著者
東 正剛 三浦 徹 久保 拓弥 伊藤 文紀 辻 瑞樹 尾崎 まみこ 高田 壮則 長谷川 英祐
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究プロジェクトにより、スーパーコロニー(SC)を形成するエゾアカヤマアリの感覚子レベルにおける巣仲間認識と行動レベルでの攻撃性の関係が明らかとなった。このアリは、クロオオアリの角で発見されたものと同じ体表炭化水素識別感覚子を持ち、巣仲間であってもパルスを発しており、中枢神経系で識別していると考えられる。しかし、SC外の他コロニーの個体に対する反応よりは遥かに穏やかな反応であり、体表炭化水素を識別する機能は失われていないと考えられる。また、SC内ではこの感覚子の反応強度と巣間距離の間に緩やかな相関関係が見られることから、咬みつき行動が無い場合でも離れた巣間では個体問の緊張関係のあることが示唆された。敵対行動を、咬みつきの有無ではなくグルーミングやアンテネーションなどとの行動連鎖として解析した結果、やはり咬みつきがなくてもSC内の異巣間で緊張関係が検出された。さらに、マイクロサテライトDNAを用いて血縁度を測定したところ、SC内の巣間血縁度は異なるコロニー間の血縁度と同じ程度に低かった。巣内血縁度はやや高い値を示したが、標準偏差はかなり大きく、巣内には血縁者だけでなく非血縁者も多数含まれていることが示唆された。これらの結果から、SCの維持に血縁選択はほとんど無力であり、恐らく、結婚飛行期における陸風の影響(飛行する雌は海で溺死し、地上で交尾後、母巣や近隣巣に侵入する雌が生き残る)、砂地海岸における環境の均一性などが多女王化と敵対性の喪失に大きく関わっていると結論付けられる。
著者
森脇 喜一 船木 實 平川 一臣 時枝 克安 阿部 博 東 正剛 宮脇 博巳
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.293-319, 1989-07

第30次南極地域観測隊(JARE-30)夏隊のセールロンダーネ山地地学・生物学調査は, 1988年12月29日から1989年2月1日にかけて山地西部で, 2月2日から9日にかけてあすか観測拠点をベースに付近の小山塊で実施された。2月になってからの調査活動は, ブリザード等の強風と地吹雪で効率的でなかった。JARE-26-29の地学調査に生物班が初めて加わったが, 調査計画の立案や行動形態に特に従来と変わったところはない。ここでは, 設営面を含む行動の概要と調査の概略, 調査期間の山地近辺の気象と雪氷状況を報告する。調査の成果については別途, 各分野で詳しく報告される。
著者
森脇 喜一 船木 實 平川 一臣 時枝 克安 阿部 博 東 正剛 宮脇 博巳 Kiichi Moriwaki Minoru Funaki Kazuomi Hirakawa Katsuyasu Tokieda Hiroshi Abe Seigo Higashi Hiromi Miyawaki
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.293-319, 1989-07

第30次南極地域観測隊(JARE-30)夏隊のセールロンダーネ山地地学・生物学調査は, 1988年12月29日から1989年2月1日にかけて山地西部で, 2月2日から9日にかけてあすか観測拠点をベースに付近の小山塊で実施された。2月になってからの調査活動は, ブリザード等の強風と地吹雪で効率的でなかった。JARE-26-29の地学調査に生物班が初めて加わったが, 調査計画の立案や行動形態に特に従来と変わったところはない。ここでは, 設営面を含む行動の概要と調査の概略, 調査期間の山地近辺の気象と雪氷状況を報告する。調査の成果については別途, 各分野で詳しく報告される。The summer party of the 30th Japanese Antarctic Research Expedition (JARE-30) carried out the geomorphological, paleomagnetic, geodetic, zoological and botanical field work in the western part of the Sφr Rondane Mountains for 35 days from December 29,1988 to February 1,1989,and around Asuka Station for 8 days from February 2 to 9,1989. The field work in February was largely hampered by bad weather including blizzard. In addition to earth scientists who have been in charge of the field operation of the Sφr Rondane Mountains since JARE-26 (1985), biologists joined the field party for the first time this season under the similar planning and operating scheme formerly adopted. This is the report describing the results of field operations including logistics, a summary of the field work, and some information on weather and surface conditions of snow and ice around the Mountains during this period.
著者
東 正剛 緒方 一夫 辻 瑞樹 緒方 一夫 辻 瑞樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

インドとその周辺のツムギアリについて分子系統解析を行い、インド・スリランカ個体群はバングラディッシュまで分布する東南アジア個体群とは明らかに異なる系統であり、乾燥・寒冷期にインド南西部にあったレフュージア熱帯林から拡散したことが明らかとなった。系統上近縁と考えられているアシナガキアリはツムギアリほど明瞭な系統地理を示さず、人為的攪乱の影響を大きく受けていることが明らかとなった。DNA解析と生態調査の結果、生態系攪乱規模の違いは遺伝的なものではなく、侵入先の生態系が大きく関わっていることが示唆された。