著者
伊藤 健吾 秋山 吉寛 近藤 高貴 岸 大弼
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

希少種カワシンジュガイの保全のため,宿主魚を多く養殖している養魚場の活用を試みた。その結果,養魚場のような高密度で宿主魚が生息している環境であれば,ごく少数の母貝から吐出されるグロキディウム幼生であっても十分な個体群を維持できることが明らかになった。また,幼生の寄生による宿主魚への影響を調べたところ,本調査地におけるカワシンジュガイの個体群維持に必要なレベルの寄生数(宿主魚一尾当たり数百)では成長率及び生残率には影響がないことが示された。以上の結果,イシガイ目二枚貝の保全には,水産業のような宿主魚を高密度で養殖している場所を積極的に活用することが非常に効果的であることが明らかになった。
著者
野崎 健太郎 紀平 征希 山田 浩之 岸 大弼 布川 雅典 河口 洋一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.165-172, 2005-01-30 (Released:2009-01-19)
参考文献数
33
被引用文献数
3 1

標津川下流域(北海道標津町)に位置する浅い河跡湖(最大水深2m)の水質環境(水温,水中光の消散係数,溶存酸素,窒素,リン,クロロフィルa)を2001年7月21日,11月17日,2002年7月30日に調査した.水温は7月には地点間,水深間で10~24℃の違いが観察された.11月にはほぼ5℃で均一であった.溶存酸素濃度は常に10mg L-1以上を示し,最大値は,25mg L-1,飽和度で250%に達し,2001年7月21日に湖底付近で観察された.高い溶存酸素濃度が得られた地点は,水深が60~100cmで,表層より水温が5~10℃低く(10~15℃),大型糸状緑藻Spirogyra sp.が繁茂していた.湖水中の溶存態窒素濃度は,4~250μg L-1の幅で変動し,7月に大きく低下した.リン酸態リン濃度は,7~14μg L-1の幅で変動したが,溶存態窒素に比べて変動の幅は小さかった.懸濁態のリン量は33~35μg L-1,クロロフィルa量は10~13μg L-1であり,おおよそ一定であった.夏期の湖水中の全リン濃度とクロロフィルa量は,この河跡湖が中栄養と富栄養の中間の水質を持つことを示した.水中光の消散係数は,1~2m-1であり,富栄養湖の最大値に匹敵した.湖水中のクロロフィルa量は富栄養湖ほど多くはないので,水中光を大きく減らしているのは,植物プランクトン以外の懸濁物質や溶存有機物であると考えられる.河跡湖周辺の原風景が低湿地であったことを考えると,この河跡湖は湿地に多く見られる腐植栄養的な性質を持つ水環境である可能性が高い.これらの研究結果から,河跡湖の水質環境は,現在の標津川本川とは大きく異なっており,むしろ,かつての低湿地環境が残存している場であることが推定される.
著者
徳原 哲也 岸 大弼 熊崎 隆夫
出版者
岐阜県河川環境研究所
雑誌
岐阜県河川環境研究所研究報告 (ISSN:18807437)
巻号頁・発行日
no.55, pp.1-4, 2010-03
被引用文献数
1

岐阜県内の渓流漁場のある漁業協同組合では、放流時点で漁獲制限体長を上回るアマゴ(Oncorhynchus masou ishikawae)やヤマメ(O. m. masou)を放流し、ただちに遊漁者に釣らせる、いわゆる成魚放流が行われている。この放流形態は、稚魚放流による増殖効果のみでは増加する遊漁者を満足させることができないことから、1970年代の一時期に岐阜県を含めいくつかの県で研究が行われ、在来マスの養殖技術の確立とともに普及していった。岐阜県の漁業統計上は1981年(昭和56年)の記録がもっとも古いものであり、本県の成魚放流はこの年から始まったと見なされる。成魚放流は放流量の割に漁期が短いことや、放流場所付近に魚が留まらないという問題があることが、遊漁者・漁業協同組合双方の経験から指摘されてきた。過去に行われた研究においては主に放流魚の回収率に主眼がおかれ、釣獲特性や漁期、放流魚の移動といった、総合的な成魚放流の特性そのものに対しての研究は行われてこなかった。これは、成魚放流が稚魚放流による増殖効果を上回る分を補填する補助的役割であったことや、自然河川の生産力を利用しない釣り堀的手法であり増殖事業とは言い難く、研究対象になりにくかったことが関係しているのかもしれない。しかし、本放流法は他の増殖法では遊漁者の要望を満せない現状では必要なものであり、放流告知場所に集まる遊漁者の数を実際に目の当たりにすれば、本放流方法の需要が高いことがよくわかる。このような実情から当所は効率的な成魚放流について方法論についての研究を進め一通りの成果を得ることができた。本報では、それ以外当所で行った成魚放流調査であるヤマメの成魚放流調査について、放流日や系統差が釣獲率におよぼす影響や、他魚種(ニジマス;O. mykiss)との混合放流を行った釣獲特性の結果について報告する。