著者
小林 庸平 中田 大悟
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.147-169, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
24

社会保険料負担の増加は,日本国内の投資を阻害し,空洞化を促進しているのではないかとの指摘があるが,それを実証的に分析した研究は,国内外を問わず非常に乏しい。本稿では,健康保険料データと企業データをマッチングさせた個票データを用いて,企業の健康保険料負担が,設備・研究開発・対外直接投資にどのような影響を与えているかを実証的に分析した。分析の結果,健康保険料負担の増加は,⑴企業の国内投資を一定程度抑制させた可能性がある,⑵研究開発投資には大きな影響は与えていない,⑶海外進出を行うかどうかの意思決定には影響を与えていないものの,既に海外進出を行っている企業の対外直接投資を増加させた可能性がある,といった結果が得られた。
著者
小林 庸平 佐藤 主光 鈴木 将覚
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.172-189, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
18

地方財政のテキストにおいて固定資産税は「望ましい地方税」の代表例としてあげられる。ただし,その前提は土地に対する課税であることだ。しかし実際のところ,日本の固定資産税は土地に加えて,家屋や機械設備等,償却資産をその対象に含む。とくに償却資産に対する課税は,固定資産税に法人税とは異なる形での資本課税の性格を与えてきた。そこで本稿では資本税としての固定資産税の経済効果を検証する。具体的には工業統計調査および経済センサス活動調査(経済産業省・総務省)の事業所別パネルデータを用いて,固定資産税の償却資産課税が設備投資(有形固定資産の形成)に及ぼす影響について実証した。推定結果からは,固定資産税が設備投資を損なっている(マイナス効果が有意になっている)こと,とくに流動性制約に直面している(キャッシュフローが負の)企業に対するマイナス効果が高いことが明らかになった。
著者
小林 庸平
出版者
特定非営利活動法人 日本評価学会
雑誌
日本評価研究 (ISSN:13466151)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.33-48, 2020-07-31 (Released:2023-06-01)
参考文献数
35

日本においても、エビデンスに基づく政策形成(EBPM)が進められている。本稿では、Evidence-Basedに関する議論を概観したうえで、日本のEBPMの現状を整理するとともに、その評価を行う。日本のEBPMは事前分析やロジックモデルの作成に重点が置かれており、EBPMの本来的な意味からの逸脱がみられる。次に、Evidence-Basedが先行する医療等の分野との比較を行う。具体的には、問いの設定、エビデンスの創出、エビデンスの活用という3つの観点から、医療等の先行分野と政策の比較を行う。比較分析を踏まえて、EBPMをどのように捉えどのように進めていくことが望ましいかを検討する。具体的には、問いの設定の重要性や、エビデンスの範囲、つくる・つたえる・つかうのウエイト、エビデンスに対する需要創出の重要性等を指摘する。
著者
久米 功一 小林 庸平 及川 景太 曽根 哲郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.93-96, 2013 (Released:2014-08-12)
参考文献数
8

本稿では,仮想的な質問で得られた,法人税の増税や減税に対する企業行動の違いについて,リスクシェアリング,調整・取引コスト,法規制,赤字企業,非流動資産比率に着目して探索的に分析した.その結果,企業と従業員はリスクをシェアしており,売上高が大きく,流動資産が低く,赤字であり,労働法制を配慮している企業ほど,法人税の増減に対する対応に非対称性があることがわかった.
著者
小林 庸平 林 正義
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.160-175, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
9

本稿では一般財源化と高齢化が就学援助に与える影響について検証を行う。就学援助の認定基準や給付内容の決定は市町村に委ねられているが,2004年度までは国庫補助が行われており,国の補助条件が一定の基準を提供していた。しかし,2005年度に準要保護者への就学援助に対する国庫補助が一般財源化され,就学援助が地方の財政状況に左右されやすくなったと考えられる。また,高齢化については先行研究が示すように,高齢者が多数を占めることを意味するから,高齢化は子ども向けの支出を減少させる可能性がある。本稿では,新入学児童・生徒1人当たり年間援助額や就学援助率,準要保護率については,財政力の多寡が就学援助に影響を与え,とりわけ,新入学児童・生徒1人当たり年間援助額については一般財源化後に財政状況が与える影響が増大したことが示される。さらに高齢化の進展は新入学児童・生徒1人当たり年間援助額や就学援助受給率を減少させることが示される。