著者
宮澤 啓輔
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

瀬戸内海産下等底生動物におけるフグ毒(tetrodotoxin、TTXと略記)の分布起源、蓄積機構を解明する目的で、実験を行ない、以下の諸結果を得た。すでに他地域と同様、TTXの保有を確認した棘皮動物トゲモミジガイ(Astropecten polyacanthus)の毒性調査の結果、季節変動では生殖期に高毒性を示すこと、体内分布では卵巣の毒性が著しく高い(最高12700MU^^ー/g)こと等を認めた。また筆者らがすでにTTXによる毒化を確認している扁形動物オオツノヒラムシ(Planocera multitentaculata)では、成熟卵を含む輸卵管の毒性が高く、消化管がこれに次ぐことを認めた。さらにオオツノヒラムシの産出卵の毒性は極めて高く、最高10700MU^^ー/gに達し、親のwhole bodyの毒性の数10倍を示した。またトゲモミジガイでは卵巣の毒性が高いため、whole bodyの平均毒性で、雌は雄の約2.5倍を示した。このように卵巣あるいは卵の毒性が高いことは、フグやカリフォルニアイモリと同様、TTXが生体防御物質として存在する可能性を示唆した。次にオオツノヒラムシ消化管から、かなり強力なTTX産生能をもつ細菌、Vibrio sp.を分離し、これがヒラムシのTTXの起源である可能性を示した。また扁形動物と近縁の紐形物動のミドリヒモムシ(Lineus fusroviridis)、クリゲヒモムシ(Tubulanus punctatus)等ヒモムシ類にTTXとその関連物質の存在を初めて確認し、TTXの分布を紐形動物に拡大した。またヒモムシ類の部位別TTX含量を調べた結果、吻が最も高濃度であることを認めた。吻に高濃度のTTXを持つことは、TTXを餌動物の捕獲、敵からの防御の手段として使っている可能性がある。この外、環形動物のウロコムシ(Lepidonotus sp.)や腔腸動物のイソギンチャク(Actirua sp.)等にも初めてTTXを検出した。
著者
宮澤 啓輔 浅川 学 野口 玉雄
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.35-41_1, 1995

麻痺性貝毒により毒化したカキの食品としての有効利用を図るため, 毒性が30MU/9程度のむき身を原料として現行の加工処理による減毒試験を行った. 各処理段階の毒性と毒組成をマウス生物試験とHPLCにより測定した. 燻煙油漬け缶詰と水煮缶詰製品では, HPLCにより毒性成分の一部が検出されたが, 残存毒性はすべて2.5MU/g以下と規制値を越えることはなかった. オイスターソースでは原料 (解凍液と缶詰製造時の煮沸液, 2~4MU/g) の毒性の約90%が消失し, マウス生物試験法では不検出となった. 乾燥カキでは規制値以上の毒性 (7MU/g) があった. 缶詰とオイスターソース製造では加熱条件を十分に考慮すれば食品としての利用が可能であると考えられた.
著者
宮澤 啓輔 浅川 学
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

紅藻オゴノリ(Gracilaria verrucosa)をはじめとする海藻を原因食とする食中毒が日本でこれまでに数件発生しており、原因究明がなされた結果、中毒発生の直接的要因はオゴノリに含まれる酵素の作用によりアラキドン酸から生成したプロスタグランジンE2(PGE2)であることが明らかにされている。そこで本研究ではこの種の食中毒防止の観点から、瀬戸内海産のオゴノリ、シラモ(G.bursa-pastoris)、ツルシラモ(Gracilariopsis chorda)、カバノリ(G.textorii)及びオゴノリ未同定亜種Gracilaria sp.におけるPGE2の生成量を調査した。その結果、オゴノリのPGE2生成量は、成長段階の初期に高く、その後減少する傾向が見られること及び嚢果の有無による差はないことなどが明らかとなった。オゴノリではアラキドン酸(ナトリウム塩)を添加することにより、PGE2の生成量が増加することが認められ、PGE2生成量の最高値は、90μg/g生鮮藻体に達したが、推定中毒量には及ばなかった。また、藻体の液体窒素処理により、PGE2の生成量は数倍に上昇すること、酸性側では著しく減少することを認めた。他方、他の海藻ではPGE2は検出されなかったが、アラキドン酸添加により著しく増加する関連物質の存在が新たに確認されたため、アラキドン酸代謝産物と考えられる未同定成分について部分精製を行い、紫外部吸収スペクトル測定を行った。その結果、この成分の吸収極大はPGE2の192nmとは異なり、240nmであった。次いで、カバノリのアラキドン酸添加区抽出試料に含まれる未同定成分について、質量分析をLC-MSを用いて行い、その化学構造に検討を加えた。質量分析ではm/z=372、355、337、319、301にピークが検出され、それぞれm/z=M+H、M+H-H_2O、M+H-2H_2O、M+H-3H_2O、M+H-4H_2Oと帰属された。本成分は、PGE2と比較してヒドロキシル基の数が1つ多く、また構造が部分的に異なる物質であることが推定された。