著者
岡本 信司
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.367-382, 2009-05-25
被引用文献数
1

地域におけるイノベーション・システムの構築は我が国の重要政策課題であり,文部科学省の知的クラスター創成事業や経済産業省の産業クラスター計画等の地域クラスター政策をはじめ地方公共団体においても数多くの取り組みがなされている。これら地域クラスター政策の課題として,科学技術基本計画における重点4分野等への偏りが見られており,中央集権的志向,行政主導で地域特有の既存産業や中小企業家等のイニシアティブを促す「内発的発展」の姿勢はないとの指摘がある。一方,我が国には長い歴史と各地域の特性に立脚した伝統工芸産業があるが,需要の低下,新規市場開拓の問題,後継者難等の多くの課題を抱えている。これら伝統工芸に関する技術の中には先端科学技術に応用発展した事例があり,将来の地域イノベーション・システム構築に向けては,各地域の特性を生かした地場産業の一つである伝統工芸産業を基盤とした新たな展開が考えられる。本稿では,伝統工芸から先端技術への創出に向けた産学官連携活動を行っている京都地域と石川地域における活動の事例を分析して,地域における伝統工芸産業などを基盤とする科学技術を活用した「地域伝産学官連携」(地域における伝統工芸産業と大学,国及び地方公共団体,産業界との有機的な連携)の概念を導入した新たなイノベーション創出による地域活性化に関する提言を行う。
著者
岡本 信司
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3_4, pp.172-187, 2008-03-14 (Released:2017-10-21)
参考文献数
29

科学技術の振興を図るためには,国民の科学技術に対する関心を高め,その理解を増進することが不可欠である。2001年に実施した我が国の「科学技術に関する意識調査」において,科学的リテラシーに着目して分析を行った結果,以下のことが明らかになった。科学の基礎的概念の理解度については,先行研究の課題であった共通質問項目の少なさや調査年の相違を排除しても,我が国は欧米諸国と比較して低いレベルにあることが改めて明らかになるとともに,17ヵ国国際比較における主成分分析結果では,我が国は「学校教育での思考を要する知識」よりも「学校教育後の単純知識」に強く,他の欧米諸国とは異なる傾向を示していることが明らかになった。科学技術用語及び科学基礎的概念の理解度と科学的研究プロセスの理解度で構成される「市民科学的リテラシー」の構成比率については,1991年調査から向上しており,米国1995年調査と同等レベルにあり,パス構造解析により,市民科学的リテラシーは高学歴,男性が高く,18〜49歳でほぼ同じ構成比率にあることが明らかになった。さらに「科学技術に注目している公衆」との比較では,科学的リテラシーを高めることが直ちに科学技術に注目させることにはならないことを示す結果が明らかになった。これらの結果を踏まえて,今後の我が国の科学的リテラシー向上のための科学的リテラシー定量的計測手法について提言する。
著者
清水 欽也 岡本 信司 久米川 真紀
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 25 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.335-338, 2001 (Released:2018-05-16)

本報告では、科学技術政策研究所が行った成人3000人対象の「科学技術に関する意識調査」の結果 (科学クイズ16問と理科教育との関連について) を一部発表する。収集された調査データを分析した結果、我が国の一般成人の科学・技術知識について以下のことが明らかになった。①我が国の一般成人の科学・技術知識について、人口統計学的な属性 (年齢群、性別、学歴、居住区域の都市規模) にかかわらず広く理解されている「一般的知識」が存在する。② 我が国の中学校理科で扱われる内容は、「一般的知識」 の形成に深く関与しており、高校での内容は回答者の社会的属性に基づく知識格差が生じうる内容となっている。③ 平成元年改訂の学習指導要領に基づく、中等科学教育は、本調査に限れば、知識レベルの低下を引き起こしているとはいえない。
著者
岡本 信司
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.99-114, 2013-01-31

地域科学技術政策は我が国の重要政策課題として,これまで第3期科学技術基本計画等に基づき関係府省及び地方公共団体で関連施策が推進され,2009年9月の政権交代後には新成長戦略及び第4期科学技術基本計画において,地域における国立大学法人等大学の機能強化が推進戦略の一つとして位置付けられている。このような地域科学技術政策における大学への大きな期待に対して,国立大学法人については,運営費交付金・人件費削減,大学間格差等の問題提起もなされている。本稿では,地域科学技術政策において重要な役割を担っている国立大学法人に着目して,地域科学技術関連施策の中核である産学官連携施策が開始された1980年代から国立大学法人化を経て,これまでの地域科学技術政策での国立大学に関連する施策及び機能の変遷と国立大学法人化の課題について,産学官連携をはじめとした「大学開放機能」の観点から分析することにより,地域科学技術政策における国立大学法人の機能強化に関する課題と展望について考察した。その結果,今後目指すべき産学官連携と「大学開放機能」は「グローカル対応戦略的多角機能連携型産学官連携:総合的大学開放機能新展開期」であり,強化すべき大学機能としては,地域活性化に資する産学官連携支援人材等幅広い人材育成機能,地域に密着した個性と特色ある研究機能,地域連携における戦略的中核拠点機能であるとの示唆が得られた。