著者
西本 陽一
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「周縁性」を中心テーマとして、社会的な周縁におかれた少数者集団が、自らが経験してきた歴史・社会的な苦境の中で、何を感じ、何を希望として抱いているかという問題の解明を目指すものである。具体的には、東南アジア大陸部北部から中国西南端にかけての山岳地帯に暮す少数民族ラフを対象として、歴史的・社会的な周縁化の過程の中で、彼らの間で起こってきた伝統宗教の改革・復興運動およびキリスト教への改宗に焦点を当てる。特に、「周縁性」の経験および「周縁性」への応答としての宗教変容や宗教運動についての、ラフ自身による語りの実証的な記録と分析とによって、その社会的な経験を彼/彼女らの視点にできるだけ近づいて理解しようとするものである。このような研究目的をもつ本研究は、(1)東南アジア大陸部山地における諸民族の政治・経済・文化的権力関係の歴史研究、(2)ラフの宗教復興・改革運動の研究、(3)村人自身の語りによる「周縁性」の経験の研究の3つの部分から構成される。このうち平成20年度には特に、(2)と(3)について研究を進めた。平成20年8月から9月にかけて、中国雲南省およびタイ国チェンマイ市にて現地調査をおこなった。研究最終年度にあたる平成20年度には、論文と学術発表を積極的におこない、成果の発表にも努めた。平成20年度末には、3年間の研究成果の報告書である『平成18年度〜20年度科学研究費補助金萌芽研究(課題番号:18652077)研究成果報告書「周縁性の経験-少数民族ラフの宗教変容と語り-」、研究代表者:西本陽一』(2009年3月31日、全302ページ、DVD付)を刊行した。
著者
西本 陽一
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.425-446, 2000-03-30 (Released:2018-03-27)

語りは語り手の歴史・社会的な背景によって独特のパターンやスタイルをもつ。語り手が自身について語る時, 意識は過去を振り返り, 過去は現在や未来との関連の中で秩序を与えられるため, 語りはつねに語り手の歴史意識に彩られる。一方, 語りは事物ではなく言説であり, 時にはそれが言及する現実からかなりの距離をもった定式化された語りとして繰り返されることもある。以上のような観点から, 本稿では山地少数民族ラフの「自嘲の語り」という独特のスタイルの語りが分析される。少数民族の間にはしばしば自嘲的なスタイルの語りが見られるが, これは彼らが多数民族の支配・圧力の下で暮らしてきた長い歴史の結果であり, 民族間の権力関係が内在化されたものである。現在北タイに暮らす山地民族ラフにおいて, 自嘲の語りはクリスチャン, アニミストの両方に見られるが, 前者においてずっと頻繁に聞かれる。しかしその一見否定的な自己規定の背後にはより肯定的な自己規定が存在し, これらがラフの両義的な民族意識を構成している。キリスト教会による長年にわたる「文明化」政策は, 自嘲の語りをクリスチャン・ラフの支配的言説となし, 人々に「知恵」の欠如こそが民族の今日の苦境の原因だと繰り返す。これに対して, 下層の村人による「舞台裏の」語りは, 間接的に, 含意によってラフ的なるものを評価する。日常の語りという実践行為の場において, 不均衡ながら2つの言説は対抗し, ラフの両義的な民族意識を再生産しているのである。
著者
森 雅秀 永ノ尾 信悟 高島 淳 冨島 義幸 原田 正俊 山部 能宜 松本 郁代 鷹巣 純 矢口 直道 西本 陽一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、アジアにおける仏教儀礼の形成と展開、変容をテーマに、さまざまな領域の研究者による共同研究の形式で進められた。参加した研究者はインド学、仏教学、歴史学、人類学、美術史、建築史、宗教学等の分野で、多角的な視点から研究をおこなった。そのための枠組みとして王権論、表象論、空間論、技術論、身体論という5つの研究領域を設定した。とくに顕著な研究成果として灌頂に関する論文集があげられる。代表的な仏教儀礼のひとつである灌頂を取り上げ、その全体像を示すことに成功し、儀礼研究の新たな水平を開いた。また研究の総括として、儀礼と視覚イメージとの関係についての国際シンポジウムを開催した。