著者
宮田 りりぃ 石井 由香理
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.266-280, 2020 (Released:2021-09-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

本稿では,2016 年から大阪新世界エリアの女装コミュニティにおいて不定期開催されている,当事者主体の交流イベントに着目する.そこで,一連のイベントに関わった人々へのインタビューから,イベントの成立過程および当事者たちの自己語りについて描き出す.その上で,そこでは女装の逸脱的意味づけがどう組み替えられているのかを考察する.第1 に,この交流イベントは,当事者同士の連帯と結びついた「楽しみの増加」を目指す女装者たちと,長期的観点からの「売り上げの増加」を目指す商業施設側との間の利害や合理的判断が一致するかたちで成立していた.第2 に,女装者たちが語る自らの性別越境とは,女装と男性とを自由に往来するような可逆的なものであり,また気軽に実践できるような楽観的なものでもあった.これらの結果から,一連のイベントは,女装という行為に対する娯楽化と経済化という異なる逸脱的意味づけの組み替えが共存することで支えられており,さらに逸脱の娯楽化は当事者たちによる固定的な性別越境のあり方との差異化によって可能となっていることがわかった.以上の知見は,これまで医療化によって支援から周縁化されたり,犯罪化によって差別的扱いを受けたりする傾向にあった女装という行為を捉え直すための,新たな視角を提起するものである.
著者
東 優子 三田 優子 石井 由香理 齋藤 圭介 元山 琴菜 宮田 りりぃ
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

研究開始当初、ジェンダー非同調性をめぐる的国際的議論において、日本を含むアジア地域の固有の経験や営み(文化的装置)が反映されることがほとんどなかった。また国内では90年年代以降に輸入された精神疾患概念「性同一性障害」に依拠して支援システムが構築されてきた。本研究では、1)1990年から2012年までに国内で発表された1483本の文献資料を収集し、学問領域別に「性同一性障害」の言説の発展と定着の経緯を分析し、2)他のアジア諸国の現況については、国際的組織が主体となって実施したケア・支援システムの現況調査に協力し、冊子資料の策定とその邦訳版制作に関わった。
著者
宮田 りりぃ
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.305-324, 2017-07-28 (Released:2019-03-08)
参考文献数
17

本稿の目的は,トランスジェンダーの人々を調査対象に社会との相互作用を通した自己形成過程に着目し,性別越境を伴う生活史におけるジェンダー/セクシュアリティに関する意識を明らかにすることである。そのため,3名のトランスジェンダーに対して生活史調査を実施した。 分析の結果は以下のとおりであった。第1に,調査対象者たちが直面した問題の源泉は,個人の側にではなく,固定的な性別役割モデルの体現を求める社会の側にあった。第2に,それゆえ,調査対象者たちは社会との相互作用を通した自己形成過程の中でジェンダー/セクシュアリティに関する違和感や抑圧的感覚を覚えるようになり,そのきっかけや時期は調査対象者によって多様であった。第3に,調査対象者たちは,「重要な他者」たちとの関わりを通して新たな準拠枠を獲得し,それを参照することで固定的な性別役割モデルの体現を求める社会のあり方に抵抗する可能性を見出し,上記のような違和感や抑圧的感覚から解放されていった。 以上の知見をもとに,①「GID(性同一性障害)」支援の限界及び,②トランスジェンダーが直面する問題を医学概念にもとづいて捉える立場に留まることが含む,ポリティカルな問題について考察を行った。本稿が,今後教育における国のトランスジェンダー支援の見直しに役立てば幸いである。
著者
宮田 りりぃ 石井 由香理
出版者
関西大学教育学会
雑誌
教育科学セミナリー = Educational sciences seminary (ISSN:02880563)
巻号頁・発行日
no.50, pp.85-91, 2019-03

本研究は、日本学術振興会若手研究 (B)「性別違和を覚える人々を巡る性の商業化とジェンダー規範の変容に関する研究」(17K13849) の研究成果の一部です。