- 著者
-
津富 宏
- 出版者
- 特定非営利活動法人 日本評価学会
- 雑誌
- 日本評価研究 (ISSN:13466151)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.1, pp.33-41, 2016-11-17 (Released:2023-06-01)
- 参考文献数
- 14
- 被引用文献数
-
2
本稿では、エビデンスを「つくる・つたえる・つかう」運動であるEBP(Evidence-based practice)の観点から、社会的投資のための評価ツールのひとつであるSROI(Social Return On Investment: 社会的収益投資)について批判的検討を行った。まず、SROIの普及状況について概説した後、SROIがCBA(Cost-Benefit Analysis: 費用便益分析)の一種であることを確認し、Nicholls et al.(2009)に従って、SROIの原則、SROIの手順について概観した。これを踏まえて、Arvidson et al.(2010, 2013)によるSROIに対する、的を得た8つの批判を紹介した。その後、SROIに関する具体例の検討を行い、SROI比率算定における恣意性やSROI比率がインフレートされる可能性を見出した。最後に、福祉国家論における社会的投資の役割についての考察を踏まえ、SROIは、投資対象としての事業や組織を評価するためではなく、EBPが長年にわたり行ってきたように、社会的共通資本としてのセクターの漸進的改善を支援するために用いられるべきであると主張した。