著者
児嶋 大介 木下 利喜生 東山 理加 太田 晴基 山本 洋司 下松 智哉 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P1044, 2010

【目的】<BR> 日本古来、温泉に浸かると体調が整い元気になるというような伝統的な民間療法が伝承されており、また、運動を行うことにより同様の効果が得られる。運動による全身調整効果は近年Pedersonらによって明らかにされた。骨格筋は単なる運動器ではなく、収縮することにより、サイトカインの一種であるインターロイキン6(以下IL-6)を多量に放出する内分泌器官であることが明らかになった。さらに、筋繊維から分泌されるIL-6をはじめとしたサイトカインは、これまで認識されてきた液性免疫の中心的役割を担うだけでなく、同時に糖代謝、脂質代謝の活性化、造血幹細胞の活性化、神経修復の活性化等を有する多機能サイトカインであることが示され、Myokinesと命名された。我々は、温泉入浴の効果が免疫系・代謝系等多岐にわたる事から、温浴がmyokinesを発現させ、元気になり、体調が整う等の生体への様々な効果を上げているのではないかと推測した。過去にも頚下浸水においてIL-6の変化について言及されることはあったが、結論は出ていない。そこで我々は温泉における頚下浸水の前後で血中IL-6濃度を測定した。<BR><BR>【方法】<BR> 被検者は若年健常男性8名(年齢26.9±4.1歳、身長172.6±8.6cm、体重66.3±6.8Kg)とした。また、全ての被検者は測定前日から激しい運動・カフェイン・アルコールの摂取を禁止した。被検者は、中性温の室内で安静座位をとり、血圧・心拍数が安定した後、30分間の浸水前測定を行った。その後、42&deg;Cの温泉に20分間頚部までつかり(頚下浸水)、その後再び中性温の室内で安静座位を1時間とった。採血は浸水前、浸水直後、浸水1時間後に医師が行い、左前腕から1回20mlを採血し、ただちに遠心分離機で血漿・血清を分離させ、ELISA法により血中IL-6、TNF-αを測定した。また白血球数、およびその分画である単球、ヘマトクリット値、CRPの測定も行った。さらに実験中は舌下温をモニタリングした。<BR>温泉は那智勝浦町立温泉病院地下から湧き出るものをボイラーで温度調節し、使用した。<BR>controlの為、2日間以上の期間をあけて、入浴を行わない対照実験を行った。<BR>結果の解析はANOVAを行い、post hocテストでLSDを用いて負荷前後での検定を行い、有意水準は5%とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会で承認されており、実験に先立って被検者には研究の主旨と方法を十分に説明し、同意を得てから施行した。<BR>【結果】<BR> 温泉での頚下浸水負荷前後のIL-6濃度は、入水前:0.88±0.13pg/ml 入水直後:1.20±0.32pg/ml 回復後: 1.75±0.65pg/ml であり、温泉での頚下浸水負荷20分による血中IL-6濃度の上昇が認められた(P<0.05)。TNF-α、白血球数、および単球、ヘマトクリット値は入水前後において有意な変化は認めなかった。舌下温は入水前:37.4625±0.25&deg;C 入水直後:39.2625±0.72&deg;C 回復後: 37.7625±0.40&deg;C であり、入水前後で舌下温の上昇が認められた(P<0.01)。またcontrol群において血中濃度・舌下温は有意な変化が認められなかった。<BR>【考察】<BR> 健常者において、温泉入浴によりIL-6の血中濃度が上昇した。今回、ヘマトクリット値の変化を認めなかったため、血中IL-6濃度の上昇や、その他の血液データは脱水による影響は受けていないと考えられる。<BR>一般に、IL‐6は炎症反応により単球から分泌されるpro-inflammatoryな物質であると考えられている。それに対して、Pedersenらは筋収縮により分泌され、anti-inflammatoryなものであると主張する。今回の研究では、pro-inflammatory 物質であるTNF-αの上昇もなく、単球の増加もないため、炎症反応による血中IL-6濃度の上昇は否定的である。一方、温泉入浴中に筋肉を収縮するような運動も実施していないため、筋肉からIL-6が産生されたとも考えにくい。<BR>今回の結果より、IL-6の上昇はpro-inflammatoryなものとは考えにくく、その上昇メカニズムとして現在わかっているもの以外の存在が推測される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究により、理学療法の一つの柱である物理療法の源流ともいえる温泉療法効果発現の根幹に迫ることが出来た。温泉入浴が運動負荷と同様にIL-6を上昇させる事実は、IL-6を発現するだけの運動が行えない高齢者や障害者の健康維持の一助となる可能性を示した。
著者
掛谷 佳昭 山本 洋司 渡辺 広希 惠飛須 俊彦
出版者
一般社団法人 大阪府理学療法士会生涯学習センター
雑誌
総合理学療法学 (ISSN:24363871)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.9-16, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
34

