著者
松崎 太郎 前薗 大聖 山中 千博
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

大地震の先行現象として、地震発生の直前約40~50分前に震源上空の電離圏において総電子数(TEC)の異常が発生していることが、1994年から2017年までのM8を超える11以上の地震で報告されている(Heki, 2011)。一般にTEC異常は、磁気嵐や大規模伝搬性電離圏擾乱(LSTID)など太陽活動を起源としていることが多く、このほか大気重力波などの高層大気の力学的影響があることが知られている。しかし、地震の直前に見られるTEC異常は、震源上空に固定される局所的なもので、全地球的に影響を及ぼす宇宙起源のTEC異常やLSTIDとは区別することができる。さらに2011年に発生した東北沖太平洋地震では、震源の磁気共役点である北部オーストラリアで、同時にTEC異常が発生したことが確認されており(Heki, 2018)、これらの観測結果から一連の現象は、大気力学的なものというより、地震に先行する電磁気現象と考えられる。一つの仮説として、震央付近で臨界的な圧力が加わることによって、地殻中にマクロスケールな電気分極が発生し、分極による誘導電場と地球磁場によって電離層に影響を与えていることが考えられる。地殻中における圧力誘起分極として、ケイ酸塩鉱物中の過酸化架橋構造における正孔励起説(Freund, 2006)があり、地震前のTEC異常が観測される約40分の間、持続的に電荷を発生することができる点で注目されている。本研究では、応力印加による分極現象における正孔の移動・拡散による寄与を調べるために、極めて良い絶縁体である高純度のMgOセラミックスを用い、最大10MPaの一軸圧縮下で応力誘起電流値の変動を室温で計測した。結果として、ケイ酸塩鉱物と同様に、数ピコアンペア程度の応力誘起電流を観測できた。発表では、正孔移動の温度・吸水率依存性、および岩石データとの比較を行った上で、実験から得られた電流値を実際の地殻スケールで概算し、TECへの影響について議論する。
著者
佐々木 晶 永原 裕子 杉田 精司 山中 千博
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

月岩石・隕石の実験室での反射スペクトルと月・小惑星の天体観測スペクトルには大きな違いがある。観測スペクトルは、全体的に暗く、波長が短いほど反射率が低い「赤化」の傾向があり、輝石やカンラン石に特有の1ミクロンの吸収帯が相対的に弱い。この月・小惑星表面の反射スペクトルの変化は、シリケイト中に含まれる酸化鉄が、ダスト衝突により還元されてナノメートルスケールの金属鉄微粒子となる「宇宙風化作用(Space Weathering)」と呼ばれる過程で天体表面が変成されたためと考えられている。研究申請者のこれまでの研究では、世界で初めてパルスレーザーを用いたシミュレーション実験でこの微小鉄粒子の生成を確認した。これまではサンプルをペレット状に固めるときに均等に圧力がかかるという理由で円形のサンプルホルダーを使用していた。昨年度は微小量サンプルの照射のために、皿状のサンプルホルダーを製作して使用した。本年度は、それを改良して微小量の隕石サンプルを照射できるようにした。また、導入した試料粉砕システムにより、隕石中に含まれる金属鉄も250ミクロン以下に粉砕できるようにした。この結果、これまでの隕石粉末試料照射と比較すると鉄の影響を正確に見積もることができるようになった。「はやぶさ」ターゲット天体のイトカワの反射スペクトルを再現するため、LL・Lタイプの普通コンドライトを中心として様々な隕石試料の照射実験を行った。粉末試料だけではなく、隕石固体表面へのパルスレーザー照射を行い、反射スペクトルの変化が起きることを確認した。岩石表面の色変化の確認は世界で初めてである。