著者
小野 泱
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.334-361, 1970-11-25

1963〜1968年に十勝地方の平野部から高山部までの特に音更川水域のブユ相を調査した結果は次の通りである。1.十勝地方には2属3亜属10種のブユを産する。調査の中心となった糠平地方には10種がすべて棲息する。2.成虫の出現期:各種ブユ類の出現期とその最盛期はオオブユ4,5,6月(5月中旬) キアシオオブユ5,6,7月(6月上旬) ウチダツノマブユ平地高地6,7月(6月下旬) 7,8月(7月下旬) オタルツノマブユ5〜9月(6,8月) アオキツメトゲブユ5〜9月(6月中旬) アシマダラブユ5〜9月(6月中旬) オオアシマダラブユ5〜9月クロアシマダラブユ5〜9月(6,8月) ァカクラアシマダラブユ5〜9月ヒメアシマダラブユ8,9,10月(8月下旬) 3.棲息場所:一定面積当り集中的に個体数が多くなる場所を河川型によって分けると源流型ウチダツノマブユ上流型アシマダラブユ,オタルツノマブユ,アカクラアシマダラブユ中流・下流型オオブユ,キアシオオブユ,アオキツメトゲブユ,オオアシマダラブユ,クロアシマダラブユ,ヒメアシマダラブユ河川の形質(川幅,流速,水深,底質など)によって棲息場所が規定されており,海抜高,水温,気温などはあまり関係がない。4.個体数:発生源となる好適河川のRiver densityが発生量を左右し,一定面積当りの個体数の多寡を比較すると,ウチダッノマブユーアシマダラブユーアオキツメトゲブユーオオブユーキアシオオブユの順に少なくなりいずれも普通種であるが,オオァシマダラブユ,クロァシマダラブユ,アカクラアシマダラブユ,ヒメアシマダラブユ,オタルツノマブユは稀少種である。5.高山部雪渓直下の原始河川の細流に大量発生するウチダッノマブユは氷河期のRelicであると推察される。6.吸血源:各種ブユ類の刺咬動物嗜好性はオオブユ,キアシオォブユ,アシマダラブユ人,豚その他牛馬 ウチダツノマブユ鳥類 アオキツメトゲブユ人畜,鳥類 ヒメアシマダラブユ人畜 オオアシマダラブユ馬,その他人,牛 クロアシマダラブユ,アカクラアシマダラブユ反芻獣,その他人 オタルツノマブユ鳥類 7.人体に特に被害を与える種:アシマダラブユ,オオブユ,キアシオオブユ,アオキツメトゲブユ。他の人体から吸血するブユ類はいずれも個体数が少なく被害はほとんどない。8.東大雪高山部で7,8月にウチダツノマブユが大量発生するが,人体から吸血するのはこれに混じている小数のアシマダラブユとヌカカの1種である。
著者
小野 泱 岩佐 光啓
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.751-768, 1976-06-25

