(旧河床面)は短絡以前の地形面を保存している.②一方,旧河床面と対比される(かつて連続していた)現河床面は,その後も下刻作用を受ける.つまり,現河床面と旧河床面の比高を,曲流短絡以降の下刻による河床の低下量とみなすことができる.また,短絡以降の時間は,下刻作用継続期間とみなすことができる.そこで本研究では,現・旧河床面における比高をH ,下刻作用継続時間をTとして,短絡以降の平均下刻速度H/Tを求め,さらにそれを制約する要素を検討した.   2.研究方法 既存文献および史料より,房総丘陵と魚沼丘陵から流路の短絡時期が推定できた7地点を研究対象として選定した. 7地点はいずれも,おもに受食性の大きい新第三系の泥岩を基盤に持つ渓流部である.それぞれの地点において,現地調査のもと現・旧河床面の比高を測量した.また,下刻速度を制約する変数を考察するために河床勾配,流域面積,年降水量の情報を取得した.一方,河床を構成する岩石の力学的強度を求めるために,シュミットハンマーKS型を用いて反発強度を測定するとともに,岩石試料をもとに圧裂引張強度を測定した.   3.結果と考察 現・旧河床面の比高および下刻作用継続時間は,それぞれ0.11~2.05m,103~235年間であることがわかり,平均下刻速度1.08~15.89mm/yが得られた.下刻速度は,河床を構成する岩石の抵抗力Rに対する下刻侵食力Fの比に制約を受けると考えられる.そこでまず,下刻侵食力Fと侵食に対する抵抗力Rの変数について検討した.下刻侵食力Fは,流水が河床底面にあたえる力,すなわち流体の強さである掃流力として表すことができると考えられる.掃流力は,水深,河床勾配および流体の密度に比例して増大する.入手できた変数を用いて下刻侵食力Fを以下のように考えた. F ∝(γ,A,P,tanθ,W -1) ここで,γ:流水の単位体積重量(9810N/m3と仮定),A:流域面積,P:年間降水量,tanθ:河床勾配,W:河床幅員である.一方,侵食に対する抵抗力Rは,河床を構成する岩石の力学的強度によって表すことができると考えられる.流水によって,岩盤には河床に沿ってせん断力が作用する.したがって,侵食に対する抵抗力Rは,河床を構成する岩石のせん断強度(Ss)によって次のように表すことができると考えた. R ∝Ss 以上を整理すると,基盤岩石の抵抗力Rに対する下刻侵食力Fの比を表す変数が,以下に示す速度の次元をもつ指標(F/R index)として表される. F/R = γA P tanθ W -1 Ss-1 それぞれの地点についてF/R index値を計算し,下刻速度との関係を分析した.その結果,短絡区間の上流側では下刻速度とF/R indexとの間に関係性が認められないのに対して,下流側では両者の間に高い相関(r=0.92)が認められた.これは,短絡区間の上流側と下流側の地形条件の違いが,下刻速度に影響を与えたと推察される.曲流を短絡しているので短絡区間の河床勾配は,その前後の河床勾配に比べて大きくなり,遷急区間となる.したがって,短絡の下流側の下刻速度は,この遷急区間の河床勾配が優位に作用していることが示唆された.
著者
藁谷 哲也
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.126, no.4, pp.455-471, 2017-08-20 (Released:2017-09-27)
参考文献数
88
被引用文献数
4

It is difficult to estimate weathering rates of rocks based on actual landforms. However, using stone-built architectures, artifacts, and traces of human activity on rock surfaces, weathering rates of rocks under weathering-limited conditions can be obtained easily because stone-built heritages, in general, have a geometrical shape and zero-datum levels. In addition, it is possible to estimate weathering rates of a millennium-scale and changes of rates up to a millennium scale. Many studies on weathering rates of rocks use stone-built heritages. This study reviews recent geomorphological studies that estimate weathering rates, and summarizes their trends. Most of the studies analyze gravestones and churches built since the 19th and 11th centuries, respectively. Such stone-built heritages are more commonly located in humid temperate areas. Weathering rates are estimated mainly from surface recession or surface loss of gravestones and church-building stones. The major three building stones—carbonate rocks (rate: 2-90 mm/ka), sandstone (8-100 mm/ka), and granite (5-65 mm/ka)—have different ranges of weathering rates. Among these stones, the rates for carbonate rocks are sensitive to climatic conditions and atmospheric sulfur dioxide concentrations. The results of the studies reveal that weathering rates show an obvious dependence on aspects. North-facing surfaces tend to have lower rates than surfaces facing other cardinal directions because each surface has different temperature and moisture conditions due to insolation. Moreover, the studies reveal that temporal changes in weathering rates rarely fit a simple linear model. Changes in atmospheric acidity, landform development, and vegetation cover rapidly affect the intensity of weathering processes and cause fluctuations in weathering rates.
著者
片桐 正夫 石澤 良昭 上野 邦一 藁谷 哲也 畔柳 昭雄 重枝 豊 清水 五郎 伊東 孝 坪井 善道 重枝 豊 伊東 孝 畔柳 昭雄 坪井 善道 藁谷 哲也 石澤 良昭 上野 邦一 伊豆原 月絵 大山 亜紀子 小島 陽子 チェン ラター 加藤 久美子 長澤 紘人 木下 洋道 勝原 基貴 有川 慎一郎 ロス ボラット ブリュノ ダジャンス ブリーノ ブルギエ イム ソックリティ 三輪 悟
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

王道(幹線古道)の踏査、および沿道遺構の実測を含むデータの収集により、(1) 王道及び遺構の建築的編年指標から建造年代の確定、技術的特徴の解明、これによる地域別の差異、技術者集団の存在について、(2) 各道の整備の編年、役割についての考察(Bルートでは現タイピマーイへ、Cルートではプリア・ヴィヘア、現ラオスワット・プーなどへの聖地巡礼、Dルートでは鉄資源の確保や生産地を結ぶなど)が可能となった。
著者
藁谷 哲也 江口 誠一 竹村 貴人 羽田 麻美 石澤 良明 三輪 悟 宋 苑瑞 梶山 貴弘 比企 祐介 前田 拓志 林 実花 神戸 音々 佐藤 万理映 LOA Mao BORAVY Norng
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,アンコール遺跡からアンコール・ワット,バンテアイ・クデイ,およびタ・プローム寺院を選定し,寺院を構成する砂岩材のクリープ変形と風化環境を有限要素解析や高密度の熱環境分析をもとに明らかにした。その結果,砂岩柱の基部に見られる凹みの形成には,従来から指摘されていた風化プロセスに加え,構造物の自重による応力集中が関与していることが判明した。また,寺院は日射による蓄熱のため高温化,乾燥化が進み,砂岩材に対する風化インパクトの増大が生じていることが推察された。アンコール遺跡保全のためには,日射を和らげる緑地の緩衝効果を見直すことが必要である。