【目的】レンズ核線条体動脈(lenticulostriate artery:以下,LSA)領域のBranch Atheromatous Disease(BAD)患者に対する発症24時間以内の離床が運動機能および進行性脳梗塞に及ぼす影響について後方視的に検討すること。【方法】対象は2014年から2018年に当院へ入院したLSA領域のBAD患者とし,早期群と通常群の2群に分けた。年齢,性別,BMI,脳卒中危険因子,脳卒中既往歴,発症前modified Rankin Scale(mRS),入院時National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS),発症から立位開始までの時間,入院時および転帰時の下肢Fugl-Meyer Assessment(FMA),転帰時Barthel Index(BI),転帰時Functional Ambulation Categories(FAC),進行性脳梗塞の有無,進行性脳梗塞例の離床前後の収縮期血圧,リハビリ実施時間,実施回数について調査した。【結果】早期群17名,通常群13名であった。転帰時の下肢FMAは入院時と比較して両群共に有意に高値であった。BIは両群間に有意差を認めなかったが,自力歩行獲得例は通常群と比較し早期群で有意に多かった。進行性脳梗塞は両群間で有意差を認めなかった。【結論】LSA領域のBAD患者に対する発症24時間以内の離床は,安全かつ運動機能,歩行能力向上に繋がる可能性が示唆された。今後は研究デザインやサンプルサイズを考慮したさらなる研究の実施が必要になる。
著者
山本 洋司 渡辺 広希 高田 祐輔 梅本 安則
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.615-623, 2020 (Released:2020-12-18)
参考文献数
38

【目的】脳卒中患者に対する早期離床を発症後48 時間以内の起立と定義し,有効性および安全性について検証すること。【方法】対象は脳卒中患者とし,早期離床導入前群(以下,導入前群)と早期離床導入後群(以下,導入後群)に分けた。主要アウトカムは退院時のBarthel Index ならびにmRS とした。副次項目は不動関連の合併症ならびに神経学的有害事象とした。【結果】導入前群110 名,導入後群93 名であった。Barthel Index は導入前群と比較して導入後群で有意に高かった。mRS(0–1) に該当する者は導入前群と比較して導入後群で有意に多かった。不動関連の合併症は導入前群と比較して導入後群で有意に少なかった。神経学的有害事象は両群間で有意差を認めなかった。【結論】発症後48 時間以内の起立と定義した早期離床は,脳卒中患者においてテント上病変ならびに保存的治療例で安全に実施可能で機能的予後を良好にし,不動関連の合併症を減少させる。
著者
山本 洋司 橘 武史
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
石油学会誌 (ISSN:05824664)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.325-328, 1997-07-01 (Released:2008-10-15)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

内燃機関の代替燃料として, メタンを主成分とする天然ガスが注目され, 我が国でも既に千台程度の天然ガスエンジン自動車が導入されている。しかし, メタンは炭化水素系燃料で最も燃焼速度が遅く, これが今後の改良の障害の一因となることがしばしば指摘されている。他方, 現在の火花点火機関の燃料の主流であるガソリンの燃焼速度の詳細にわたる報告はほとんど見当たらない。そこで, 高温•高圧下での燃焼速度も得られる球形容器法を用いて両者の燃焼特性の比較を行った。また, 燃焼特性改善のため, メタンに容積割合で20%水素を添加したものの燃焼速度も測定した。その結果, (1)常温, 常圧での燃焼速度はガソリンの方がメタンより若干速く, 過濃側での差が大きい, (2) 温度上昇に伴い燃焼速度が上昇する傾向は類似している, (3)圧力が上昇するに従い燃焼速度は低下するが, ガソリンの方がその傾向が強い, (4)定容燃焼終了時圧力はガソリンの方が10%程度高い, (5)メタンに水素を20%添加することで燃焼速度が約25~35%上昇するが, 傾向はメタンと基本的に同じ, であることが示された。
著者
山本 洋司 朴 光来 中西 康博 加藤 茂 熊澤 喜久雄
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.18-26, 1995-02-05
被引用文献数
14

Nitrate concentration and δ^<15>N value in the groundwater in Miyakojima islands, Okinawa, were measured during 1992-1993. Waters from the shallow and the deep wells at ten separate sites were sampled. Mineral contents and natural nitrogen isotope abundance (δ^<15>N) were analyzed using liquid chromatography and the mass spectrometry (Finnigan MAT 252). Except for the waters which were directly influenced by sea water invasion, most of the groundwater showed small variations among their mineral contents and δ^<15>N values. Average nitrate nitrogen concentrations were 1.4-l1.5 mg L^<-1> and average δ^<15>N values were+4.3-+9.7‰. From the nitrate concentration and δ^<15>N value observed, the type of groundwater could be categorized into four groups, such as high δ^<15>N and high nitrate, high δ^<15>N and medium nitrate, low δ^<15>N and medium nitrate, and low δ^<15>N and low nitrate, reflecting the main source of nitrate contamination, such as animal and domestic waste, animal waste and soil organic matter, soil organic matter and chemical fertilizer, and chemical fertilizer, respectively. It was discussed that the lowest δ^<15>N value was higher than the δ^<15>N value of the chemical fertilizers used in this islands ( -3.9- -1.4‰). Therefore, considerable amounts of nitrogen must be lost by ammonium evaporation or denitrification after fertilization.