1.1973年6月から9月にわたって各月毎に1回,4回にわたり日高幌尻岳七ツ沼カールボーデン(1,600m)とその登山口(900〜1,000m)において吸血昆虫の種類と月別発生状況を調べ,4属9種のブユ類,4属11種のカ類,1属5種のヌカカ類,3属4種のアブ類を確認した。特に七ツ沼におけるブユ類の日周活動についても調査した。2.一般に日高山系は特有の地形,気象条件,植物相などから大雪山系に比較して吸血昆虫の発生量は少ない。これは特に七ツ沼カールボーデンは乾燥した砂礫質で,同一高度の大雪山の高原状湿原と環境が著しく異なっている点と関係深いようである。3.ブユ類ではTwinnia sp.,Cnephia (Stegopterna)sp.の2属が今回の調査で北海道にも生息していることが確認された。種名は本州産,大陸産の類似種と幼虫,雄成虫の形態が比較されていないので後日検討すべきである。4.七ツ沼のブユ類ではTwinnia sp.が優占種となり,6月から9月まで見られ7月が最盛期となっていた。これに少数のアシマダラブユが混じ,きわめて少数のC. (Stegopterna)sp.,ウチダツノマユブユ,キアシオオブユ,スズキアシマダラブユおよびアカクラアシマダラブユが採集された。5.Twinnia sp.の日周活動は7〜16℃の温度範囲で,夕方にピークが見られる1山型消長が普通であった。しかし早朝から無風快晴15〜16℃となった日には朝夕にピークが見られる2山型を示した。6.ブユ類の刺咬活動は18〜28℃の温度範囲で観察されたが,優占種のTwinnia sp.は人体に吸血性はないと見なされ,アシマダラブユも亜高山帯のように明瞭な吸血性を示さなかった。7.カ類ではチシマヤブカが最も多かったが,大雪山系に見られるような大発生は認められなかった。七ツ沼で採集されたオオモリハマダラカは北海道未記種である。8.ヌカカ類ではヌカカが優占種となっていたが,本種も大雪山系のような大発生は観察できなかった。9.アブ類は4種発見されたが,それらの個体数は少なかった。
著者
小野 泱
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.893-909, 1978-06-20
被引用文献数
1

著者は1975〜1977年の2〜5月に帯広市東郊依田台地の下を流れる小沢でブユの採集を行い,C. subcostatumオタルツノマユブユとC. uchidaiウチダツノマユブユにそれぞれ極めて類似した2種類のブユの多数の幼虫,蛹を得た。これらの室内飼育で得た2種の成虫はsubcostatumおよびuchidaiとはそれぞれ別種であり,かつ新種と認めたので本文においてCnetha boldstemta n. sp.オビヒロツノマユブユおよびC. acmeria n. sp. サツナイツノマユブユとして記載した。C. boldstemtaはC. subcostatumに類似しているが,雌雄のgenitalia構造に差がありboldstemtaの雌の胸背に3条の淡色条が認められるがsubcostatumには淡色条がなく,雌の額板の幅,雌雄の脚の形態,色彩,蛹の呼吸糸の幅,繭の形態,幼虫の頭部額板の斑紋,頭部腹面の割目の形態,肛鰓にも明瞭な差異が認められる。C. acmeriaはC. uchidaiに類似しているが,雌雄のgenitalia構造に差があり,繭のdorsal projectionは特異的に極めて長くなっている。また雌の額板の幅,雌雄の脚の形態,色彩,幼虫の頭部額板の斑紋,肛鰓にも差が認められる。C. subcostatumとC. uchidaiの成虫は5月から11月まで見られ,幼虫,踊も道内各地の平野部から山地の林内の小沢からかなり幅広い川で普通に見られるが,C. boldstemtaとC. acmeriaの成虫は平野部の台地下に4〜6月だけ見られる。両新種の幼虫と蛹は融雪期とその前後に,湧水からの小沢にのみ生息しており,この小沢は夏期,秋期には消滅する。両種の雌成虫は吸血するかどうか不明である。
著者
佐々木 均 西島 浩 小野 泱
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.87-90, 1988
被引用文献数
3

吸血源動物を知る目的で, 北海道に分布するSimulium属の主要種である, アシマダラブユとアカクラアシマダラブユの2種のblood-mealをELISAを用いて, 免疫学的に同定した。アシマダラブユでは抗ヒト, 抗ウシ, 抗ウマ, 抗ヒツジ, 抗エゾシカ血清に, アカクラアシマダラブユでは抗ヒト, 抗ウシ, 抗ウマ血清にそれぞれ陽性反応を示したが, 抗鳥類血清に陽性反応を示した個体はなかった。この2種のブユは趺節の爪が歯をもたないS型であることからほ乳類吸血性とみられていたが, 本報に示された結果からこのことが免疫学的にも確認された。
著者
小野 泱
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.217-222, 1976
被引用文献数
1 2

