- 著者
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宮脇 博巳
- 出版者
- 佐賀大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2000
遺伝子資源として,現在生物多様性は重要視され,かつて役に立たないと考えられていた生物にも注目されるようになった.しかし,皮肉にも急速に地球上から,不自然な形つまり,人間の活動により急速に絶滅が進んでいる.かつて,汚染源近くでの環境変化についての研究は多くなされたが,近年では人里の地衣類にも急速に異変が現れてきた.しかし,定量的な調査はなく,個々の研究者の体験的な発言が中心であった.今回の奨励金により1983年頃まではLecanora muralisの生存が確認された11箇所のうち,鳥取県若狭町と広島市旧広島大学キャンパス理学部一号館の屋上だけであった.そのうち,活力の指標とされる生殖器官である子器が確認されたのは後者だけであった.広島市以外は,近くに汚染源がなかった.一方,1945年の原爆投下にも耐えた広島大大学旧理学部1号館に大量のサンプルが採集されたのは,予想外であった.赤レンガ上ではなく,赤レンガを埋める戦前のセメントに限って生育している点は興味が持たれた.一方,共生菌の胞子発芽様式も研究した.基礎的なデータを蓄積し,分類群ごとに発芽様式に共通性があることが判明した.推察の段階であるが,この約20年間の間に大陸からの酸性雨等の影響により全国的に人里の地衣類であるLecanora muralisの生育が減少した.一方,旧式のセメントの上は,pHなど何らかの原因で共生菌の発芽を助長している仮説を得るまでにとどまった.