著者
和久田 智靖 横倉 正倫 間賀田 泰寛 尾内 康臣 桑原 斉 山末 英典
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

統合失調症は、20歳代に発病する主要な精神疾患である。症状には陽性症状(幻覚妄想)、陰性症状(感情の平板化など)、認知機能障害(記憶力障害など)があり、陰性症状と認知機能障害に対する治療法は未だ確立されていない。喫煙(ニコチン)が統合失調症の陰性症状や認知機能障害を改善させるという報告を手掛かりに、本研究では、PETを用いて統合失調症者のニコチン受容体と活性化ミクログリア結合能を測定することで、新たな創薬標的を創出することを目指す。
著者
山末 英典
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
脳と精神の医学 (ISSN:09157328)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.287-294, 2009-12-25 (Released:2011-02-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1

自閉症スペクトラム障害では対人交渉などの社会性の障害が中核をなし,全ての亜群において共通する症候である。近年技術的に進歩の著しいMRIを用いた研究が行われ,自閉症スペクトラム障害に関連した脳の機能的・形態的異常が報告されている。さらに健常ヒトでは,表情認知から他者の意図の理解に至るまで,対人交渉や社会性の基盤をなす脳神経回路も明らかにされつつあり,社会脳領域などと呼ばれている。われわれもMRIを用いた研究を行い,自閉症スペクトラム障害当事者における社会脳領域を中心とした脳形態異常とその遺伝背景,社会脳領域の男女差と社会性の男女差の関連と,その社会性の障害との関連について興味深い知見を得た。本稿では,これら近年の研究成果を示し今後の展望について述べた。
著者
村山 千尋 尾内 康臣 千住 淳 山末 英典
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.18-24, 2022 (Released:2022-10-15)
参考文献数
32

自閉スペクトラム症(ASD)の原因や病態はその多くが未解明である.それに対し,陽電子断層撮像法(PET)は,生体内の特定の分子の分布や動態を定量的に測定できる強力な研究手法である.2020年以降,ASDを対象としたドーパミン受容体のPET研究が立て続けに報告されており,ASDの病態へのドーパミン系の関わりが注目されている.本稿では特に,私たちが行ったASDの線条体外領域におけるドーパミンD2/3受容体のPET研究を紹介する.この研究によって,ASD者では,ドーパミンD2/3受容体の豊富に存在する線条体外領域全体でドーパミンD2/3受容体結合能が有意に低下していることが明らかになった.中でも視床枕に相当する視床後部領域で結合能の低下は最大であり,この低下は,ASDの社会的コミュニケーション障害の重症度と相関していた.また安静時機能的MRI研究と組み合わせることにより,この線条体外領域におけるドーパミンD2/3受容体結合能の低下が,ASD者における社会脳領域の安静時機能的結合性の変化に関係していることが明らかになった.
著者
亀野 陽亮 横倉 正倫 尾内 康臣 桑原 斉 山末 英典 和久田 智靖
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

うつ病患者数は年々増加し、その対策は喫緊の課題である。近年、神経炎症仮説とグルタミン神経仮説に基づく新薬の治験結果が報告されたが、いずれも効果は非常に限定的であった。そこで、活性化ミクログリアとセロトニントランスポーターのダブルトレーサーPET、1H MEGA-PRESS MRS、炎症性サイトカインとトリプトファン代謝物のメタボローム解析によるマルチモダル解析を行い、神経炎症とセロトニン/グルタミン神経系と抑うつ症状の相関性を検討する。そして、うつ病病態における活性化ミクログリアとセロトニン/グルタミン神経系の相互作用の役割を明確にし、新たな治療シーズの創出を目指す。
著者
山末 英典
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.63-66, 2022 (Released:2022-06-25)
参考文献数
14

オキシトシンによって自閉スペクトラム症の中核症状が治療できるようになることが期待されている。しかし,単回投与ではこれまで一貫して改善効果が認められる一方,反復投与では報告が一貫しなかった。その理由として,オキシトシンを反復投与すると効果が変化することが疑われたが,自閉スペクトラム症の症状を繰り返して評価できるような客観的な方法がなく,この疑問を確かめることができなかった。筆者らの最近の研究では,対人場面に現れる表情を定量的に解析して評価項目とし,自閉スペクトラム症に関連した表情の特徴がオキシトシンの投与で改善されることについて再現性をもって示すことに成功した。さらにこの改善効果は時間とともに変化することを示し,この経時変化の脳内・分子メカニズムに関する知見とともに,オキシトシンによる自閉スペクトラム症の治療が最適化され開発が進むことが期待されている。本稿ではこの研究成果について概説した。
著者
山末 英典
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.168-172, 2019 (Released:2020-03-30)
参考文献数
13

オキシトシンによって自閉スペクトラム症の中核症状が治療できるようになることが期待されている。しかし,単回投与ではこれまで一貫して改善効果が認められる一方,反復投与では報告が一貫しなかった。その理由として,オキシトシンを反復投与すると効果が変化することが疑われたが,自閉スペクトラム症の症状を繰り返して評価できるような客観的な方法がなかったため,この疑問を確かめることができなかった。著者らの最近の研究では,対人場面に現れる表情を定量的に解析して評価項目とし,自閉スペクトラム症に関連した表情の特徴がオキシトシンの投与で改善されることについて再現性をもって示すことに成功した。さらにこの改善効果は時間とともに変化することを示し,この経時変化のメカニズムに関する知見とともに,オキシトシンによる自閉スペクトラム症の治療が最適化され開発が進むことが期待されている。本稿ではこの研究成果について概説した。
著者
山末 英典
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.85-89, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
14

オキシトシンによって,現在は治療が困難な自閉スペクトラム症の中核症状が治療できるようになることが期待されている。しかし,これまでの報告を概観すると,単回投与では一貫して改善効果を報告してきた一方で,反復投与では,改善の有無についての結果が食い違っていた。その理由として,オキシトシンは反復投与すると効果の強さが変化することも疑われたが,これまでは自閉スペクトラム症の中核症状を繰り返して評価できるような客観的な方法がなかったため,この疑問を確かめることができなかった。この疑問に対して筆者らは,脳機能から生化学的検討まで含んだマルチモダリティの脳画像解析や定量的表情分析を評価項目に応用して行った自主臨床試験の解析結果を示し,さらに動物実験による検証を行い,反復投与による改善効果の経時変化や反復投与に特異的な効果発現メカニズムを示してきた。本稿では,これらの研究成果について概説する。
著者
山末 英典
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.139-146, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
15

社会的コミュニケーションの障害など自閉スペクトラム症中核症状に対する治療方法は確立出来ていないのが現状である。本稿ではオキシトシン経鼻投与の効果を臨床評価に加えて, マルチモダリティ脳画像解析による脳機能変化として検出した医師主導臨床試験による, この中核症状治療薬の開発過程を紹介する。治療開始前の遺伝子情報による治療効果予測の可能性を示す研究成果も含めた。こうした本邦発の研究成果が活用され, 出来る限り早く自閉スペクトラム症当事者のために新規治療薬の臨床応用が実現することが望まれる一方で, 臨床的に意義の高い効果についての確認, 最適な用量や用法の設定, 特に幼少児期における長期投与の安全性など, オキシトシンを自閉スペクトラム症中核症状の治療薬として実用化するためにはまだ検討するべき点が多く残されている。そのため, こうした検討事項を踏まえてデザインした医師主導治験を含めた研究計画について, 現在進行形で実施している。