著者
山部 能宜
出版者
東洋大学東洋学研究所
雑誌
東アジア仏教学術論集 = Proceedings of the International Conference on East Asian Buddhism (ISSN:21876983)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.329-382, 2021-02

伊吹 敦「山部能宜氏の発表論文に対するコメント」山部能宜「伊吹敦氏のコメントに対する回答」含
著者
山部 能宜
出版者
九州龍谷短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度の主たる成果は,以下の二点である.(1) 『観仏三昧海経』 (『海経』)の中心的テーマである「観仏」の修行は,仏像を用いた観想行であったと考えられるが,このような行法を明確に説くインド文献が殆ど確認できないことが,従来の観仏経典研究の上での大きなネックであった.ところが,『大宝積経』中に編入されている「弥勤師子吼経」(「師子吼経」)には,『海経』の記述と極めて類似した観仏行が説かれている.ここで,「師子吼経」のインド成立には疑問の余地がなく,かつ本経が『海経』成立段階で漢訳されていないことは重要である.『海経』が疑経であったことを否定するのは難しいので,以上の事実は,恐らくは『海経』が中央アジアで成立したということを示唆するであろうまた,「師子吼経」の背後にはさらに『維摩経』があったものと思われ, 『維摩経』にみられるような極めて哲学的な「仏を見る」思想が,「弥靭師子吼経」を経て『海経』に見られる極めて視覚的な行へと変化していったことが伺われるのである.(2) 『海経』にみられる陰馬蔵相をめぐる四つの説話は,極めて特異なものであり,他の仏典に類例を見ないものである.これらの説話には,明らかにインド・シヴァ派のリンガ崇拝の影響が認められるが,リンガ崇拝が中国では殆ど知られていなかったことは,上述の「師子吼経」の場合と同様の問題をはらむものであり,示唆的である.さらにまた,『海経』における陰馬蔵の記述には,リンガのイメージとナーガのイメージとの混淆が見られること,中央アジアの美術表現からの影響が伺われること,漢訳仏典にみられる要素の不用意な導入が認められること,天山地域に確認される生殖器崇拝が,これらの説話の背景となっていた可能性があることなどを指摘した.これらの諸点は,『海経』が中央アジアの多文化混在状況の中から生み出されてきたものであるとする私の仮説を支持するであろう.
著者
渡部 章郎 進士 五十八 山部 能宜 Akio WATANABE SHINJI Isoya YAMABE Nobuyoshi
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.20-27,

2004年には景観法が公布・施行され「景観」は法律用語になった。しかしそれ以前から,「景観」は様々な分野で使用された。それら異なった分野では,「景観」の語は導入の経緯や使い方も異なっている。本研究は景観用語と概念の変遷を専門分野別にたどり,明らかにしようとするもので,本報では特に地理学系分野について考察した。本稿で得られた結論は,次の3点にまとめられる。(1) 地理学系の景観概念は,ドイツLandschaft論の影響を強く受け展開されるが,ドイツでも概念規定が不明確で,地理学の本質論に関係する問題でもあるため,日本でも激しい議論がなされてきた。(2) 景観概念は「地域」か「風景」か,という問題で常に議論されてきた。景観概念の不明確さは,ドイツのLandschaftが地域と風景という,別のルーツを持つ2つの意味を持つ言葉であったことに由来する。また,類義語であるLandscapeや風景には地域の意味が存在しない点が大きい。(3) 近年は,自然地理学では,生態学と結びついた「地域」の研究,また人文地理学は,英語圏のLandscapeの解釈から「風景」といった人間を主体としたイメージや認識論からのアプローチによる概念研究がなされている。
著者
渡部 章郎 進士 五十八 山部 能宜 Akio Watanabe Shinji Isoya Yamabe Nobuyoshi
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.299-306,

景観法の公布(2004年)により「景観」は法律用語になったが,明確な定義はなされていない。景観は様々な分野で使用されているが,「景観」の語の導入経緯と用法は異なっている。本報では景観用語と概念の変遷について,造園学および工学分野における場合を辿ってみた。本考で得られた結論は,次の3点にまとめられる。(1) 造園学および工学における景観概念は,「景観」を計画,創出,管理していこうという立場からのものであり,実務的で行政との関係が深い。いずれも景観概念は環境と景観を結びつけた,いわば「環境の総合的なながめ」とされている。(2) 両分野における景観概念や技術は,法制度に組み込まれた風致・美観を実現するための理論からスタートした。景観は,自然景観と文化景観に大別されるが,造園学ではより自然の視点に,一方工学では文化(人工)の視点に比重をおいたアプローチが多い。(3) 両分野での景観概念は,視覚的環境が中心となっており,外観が重要視されている。「環境全体の良好な姿」を構築する方向での景観概念の展開がまたれる。
著者
森 雅秀 永ノ尾 信悟 高島 淳 冨島 義幸 原田 正俊 山部 能宜 松本 郁代 鷹巣 純 矢口 直道 西本 陽一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、アジアにおける仏教儀礼の形成と展開、変容をテーマに、さまざまな領域の研究者による共同研究の形式で進められた。参加した研究者はインド学、仏教学、歴史学、人類学、美術史、建築史、宗教学等の分野で、多角的な視点から研究をおこなった。そのための枠組みとして王権論、表象論、空間論、技術論、身体論という5つの研究領域を設定した。とくに顕著な研究成果として灌頂に関する論文集があげられる。代表的な仏教儀礼のひとつである灌頂を取り上げ、その全体像を示すことに成功し、儀礼研究の新たな水平を開いた。また研究の総括として、儀礼と視覚イメージとの関係についての国際シンポジウムを開催した。