著者は1975年6月15日北海道幌泉郡襟裳町でブユの調査を行い, 猿留川の2支流で多数の老熟幼虫, 蛹を採集した。これらを飼育して成虫を羽化させた結果Pro-imulium属に属する新種であると認めたので, ここにProsimulium sarurenseとして記載する。本種は雌雄の生殖器, 脚の形態から本邦産のProsimulium属のhirtipes-groupよりもyezoense-groupに類似しており, さらに蛹の呼吸系の形態からyezoense-groupとは別のgroupに属するものと見なされる。P. yezoense Shiraki, 1935およびその類似種は雌のみ腿節脛節が黄白色ないし黄色, 蛹の呼吸系は22∿36本であるが, 本種は雌雄ともに腿節脛節がすべて黄白色ないし黄色, 雌の小楯板の外縁部が銀白色, 雌雄の生殖器の特徴, 蛹の呼吸系が46∿48本であることなどにより明瞭に区別できる差異が認められた。蛹の呼吸系の数, 幼虫のhyposto-iumの歯の形態は, シベリア, アルタイ, アラスカ, カナダに広く分布しているP. alpestre Dorogostajskij, Rubtzov et Vlasenko, 1935に類似しているが, alpestreとは雌雄の生殖器, 脚の色彩, 爪の形状などにより明瞭に区別できる。本種に対しサルルキアシオオブユという和名を提唱した。
著者
小野 泱
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, 1989

北海道渡島半島から新種として記載されたオシマヤマブユの種名fulvipesは, Gnus属のSimulium属亜属への降格に伴い, simulium (Prosimulium) fulvipes Edwardsのhomonymとなったので, Simulium (Gnus) oshimaenseなる新置換名を与えた。
著者
西島 浩 小野 泱
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.505-511, 1963-07-10

北海道における吸血昆虫に関する研究の1部として,糠平におけるマダラヌカカ類の季節的消長について,1959〜1962年間ライト・トラップにより調査を行ない,次のことを知った。すなわち,1)同地において認めたヌカカは,Culicoides属の9種で,それらのうちC. crassipilosisおよびC. comosioculatusの2種は北海道新記録種である。2)これらのヌカカ群集の優占種はC. sinanoensisである。3)この種の夜間活動性は日没直後から約2時間後までが最も旺盛である。4)季節的消長曲線において単峰型を示す種は,C. kibunensis,C. aterinervisおよびC. dubiusであるが,前2種は8月上旬においてピークを示す。5)同曲線において双峰型を示す種は,C. sinanoensis, C. obsoletus, C. crassipilosisおよびC. pictimargoである。
著者
小野 泱
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.263-271, 1977
被引用文献数
2

1974∿1976年の4∿11月に帯広市周辺の諸河川でブユの採集を行い, Simulium arakawaeヒメアシマダラブユに極めて類似したブユの多数の卵, 幼虫, 蛹を得た。これらを室内で飼育し成虫を羽化させた結果arakawaeと別種であると認められたので, これを記載しさらに両種の相異について比較図示した。本種とarakawaeとは雌雄のgenitalia構造に差があり, 特に雄のventral plateのventral process, dorsal processesの形態の差は著しく, 脚の形態, 色彩にも差が認められる。幼虫の頭部額板の斑紋はtobetsuensisではH字型, arakawaeでは亀甲斑型となっている。本種はS. aemulum, S. janzeni, S. venustum (s. str.)にもかなり類似し, S. rubtzovi, S. longipapleにも類似している。しかしaemulum, janzeni, venustumとは雄の交尾器のventral plateの形態, 幼虫の肛鰓の形態などにより区別でき, rubtzovi, logipalpeとは蛹の呼吸糸が8本であることで容易に区別できる。本種は北海道東部(十勝, 釧路), 南千島(国後島)に産し, 年2化と考えられるがその吸血習性は不明である。